おやつだけでは……
「うーん……じゃあおせんべいとか?」
「もうちょっと違う物が良いな」
「うんうん、おせんべい以外のしょっぱい物!」
一応元救世主と豊穣の神様だよね君たち?わがままだねぇ……
「その2人、おやつじゃなくておかずが喰いたいんじゃないのか?」
「「そう!」」
そうなんだ……
「えっとえっと、ハチ君のおやつは美味しいけど、おかずとかも食べたい!もっと言えばお弁当!」
「ハチの弁当は確かに喰ってみたいなぁ。まぁこれは最後に食べるデザートとして、先に少ししょっぱいおかずを食べてから喰いたいな」
めっちゃ大変な事言ってくるじゃん。でもここは何とかお答えしようか
「じゃあおかず単品かパンに挟んだ物のどっちか選ばせてあげます。どっちに……」
「「「パンに挟んだ奴!」」」
あれぇ?今ワリアさんも言った?まぁ、2つ作るのも3つ作るのも変わらないと言えば変わらないけど……皆結構欲に忠実だな
「分かりました。じゃあ、パンを切ったりするので、また少々お待ちください。その辺の物は少し冷やした方が更に美味しくなるとかありますからね」
コンポートを冷蔵庫に入れ、まだ調理中のモルガ師匠のおやつも急ピッチで進める
「ほら、2人にも少しくらいやるよ」
「おっおっ!ありがとー!」
「恩に着るぅ!」
「「うまぁ~」」
ワリアさんはやっぱり2人に肉巻きパイナップルをあげていた。まぁ、これであの2人は自分のおやつもワリアさんに渡すという大義名分が出来た訳だ
「にしても、ハチも凄い事になったなぁ?」
「え?何がですか?」
「いやいや……今自分が何してるか分かってるか?」
「料理……ですけど」
「スポンジケーキの焼き加減みつつ、ホイップクリームも混ぜて、3人分のパンを切って野菜やら肉やら同時に調理してるんだぞ?料理人にとっちゃそれだけの事を同時にこなせるって言うのはとんでもなく手際が良い奴だ。しかもハチ、お前多分まだ余力あんだろ?」
「え?まぁ、はい。まだまだいけますね」
今は深淵触手を用いて色々並行して調理している。割と真面目に深淵触手の動作練習にもなるし、食べたい物を作るとか実益もあるからこれもホントに良い訓練なんだけど、3人分なら正直使える深淵触手が若干余ってしまう。もう少し増えても問題はないけど、そうなると調理する場所が足りなくなるんだよなぁ
「これもある意味訓練みたいな物なんですよ。僕の命を預ける武器と言うか盾と言うか……いや、やっぱり見たままの僕の腕ですね。2本だったものを4本、6本、8本とドンドン増やしてる最中です。お陰でこのくらいの人数の料理なら僕は本を読みながらでもこなせますよ」
まぁ、その本を読むというのも、僕が知らない料理とかが出てきたときにレシピを見ながらとかの物なんだけど
「くぅ、羨ましいぜ!俺もそれだけ腕があればもっと色々作業をこなせるのに!」
腕が6本になったワリアさんが鍬3本を持って畑を耕している姿が頭の中に想像出来た。これが10本とか16本になったらそれこそトラクターみたいな事になりそう。あぁでも、一番単純な物だと収穫作業とか腕が増えれば楽になりそうだな
「その分頭結構使いますけどね」
「あぁそっか。それだけの腕を動かすとなると頭大分使いそうだなぁ」
「最初は訳分からなくて大変でしたけど、認識さえしっかり出来れば普通に自分の腕を扱うのと一緒になりましたよ」
増えた瞬間はそれがどうしたら動かせるのか分からなかったけど、慣れたら普通に自分の腕を動かすのと変わらない。目を閉じても自分の腕の動かし方が分からなくなる事は無い。やっぱりリハビリの腕や足の動かし方の再理解とかが案外効いているのか?
「ねぇねぇ、自分の腕増えて扱えると思う?」
「いやいや、普通は腕増えるって感覚が無いでしょ……魔力ならある程度は分かるけども」
「じゃあじゃあ、ハチ君のあの腕は私達にとって、魔力を練って形にするみたいな事なのかな?それなら少しは納得出来るかも」
「あぁ、確かに。魔法で物取る時とかイメージでパパッと取っちゃうけど、それをハチはあの黒い腕を伸ばして取るみたいな感じと思えば案外理外の存在じゃないかも」
今、理外の存在とか聞こえて来たけど、僕の事じゃないよね?神様に理外の存在とか言われるとどうしたら良いか分からないよ?
「どういう話をしているかは知りませんが、せっかく作ったBLTサンドが要らないなら僕が食べますけど……」
「「「頂きます!」」」
恐ろしく速い奪取。僕じゃなきゃ見逃しちゃうね
「皆速いなぁ」
「美味しい!美味しい!」
「これはまた素晴らしい味のコンビネーション!」
「冒険してた時を思い出す味だ……こういうの俺も作ってたなぁ」
ワリアさんは確かにBLTじゃなくてもサンドイッチは作って食べていただろうな。でも気に入ってもらえたみたいで良かった
「皆満足してるみたいで何より」
ひったくられる様にサンドイッチは持っていかれたけど、キチンとお礼は言ってくれるから作った側としてはそれだけ早く食べたかったんだと思えるから割と嬉しかったりする




