天使交渉
「お、お久しゅうございます!」
焦って変な返事をしてしまった。まさかこんなところで出会うとは思っても居なかった
「うむ、変わりない……訳では無いな。君は常に進化し続けているだろう。だが、元気そうだな」
「はい!元気にしています!」
過去の戦争イベントで共に戦い、最後は時間稼ぎの為に一緒に勇者軍を騙した仲の魔王バルミュラ様。僕が矢面に立って偽魔王をやり、本物の魔王バルミュラ様は世界を救う為に神になるとは言っていたが、まさかこんな所でまた会う事になるとは……色んな感情が噴き出してきそうになるけど、一旦抑えて会話を続ける
「無事に神になられたみたいですね」
「あぁ、君のお陰だ」
本当に神々しいバルミュラ様にそう言われると嬉しくもなってしまう
「あ、あの……もしかして、主神様のお知り合いなんでしょうか?」
「そうだ。私が世話になった大事な人だ。失礼な事などしていないだろうな?」
「………は、は、は、はい!してません!」
いやぁ、寝てる間に連れ去って牢屋にぶち込んで失礼な事をしてないは流石に無理があるんじゃない?
「まぁ、気にされる様な事はされてませんよ。ちゃんと食事とか持ってきてくれましたし、その辺は感謝してますよ」
「お前……」
バルミュラ様はこの程度で怒ったりはしないとは思うけど、一応ジェリスさんの後輩でもあるだろうし、庇っておく
「本人がそれで良いのであれば不問に処そう。ハチは寛大だからな」
「ありがとうございます!」
土下座してからコッソリこっちにサムズアップする後輩天使。バルミュラ様もそれには気が付いていて、バレない様にこっちにウィンクしてきた。2人共隠れながらやってるのなんか面白いな
「して、そちらのお三方は、ハチを連れ戻しに来たのであろう?」
「そうだが?」
「そうですね」
「ハチさえ、連れ帰れるなら何も問題ございません。ハチ、元とはいえ後輩が失礼な事をして申し訳ない」
一応神だからウカタマは対等な感じで、飯綱さんはこの場においては後輩天使と同じくらいの立場?だからかウカタマに追従して答えている。ジェリスさんが僕に謝るとそれを見ていた後輩天使がまた驚いた表情をして、ジェリスさんに近寄っていく
「ちょちょ!なんで先輩が謝るんですか!今回の件は先輩は関係ないじゃないですか。私が勝手にやって失敗したんですから」
「いや、こんな事になってしまったのだから後輩の指導が至らなかった私の責任だ。既に天界の天使は辞めた身だが、罰があるなら受けよう」
「そんな!」
んー、ジェリスさんの言い分もなんとなく分かるけど、それは大分ブラック寄りの思考なのでは?前に勤めていた会社のシステムを作って解雇されてからシステムに異常が出て、会社に戻って直せって言ってる様な物じゃないかな?
「バルミュラ様。少し相談したい事があるのですが、進言よろしいでしょうか?」
「うむ、申してみよ」
こうなってしまったらもう、その道を進んで行くしかないだろう
「バルミュラ様もお忙しいとは思います。ですが、こちらの天使まで監督しきれず、暴走した結果。人を天界に連れ去るという暴挙が発生したと思われます」
(単刀直入に言いますが、あの天使うちで面倒見たいんですが、可能ですか?)
「うっ、すみません……」
「…あぁ、確かに新神の私のミスだな。すまない」
(なるほどな。そういう事か)
イベントの時を思い出すウィスパーでの裏のやり取り。これのお陰で周りを巻き込むのが凄く簡単になるんだよねぇ
「ただ、その原因はバルミュラ様ではなく、辞めてしまった先輩を心配しての事。なので、この件でバルミュラ様が悪い事は無いと思われます」
「そう言ってもらえると助かる」
とりあえず前置きはこのくらいにしておこう。非が無い事をまず知らしめないと
「そして、これはただの私見なのですが、こちらの天使。今はかなり仕事の効率が落ちているのではないかと思われますが、そこのところどうでしょう?」
「え?まぁ……先輩が居なくなって仕事が手に着かない事は増えましたが……」
やっぱり。学校で、好きな先生の授業と嫌いな先生の授業ではやる気が違うというか、職場でも良い先輩が居るかどうかで働き方も違うだろうし、その先輩が居なくなったとしたらやる気が出ないのも仕方がないと思う
「提案なのですが、こちらの天使を私めの所に派遣するのはいかがでしょう?」
「はぁ!?」
「派遣とな?」
「居ても仕事が出来ない、むしろマイナスになる行為をする者にこの場で仕事を続けさせるよりも、環境の変わった場所で仕事をさせた方がプラスになると思いますが……憧れの先輩ともまた仕事出来ますよ?」
「主神様!お願いします!私をこちらに派遣してください!ここで仕事をしていても役には立ちません!」
い、言い切ったぁ……
「だが、それではこちらに利が無いのではないかな」
「はい。このままではそちらに利はありません。なので、ジェリスさん。たまにこちらでバルミュラ様の仕事の手伝いをしてあげて欲しいのですが、よろしいですか」
「分かりました。それで問題ありません」
実は多少は未練みたいなのがあったとかあるかもしれないから、ジェリスさんに天界に来る口実を作ってみたけど、ジェリスさんに問題はないみたいだな
「それはありがたい。世界の管理とはいえ、現地の声は可能な限り聞きたい。それが出来るのであればたまにでもこちらに充分な利になる」
「分かりました。ではそちらの天使はこちらの空島で身を預かります。もちろん、必要であれば呼び戻しても構いませんので」
「分かった。ではそれで決まりだ」
これでこの後輩天使はジェリスさんと一緒に居れるからそれなりに仕事出来る様になるんじゃないかな?




