川渡り
「ふぅ、いやぁワリアさんには悪い事しちゃったな」
キリエさんに呼び出されていたのでワリアさんには申し訳ないが、「これ、無人島で取って来た種と苗詰め合わせです!すみません!他の人に今呼び出されてまして……」と渡したら笑って許してくれた。「引っ張りだこなのは良い事だ」と言われたけど、礼節的にはあまり良くない。後でまたちゃんと話が出来る様に戻ったらしっかり時間を作ろう
「お待たせしました。で、何をお手伝いすればよろしいでしょうか!」
相手を刺激しない様に、出来る限り早く要件を終わらせられる事が出来る様に回りくどい質問とかせずに単刀直入で聞く
「あら、思っていたより早いじゃない。それじゃあ行きましょう。サーディライで再合流よ」
最初に集まったのはフォーシアスで、そこからサーディライに移動という事で不思議に思ったけど、もしかして尾行とかを気にしているのか?
(本当に行くのはシクサームね)
(…了解です)
これはガチで尾行を気にしているっぽいな。そういえばチェルシーさんが調査と言う名目のストーカーとか凄く簡単に出来そうなアイテムを入手していたし、その辺を気を付けているんだろうか?
「よし、もう良いわ。それじゃ行きましょ」
「はい」
召使いよろしく、なんでこういう事をするのかとかは聞かずにキリエさんについて行く。これは正直合っているのか間違っているのかは分からないけど、妹のキリアさんじゃなくて僕に頼みたいという事は多分何か大変な事をさせられるのは確定してるんだよなぁ……
「さ、ハチ。私を持ち上げてくれるかしら?」
「少々お待ちください。このままだと僕死ぬんで」
シクサームの街の外を進んで行ったら川があった。おかしい。この見渡す限り雪ばかりのシクサームで水が流れているなんて正直怖い。この水とんでもなく冷たい気しかしない。なんとなく要件は分かった。川の向こう。と言うか中州の部分が目的地らしいけど、そこに行くために僕が川の向こうまでキリエさんを運ぶのが今回のお手伝いか。いやぁ、これヤッバイお手伝いですぜぇ?
「へぇ?ハチでも殺せるんだ?」
「いやまぁ、死なないかもしれませんが、流石にいきなりこんな冷たい水の中に入るんですから、キリエさんが濡れない様にする為にも準備が要りますよ。キリエさんバランス感覚って良い方ですか?」
「まぁ、バランス感覚はあると思うわ」
「それなら何とかなりそうです。【アダプタン】」
寒冷地の水中作業になると考えると中々大変だけど、シロクマコスチュームに着替えて、【アダプタン】で更に寒冷地向けの対策をして、川の中に入る。大分冷たさはカットされてるけど結構冷たい。深海より冷たいんだなぁ……かなりヤバいなこの川
「それじゃあ持ちますよ。一応足を固定しておきますけど、バランス崩しちゃいそうになったら僕を踏み台にしてどっちか近い方に跳んでください。そんな恰好のキリエさんなら川に落ちたら一発でアウトになりそうなので」
細部が変わっているとは言え、過剰な露出の悪魔系装備だ。こんな冷たい川に落ちたら……まぁ大変な事になるだろう
「ええ、一度手をつけてダメージを負ったから分かっているわ」
ダメージを負う程冷たいのはまずい。僕、大丈夫かな?
「……じゃ、肩に乗ってください。あ、靴は一旦脱いだ方が安全かもしれないですね。ヒールだと、バランス取るの危ないでしょうし」
「……それもそうね。川に落とされたくないし」
そもそもヒールで肩に乗られるのはかなり痛いだろう。僕はハスバさんじゃないから遠慮させてもらう。バランスを取りやすいという名目でヒールを脱がせる事に成功したし、これで特に何も起こらなければ無事にキリエさんを中州まで送れるはずだ
「では行きます」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
「はい?」
「肩車とかする訳じゃないわよね!?」
肩車?そんな事したって足の位置が低くなるんだから意味が無い
「それはしませんが、肩車苦手なんですか?」
僕も小さいから肩車の上の経験ばかりだけど、肩車している事を忘れて玄関で顔をぶつけるとかそういう経験でもした事あるのかな?
「……あ、足が濡れちゃうじゃない!」
うーん、あまり肩車に良い思い出が無いみたいだな
「本当は肩の上に立ってもらいたいんですが、ちょっとこのシロクマの姿だと肩に足を乗せるのも大変そうですから、両手の上に立ってもらいます。バランスを崩しそうになったら頭を掴んでも良いんで」
「……それなら問題無いわね」
肩車じゃなくて、組体操みたいに人の上に人が立つみたいな形で移動を考えていたけど、シロクマコスチュームの頭のサイズだと若干肩に足が乗せずらいだろうし、両手を上に掲げ、その上にキリエさんに立ってもらう事で何とか対応しよう。これならキリエさんも問題ないはずだ。バランスを崩さない様に頭を掴まれても良い事にしてしまえば多分向こうまで行ける
「15mまでならッ!」
「何言ってるの?」
「いえ、なんでもありませーん……」
まぁ、水面を足が沈む前にもう片方の足を出す訳じゃないから、15mも何もない。キリエさんを上に掲げた様な状態で川に入り、中州を目指した




