ちねる
「これは、パン?」
「んー、まぁパンと言えばパンっぽいけど、お米ってレイさんは知ってる?」
米自体割と供給自体は多くないだろうから、知らない人は知らないかもしれないし、一応聞いてみる
「米は、知ってる」
「そのお米を小麦粉を使って再現する為に今は生地を作ってる感じだね。これをちょっとずつ、こういう粒状にしていくんだよ。地味な作業だけど、この苦労をしてから食べるご飯は身に染みるんだよね」
テレビの特集に出ていたあのチネリ米。自分も真似して作ってみたけど、やっぱり時間が掛かった分だけやり切った感があって凄く美味しく感じた。まぁただ小麦粉と水だけだからほとんど味とか無いんだけど……味付け次第で普通にお米と遜色ないレベルだったから今回も何かしら味付けして食べよう。ゲヘちゃんに任せれば火加減とか気にせずに探索とか行けるかな?
「そうなんだ」
「そうなんだよ。後でちょっとやってみる?地味でつまらないかもしれないけど……」
これに関しては本当に根気が必要だからつまらなかったらすぐにやめてもらって構わない。もとより僕とリーが食べる分の料理を用意するくらいの気持ちだったし
「よし!生地はこのくらいで良いか。レイさんもやるって言う事ならイスとテーブルも用意しようか。じゃ、木を切ってくるからリー。この生地を持ってて」
鍋の中で捏ねた生地をリーに任せ、近場にあった木を触手で切り倒す。大雑把な作業だし、深淵触手でパパッと厚めの板を切り出して天板にしよう。4本足のテーブルにしようとしたら面倒だし、板2枚をクロスさせたうえに天板を置く形で作れば早くて良いか
「黒武、白武ちょっとお手伝いよろしく!」
『りょーかいです』
またパンドーラで黒武と白武を呼び出し、今切り出した天板と足用の板2枚を運んでもらう。椅子に関しては木の輪切りで即席チェアにしてあっという間にテーブルと椅子の完成だ
「これで準備出来たから早速始めよう。リー、生地を」
「……!」
どうぞっ!と言わんばかりに両手でこっちに差し出す様に生地の入った鍋を渡して来た。若干膨らんでいる様な気がしないでもない
「じゃあ、まずはどうやるかの見本をみせるね」
鍋の中の生地からまず右手でつかめるくらいの量を掴み、左手で小さい一粒にしてテーブルに並べる……これで1回だ
「こんな感じでこの生地を粒にしていくんだ」
「……過酷そう」
「無理だと思ったらすぐやめて良いからね?」
「美味しい物。食べたい」
「そっか、ならお手伝いよろしく!」
死んでてもやっぱり味を感じる事が出来るなら食べてみたいと思う物か。じゃあ日が暮れる前にさっさと始めようか
「「「「「……」」」」」
今現在僕、レイさん、リー、白武と黒武の2人の合計5人で絶賛チネリ中だ。僕とレイさんでまずチネリ始めたけど、リーが暇になってしまって、チネリを教えた。全員集中しているのか無言である。僕も出来るだけ時短をするために深淵触手も使ってチネっている。黒武と白武も最初はそれこそ大きすぎてお団子みたいになっていた物をチネリ米の状態にするまでちょっと時間が掛かったけど、これのお陰で戦力が増えてリーにもやり方を教えてあげたら2人から5人にチネリストが増えたお陰でかなり早くなったと思う。最初は戦力にならなかったけど、教えたらちゃんと出来る様になったので、とてもありがたい。皆集中しているから誰も何も言わずにずっとチネっているけど、こういうもくもくと作業するのも良いよな
「昔は冒険者してたけど……」
ずっとチネリ作業をしていたせいか、レイさんが話始めた。一瞬動きを止めてしまったけど、せっかく何か語ってくれるというのなら黙って聞こうじゃないか
「こういう作業はした事無かった。戦うのも良いけど、こうやって同じ作業を繰り返すのも意外と楽しい」
「そっか。楽しんでくれてるなら良かった」
何か昔話でも来るかと思ったけど、普通にこの作業楽しいとかの話だった。いやまぁ、こうなると次は僕の番か
「僕は……この作業は色んな感情が入り混じるんだよなぁ。確かに最初は楽しいんだ。で、どんどん完成した机に並べた物を見ると壮観で、やり切った!って気持ちになって、食べる前の調理段階であの作ったチネリ米があっという間に鍋に消えてしまうのはある意味悲壮感を感じるし、食べた時は美味しいから幸福感も感じる。だからレイさんにももっと色々楽しんでもらえるように頑張るよ」
特に何かこれと言って面白い話とか持っている訳ではないので、ここはちょっと適当に流す。ここで何か面白い話とか出来れば良かったんだろうけどね……
「ああいうの、いつもしてきたの?」
「ああいうのって?」
とりあえず完全沈黙状態から少し喋る様になったので、このまま作業をしながら会話を続ける
「変装したり、自分の正体隠したり?」
「あぁ、その事ね。色々と僕なりに楽しもうと思って行動した結果ああいう方法が一番楽しそうだと思ってやってるんだ」
普通に皆と協力しても良いんだろうけど、やっぱりこういうイベントで誰か1人に頼り切るのは良くないだろうし、皆で協力してやり切ったという達成感を味わっている所を考えると、それを裏で調整したという達成感が凄い。我ながら捻じ曲がっているとは思うけど、一度決まったらやみつきになっちゃう感覚だ
 




