小悪魔との交渉
「もうそろそろ塩が出来るかなぁ?」
水分量が大分少なくなってきた。鍋の縁にも少し塩もついてるから火傷しない様に気を付けてちょっとだけ取って舐めてみる
「ちょっと苦いな……あ、そうか。にがりの成分が混じってるから苦いのかな。んー……絞るか。にがりが勿体ないけど、スライムゼリーで乾燥を試みるか……」
でも、スライムゼリーは水分しか飛ばせないだろうからにがりの成分自体は残っちゃうか。まぁ、ゆっくりやっていこう
「さてさて、どうしようかな……」
「何が?」
「塩が出来るのを今待ってる最中ですね」
「そう。じゃあそれが終わるまで待たせてもらうわ」
「別にそれは良いんですけど、なんで僕の後ろで銃を構えてるんです?」
塩を作っていたら後ろにキリエさんがやってきて、僕に対して銃を構えている
「別に構わないでしょ?どうせ当たらないんだから」
「えぇ、別に構わないですけど。何か御用ですか?」
別に撃つ気も無ければ、何かをするつもりも無いけど、何となくこっちに銃口を向けているだけだ。危ないと言えば危ないけど、【察気術】でトリガーには指を掛けていないから弾は撃たれないのは分かっている
「ただ見かけたから声を掛けただけよ。まぁいつかハチを倒す為には後ろから行った方が良いのか、案外正面から行った方が良いのか。そのくらいしか考えてないわ」
僕を倒す事を考えて後ろから来たって中々な事言ってる気がするなぁ……
「うーん……それならこんな至近距離じゃなくて僕が探知出来ない距離から狙撃とかした方が良いかもしれないですね。まぁ、狙撃1発ではやられませんが。あ、お茶どうです?意外と美味しいですよ。そこに置いてます」
鍋にこびりついた塩を集めながら松茶をオススメする。パウチだけどキリエさんは飲めるだろう
「あら、気が利くじゃない。頂くわ」
お茶をオススメした事でやっと銃を仕舞い、僕の視界の端に座った
「あら、苦みは強いけど中々良い香り。この香りは……松?」
「おっ、鋭いですねぇ。松の葉から作った松茶です。若い緑の葉を茹でればこれが出来るんで、もしやってみるつもりがあるならどうぞ」
「そう。覚えておくわ」
うーむ……何となくもう少しでしっかりとした塩になりそうだ
「おっ?加熱を続けていたらいきなり変化するのか。にがりは入手出来ないけど、これで塩が手に入るのはもの凄い楽だな。流石に無人島で豆腐は作らないからこれはこれでありがたいな」
「何?無人島で塩を作る為にやってたの?」
「はい、僕1人だとしても、他の人と合流したとしても、調味料が有るか無いかで作られる料理は結構違いますからね。無人島で楽しく過ごすにはまず食事からかなって」
心の余裕を保つというのもあるけど、どうせ食べるなら上手い飯だ
「アンタ本当に現代人?」
「失礼ですね?バリバリにスマホとかパソコンとか使う現代人ですよ」
サバイバルの知識を集めるのだってそういう物が無いと集められないし……
「まぁ、ハチのお陰で勉強は何とかなったから確かに現代人なんだろうけど……」
「なんでそこ疑問形なのか分かりませんね」
良く分からないなぁ……とりあえず魚の内臓を取り除いて軽く塩を振って焼いて食べよ
「あのね?普通の現代人は魚を捌くのすら苦手なのよ?そういうのは料理人の仕事でしょ」
「え?自分で釣って捌いたりしないんですか!?」
料理人の仕事?それはそれでなんかおかしくない?
「魚は料理人に持ち込んで調理してもらうのが普通でしょ?」
「ん?」
なんだか齟齬を感じる……けど、魚は切り身で泳いでいると思う子供が居るとかの話を聞けば僕は現代人……とは言い切れないのかもしれないな
「まぁいいや。とりあえず魚食べます?」
「せっかくならそっちも頂くわ」
適当に取ってきた魚だけど、毒とかは無いだろうから問題無いだろう
「そういえば何か用があったんじゃないですか?」
「そうね。忘れる所だった。ハチ。ちょっと私と付き合いなさい」
「良いですよ。何処に行けば良いんですか?」
ここで勘違いなんかしない。絶対こういう場合の付き合えは付き添いの意味だ
「……面白くないわね。まあ良いわ。フィフティシアの領主とギルド長がハチに会いたいらしいわ」
「えぇ……絶対面倒な事になりそう」
そういえば前に孤児院で悪魔祓いをして領主とのコネみたいなのが出来たっけ……その時の繋がりか何かで僕に話が回って来たか?
「とりあえず一回来てくれる?それだけで私に報酬が来るのよ。最近ちょっと要り様なの」
この感じ……門番さんの時もそうだけど、僕が行くだけでお金が発生するって何なんだ?皆僕の事珍獣か何かだと思ってるのか?
「僕にメリット無くないですか?」
「1つ。ちょっとした情報を入手したのだけど……その情報と交換でどうかしら?」
「その情報。もう少し聞かせてくれません?僕が知っている情報だったら僕が損するだけなんで」
とりあえずの牽制。これで情報を少し引き出せるかな?
「仕方ないわね。山の中に籠ってるおっさんが居るらしいわ。ハチならこれ以上の情報を与えたら勝手に見付けそうだからここまで。どう。私の話は受けるの?受けないの?」
確かにその情報だけなら、どの山のどの辺りを探せば良いか分からない。商売上手だなぁ
「良いでしょう。話をするだけなら問題無いです。じゃあフィフティシアの泉でもう一回集合しましょう」
「交渉成立ね」
面倒な事になるかもしれないけど、なんだか面白そうな情報を入手出来そうだしここは乗ってみよう
 




