鍛冶入門?
「その金属は……!?」
「さーて、とりあえずこれを火の中に突っ込……」
「お前ふざけんなよ!?そんな事したら!」
一応ミスリルの加工法はオートマトン達に聞いている。そして、いきなり熱しても意味が無いのも知っている。あえて、そうしているとギアルクさんが止めてきた
「ちょっと、何するんですか。せっかくこれから包丁を作ろうと思ったのに……」
「バカ野郎!ミスリルなんて貴重なモンを打つならしっかり準備しねぇと鍛冶の神様に顔向け出来ねぇ。全く、何でそんなモン持ってんだ……少し待ってろ」
そう言うとギアルクさんは手早く掃除をして、何処かからお酒とか、榊みたいな何か神棚にでも奉りそうな物を用意して炉に拝んでいた
「うしっ!これで良しと!」
「えぇ……」
準備した段階だと、これから神様にお祈りするから綺麗に準備したのかと思ったら特に祝詞的な物も無く、ただ一礼二拍手でパパっと済ませてた。そういう流儀なのか分からないけど、それで良いんだ……
「とりあえずこれで清めたからミスリルは使っても良いが、お前いきなりそんな事をしたらせっかくのミスリルが……ってなんじゃあこの純度はぁ!?」
「いきなり火に入れるなんて事はしませんよ。まずはしっかりミスリルに魔力を込めてからじゃないと加工も何も出来ないじゃないですか」
「お前なんで知ってるならいきなり火に入れようと……いや、俺を試したな?」
「はい。僕が使いたい素材の事を知らないのなら貴方に学ぶ事は無いかなと思ったので」
これで止めなかったのなら本当にただ道具の作り方を見て帰る所だったけど、止めたという事はミスリルを知っているという事になる。これはこの人の所で作るのもアリかも
「ですが、貴方の事は信用出来そうです。今までの無礼をお詫びします。申し訳ありませんでした」
「な、なんだ?急に……」
「今まで失礼な態度を取っていたと自覚しているので、謝ってます。悪い事をしたら謝るのが普通ですよね?」
「お、おう……こっちも態度が悪かったな。すまん……」
よしよし、これで会話しやすくなるかな
「僕が聞いた情報だと、ミスリルも最初の手順をキチンと踏めば普通の金属と同じ様に加工出来ると聞いたんですが、合ってますか?」
「あぁ、それで合っている。ただ、これだけ高純度なら熱はそこまで加えなくても良いな。ミスリルは熱を加えれば完成品自体は強くなるが、力をかなり弱くしないと加工中にぶっ壊れる。鍛え抜かれたドワーフにとっても高純度ミスリルは中々扱うのが難しいブツだ。熱量には気を付けろよ」
む?力をかなり弱くしないと加工中に壊れる……
「それって技術力が筋力を上回っていれば何とかなるんですかね?」
「うーん、一応は何とかなるんじゃないか?俺らドワーフはとんでもなく硬ぇモンとかも扱うから鍛えているせいでミスリルは扱えない訳じゃないが、事実そこまで得意じゃねぇ。そう言った事であれば腹立たしいが貧弱なエルフ共に軍配が上がると言っても間違いじゃねぇ。だが、それは武器や防具に限る。威力を上げる必要も、防御力を上げる必要も無い道具であれば俺は負けねぇ!」
あ、コンプレックスか何か刺激しちゃったかも……というか、さっきの話だとミスリルみたいな魔力を扱う素材だとエルフの人の方が得意なのか。鍛冶と言ったらドワーフ!ってイメージだったけど、それは場合によるのかもしれない。凄腕のエルフの鍛冶屋さんとかも居るのかな?
「分かりました。まぁそういう事なら……とりあえずじっくり火に入れましょうかぁ~」
魔力を込めたミスリルを炉に入れてガッツリ休憩モードに入る
「おいお前!今の話聞いてなかったのか!?火に入れ過ぎたら加工出来なくなっちまうって言っただろ!」
「いやいや、まだまだ行けますよ」
「正気かお前……ぜってぇ失敗するぞ?」
ミスリルが真っ赤になるまで熱する事にする。むしろこれからする事を考えたらちょっと熔けてるぐらいが丁度良いんじゃないかな?
「お、おいおい……お前、そんな状態で本当に出来ると思ってんのか?そんなモン絶対形になんねぇぞ?無理は言わねぇ。一旦そのまま冷やしておけ。そうしたら多少はやりやすくなる」
「そろそろ良さそう……無理って言われたら余計にやる気出ちゃいますねぇ?【リブラ StoX】【オプティアップ DEX】【オプティダウン STR】」
力を込め過ぎたら壊れちゃうというのなら可能な限り力を抑えて器用さを上げれば良いという事だろう。もはや非力というレベルまで力を抑えるならミスリルが熔けるくらいまで熱した方が良い気がする
「よーし、やるぞー!おぉ……」
鎚をミスリルに打つと、キィィンと心地よい高音が響く。こんな良い音なるんだ
「コイツ……マジで打てるのか?」
「いやぁ、これ良い音鳴るなぁ」
キィィンキィィンと良い音が出る。打つのが楽しくなってくるな
「おぉ!段々楽しくなってきた!鍛冶も良いですね?」
「あんな状態のミスリルを平然と打ってやがる……なんて奴だ」
ミスリルをガンガンに熱したからか、結構思い通りの形になってくれる。もしかして、普通の金属よりもこのミスリルの方が色々と形状は作りやすいのか?案外、僕にとって鍛冶の入門はこのミスリルだったのかも?




