始まりの事故
放課後の帰り道、目の前の横断歩道は歩行者側の信号が赤。僕より前に横断歩道で待っていたのは同じ高校の制服を着た女子生徒だけど、後ろ姿で誰かを当てる程その女子生徒の事なんて分からない
肩が若干上下していたり、頭が微妙に左右に揺れているから音楽でも聴いているのだろう。別に家に帰るのを急いでいる訳でも無いしその女子生徒の後ろで立っていればすぐに信号も変わるだろう
「もうちょい、伸びるかなぁ……」
多分イヤホンで音楽を聴いているだろうから僕の声は聞こえていないだろう目の前の女子生徒を見て自分より高い身長に自分の身長がもう少し伸びるかなぁと考える。おっといけない。ネガティブ思考は良くないぞって父さんがいつも言ってたな……ん?よく見ると僕が小さいのもあるけどこの人のスタイル凄いな?まるでモデルの人みたいだ……
考え事をしながら信号が変わるのを待っているとやっと信号が青になる。歩き始める目の前の女子生徒と僕
ゴォォォォ!!
歩いている途中で妙な音が聞こえたので音が聞こえた方を見てみると車がこっちに向かってアクセル全開で迫っていた
「なっ!?」
運転手は気絶しているのか死んでいるのか分からないがハンドルは握られていない状態でもたれ掛かっていた
真っ直ぐとこっちに向かってくる車に気が付いた僕は即座に引き返そうとしたのだが、目の前の女子生徒はイヤホンで音楽を聴きながら歩いていたのか気が付いていない。というか今から気が付いてももう遅い
その時僕は名前も分からない女子生徒に悪いと思いながらも突き飛ばした。後ろから突然飛ばされた女子生徒は怪我してしまうかもしれないが、死ぬよりは良いだろう
女子生徒を突き飛ばした直後、車の動きがゆっくりに見えた。これがタキサイキア現象って奴なのかな?不思議と焦りとか恐怖は無かった
体に衝撃が走る。実際の時間だと数秒も無いんだろうけど足や胴体に車が当たる瞬間が見えて吹っ飛ばされた。ただでさえ車が当たっただけで痛いのに運悪く吹っ飛ばされた先に街灯があって背中からぶつかったのが分かった所で僕は意識を失った
「……ん」
目が覚めたら白い天井が目に入った。体が全く動かない……
「あっ!」
目だけ動かして周りを確認しているとナース姿の人が見えた。ここは病院のベッドの上か……僕が目覚めたせいなのかナースの人も何処かに行ってしまった
ナースの人が何処かに行ってから1分も経たないで白衣の人が入ってきた
「おい、喋れるか?」
「あ……え……?」
「まだ無理そうだな……無理すんな?自分が誰か分かるか?分かるなら瞬き1回、分からないなら2回してくれ」
自分が誰かは分かる。僕の名前は石動影人16歳だ。自分の事は分かるので瞬きを1回する
「自分の事は分かるんだな?一応確認するがこっちの資料だと石動影人……だが、自分の記憶してる名前と合っているか?」
瞬き1回で返事をする
「よし、それなら今の自分がどうなってるか分かるか?」
ベッドで寝ているけど体が動かない以外分からないので瞬きを2回する
「……ショックを受けるかもしれないけどいずれ分かる事だから先に伝えておく。今回石動君は交通事故に遭って脊髄を損傷、首から下が動かない状態になってしまった」
心のどこかで事故に遭った時からこれはタダでは済まないと思っていたからなのかそこまでショックでは無かった。目覚めて体が動かない、そしてさっきショックを受けるかもしれないと言った時に「だろうな」と見当がついていた。だが、言葉にされると不思議と勝手に涙は流れるものだ
「すまない、こんな事を聞かされて冷静ではいられないよな……やっぱ慣れねぇな……」
言葉の節々からこの人が喋り方を無理してるんじゃないかと思ったので瞬きを2回する
「瞬き2回……冷静だって言いたいのか?」
瞬きを1回
「君は強いな?君が救ってくれた子は感謝してたぞ?」
感謝してた……って事はあの子は助かったんだな……良かった
「なぁ?ここだけの話なんだが……体、動かせる様になりたいか?」
他の人に聞かれない様になのか俺に近付いて小声で話す白衣の男。動かせる様になりたいかだって?そんなの当然じゃないか!
「瞬き1回、だよな。よし……君の損傷した脊髄の部分を治療して機械の補助を付ける。そして動ける様になるかテストして欲しい。端的に言えば臨床試験や治験って所だ。どうだ?」
そういうのってランダムで選ばれるものじゃ無いのか?というか医者が勝手に決めて良い物じゃ無かった気がするんだけど……
「疑わしい目をするな、俺はお前さんみたいな動けなくなった人間をまた動ける様にしたい……もういいや、やめやめ、要は軍の人間とかが怪我した時にする治療を一般の人間に出来るレベルに落とした物を試したいんだ」
やっぱり人体実験?軍事で使っていた物を一般の人にも使える様にするっていうのも気になるけど体が動かせる様になるのならやってみる価値はありそうだ
「瞬き1回、やりたいって事だな?」
もう一度瞬きを1回する
「リハビリはきつくなるぜ?それでもやるか?」
瞬き1回、こんな状態で居るよりは舞い降りたチャンスにかける
「分かった。本人の了承は取れたから後は親御さんの了承が取れればやってやるよ」
白衣の男の人は僕の意思を確認すると部屋を出て行った。そういえば白衣を着てたから医者だと思ったけど本当にあの人は医者だったのだろうか?