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思い出1

昔の夢をみた。

今から8年前、私がまだ10歳の時だった。


いつもの本屋に来ていた。


「クマ……?」

私は思わず呟いた。


その日、そこにはとにかくとても大きな男がいた。

縦にも横にも大きな男だ。そして上等な服を着ている。

その大男と本は似合わない。

でも、真剣に本を選んでいた。


私もいつものように本を選ぶ。

この頃はまだ育ての父が生きていたから、小遣いを貯めて本を買う余裕はあった。


それからふと、その男が読んでいる本が気になって私はその読み終わるのを待った。

しかし中々読み終わらない。


「まだかしら?」


私がそう言うと、大男はキョロキョロ辺りを見渡した。

私はまだ小さく、男はとても背が高かったから私が見えないようだった。


「下よ! 下!」


そう言うと、男は目線を下げて、ようやく私と目が合った。

「ええっと……?」

男は困ったように私を見ている。


「その本、私も読みたいの」

「ああ」


男はすんなり私に手渡したが、君に読めるのか? と顔に出ていた。

確かに、大人が読んでも難しい内容である。


私はその頃、前世の記憶を思い出して、そこまで時が経っていなかった。

その頃はまだ前世の記憶を思い出したといっても、映画を観たような感覚で、その記憶の私が自分であったという実感が持てなかった。

特に混乱というものはなく、完全に今世の私として生きていた。

そのため、前世の記憶を持っているといっても精神は子どものままであった。


しかし前世の知識というものは持ち合わせている。

この世界の文字はすでに読めていた。

前世も今世も勉強好きというのは同じであり、理解力は充分あったので、難解な本もある程度読めるのであった。


「読めるわよ。失礼ね、顔に出ているわよ。

子どもだからって、馬鹿にしないでよね!」


子どもの頃はよく、根暗だなんだと男子によくからかわれていたこともあって今よりも気が強かったので、いつも誰にでも喧嘩腰だった。


「そ、そうか」

「フンッ」


今考えると、生意気なガキであった。

ああ、思い出すと途轍もなく恥ずかしいのだわ。


「貴方こそ、これが理解出来ているというの?」

「え? ああ、まあ」

「自信がないようね」

「い、いや、理解しているさ。これでも僕は…………。

なんでもない……」

「何よ?」

「いや、なんでもない」

「貴方図体は大きいくせに、何か、人間としての何かが小さいわね」


ぐぅ……、私ったら本当に、昔はズケズケとものを言う性質だったのよね……。

今も割と言いたいことは言うタイプだけど比じゃないわ。


私は言う。

「まだこの本は読んでいないけれど、私は今まで治癒魔法についての本は幾つか読んできたわ」


男から奪ったその本は治癒魔法についてのものであった。


「治癒魔法は傷にはよく効くけれど、病にはそれほどの絶大な効果はないわ」


病への効果は薄いけれど、傷に関しての治癒魔法は本当にすごい。

前世の地球での医学よりも。

優れた治癒魔法士によっては、欠損さえ治してしまうのだから。


「あのね、私の弟は病弱なのよ。

だから私は、弟のために何かできないか考えているの!

とりあえず、たくさん本を読んでいるわ」


私の言葉に、男は優しく言う。

「そっか。君は良いお姉さんだね」


「むう」

私はそんなことを言われたい訳ではなかったので、無視して言う。


「病の治療として、もっと薬について研究するべきだと私は思っているのよ。

病の種類にもよるでしょうけれど、私は治癒魔法よりも、薬の方が病には効果がある気がするわ。私の勘がそう言っているのだわ!」


治癒魔法に比べると、薬の効果は高が知れていて、民間療法的な扱いである。

それでも私たち平民は、高額である治癒魔法は滅多に頼ることもできないから、効くかどうかもよく分からない薬に頼っているけれど、でも……。


「効いているかどうかよく分からない薬はある。

でも、よく使われるメジャーな薬は、確かな効果があるわ。熱冷ましとか」

「確かに……」

「病にあった、症状にあった、薬はきっとできるはずなのよ」

「病についてももっと詳しく知る必要があるな……」


「そうね!!」

私は思わず声を上げた。

男はビクッとする。


この世界でも色々と研究がされているだろうが、前世の記憶にある地球ほど、精密で詳細な研究がされているとは思えない。

科学の代わりに発展している魔法が、そういうことを必要としていないのかもしれない。


「もし治癒魔法で、病においても絶大な効果が発揮できるようになったとしても、治癒魔法は高額だから貴族くらいしか気軽にできないわ。

だから私はやっぱり薬の研究をして欲しいなあ」



それからしばらく話をした。

この時はあの陰険メガネと出会う前だったから、こうやって話ができるだけで私は楽しいのだった。

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