伯爵様
アウロフィッツ伯爵家の別邸に着く。
ここで伯爵様が待っているらしい。
別邸というのは、妻や子どもたちに会わせないためだろうと思う。
気まずいだろうし。
始めに身だしなみを整えるように言わる。
お風呂でメイドたちに身体の隅々まで洗われた。
その後、体中にクリームを塗られる。
とても高そうな服を着せられる。
髪をいじられる。
とにかく為すがままにされたのだった。
身だしなみが整うと、遣いの男が部屋に入ってきて目を見開いて驚いていた。
「美人だとは思っていたけれど、これは……」
それからすぐに伯爵様の元に連れて行かれた。
伯爵様のいる部屋に入ると、一人の50代くらいの男性がいる。
この人が伯爵様だろう。
伯爵様は聞く。
「君がリリアナかい?」
私は言った。
「はい、リリアナです」
伯爵様は魔道具を取り出す。
「これは血のつながりを証明する魔道具である。一滴血を」
伯爵様は針で人差し指をついて血を出すと、その魔道具の2カ所ある内の1つの穴に垂らした。私も遣いの男から差し出された針で血をだして、伯爵様とは違う方の魔道具の穴に垂らした。
そうすると、魔道具の中心に入れ込まれた水晶のようなものがオレンジに染まるのだった。
「うむ、私と君が親子であることは証明された。
赤は本人、オレンジは親子、黄色は弟妹、黄緑は薄いが血のつながりはある、青は完全に血のつながりがないということなのだ」
「なるほど」
伯爵様は私に近づく。
「よく、顔を見せてくれ」
「はい」
伯爵様は私の顎に手を掛けた。
そして私の顔を、瞳をじっと見た。
私もまた、目を逸らすことをせずに見返した。
少しだけ不思議であった。
この人と血が繋がっているのだと思うと。
伯爵様は特に自分と血が繋がっているとかそういう感慨はないようで、私の顔の造形、瞳の形をただ熱心に観察しているようであった。
伯爵様は満足したのか1つ頷くと、私の顎から手を離した。
「すでに聞いただろうが、君には王族の血が流れている。
その紫の瞳がその証拠である。
私の祖母は王女であった。
王女と伯爵の結婚など普通はないことである。
祖父と祖母は恋愛結婚であった。
その紫の色は、王族であっても中々現われることがない色である。
紫色の、しかもとても濃い……。
これほどに濃いのは、今の王族にはいらっしゃらない」
伯爵様は感心したように言う。
「最初噂で、王都からは遠く離れた街で見た平民の女が紫の瞳であったと聞いた時は、まさかそんな訳があるかと思ったのだ。
もしそうだとしても、それは何か色々な偶然が重なって、それに近い色になったのだと。
皆もそう言っていた。
しかしふと、私は思い出したのだよ。君の母のことを。
それから、その娘が噂の、紫の瞳の女であると知って、私はもう仰天したよ」
いや、全く驚いたようには思えない無表情である。
「それに聞いてはいたが、とても美しいではないか。想像以上だった」
そして伯爵様は言う。
「君にはエルハイム公爵家に嫁いでもらいたい」
「はい」
「君の家族には十分な金を渡すと約束しよう」
「ありがとうございます」
私はホッとする。
「まず、話しておこう。
君の嫁ぐ方、ルーズベルト・エルハイム公爵は、御年35歳。この国の宰相であり、かなり地位は高い。しかし失礼であるが、この年で結婚していないというのは遅い」
この世界では、結婚の適齢期がかなり早い。
女は18歳には結婚して、20歳から少し焦り始める。
男もまた18歳には結婚するもので、25歳から焦り始める。
それに貴族の世界は、いき遅れは馬鹿にされるらしい。
「エルハイム公は今まで女性には見た目で色々言われてきたから卑屈な所があり、独身を貫こうとしていらっしゃる。だから君自身を受け入れる、愛してくれるかと言うと、それは正直無理だろうと思う。
しかしエルハイム公は君との結婚を受け入れざるを得ないし、エルハイム公のご両親も、今まで何人もの女性をエルハイム公に紹介していたから、この機会を逃すことはないだろう」
それから伯爵様は少し怪訝な顔になって言う。
「君は笑わないのか? 無表情である」
「面白いことがあれば、笑うこともしますが」
というか、この人にそれを言われたくない。
後ろに控えていた、伯爵家の遣いの男が吹き出すのが聞こえた。




