王妃になる器
次の日、私はエミリア様に、セルラング公爵家がライセント公爵家の悪行について糾弾していることを伝えた。
「そうですか…………」
エミリア様は何とも言えない神妙な面持ちで、しかし少し経つと、スッキリとしたような微笑みを浮かべて言った。
「それならば良かったですわ」
最初エミリア様の印象は、繊細で、儚くて、そんな感じだったのに、今は彼女がそんな大人しい少女ではないのだということを知っていた。
エミリア様ははっきりとした性格でおしゃべり、よく笑う、少し腹黒。
冷静であるが一方で感性が強く、人を思う心がある。
勉学の優秀さとは違う種類の聡明さ、客観的に物事を図り思考する能力が並外れており、他人の意見に惑わされることはない。
またエミリア様が強い精神力を持っていることは誰しもに分かることだ。
辛い家庭環境でありながら、家族に屈して怯えることもなく、卑屈な精神を持つことはなかった。王太子の婚約者という責任を理解し、それに潰されることなく常に完璧な淑女であり続けた。
ユリウス殿下の婚約者候補だった者たちは自身と同じくらいの優秀さで、皆王妃になり得る者たちだと彼女は言ったが、恐らくそれは違う。
きっとエミリア様は特別王妃になり得る器というものを持ち合わせているのだ。
陛下や王妃殿下もそれを感じていたからエミリア様が次期王妃に相応しいと考えたのではないだろうか。
しかし私は幻想を思う。
エミリア様がユリウス殿下の婚約者に選ばれなかったとしたら…………。
エミリア様は辛い家庭環境に少々やさぐれて、しかし次期王妃という責任のない彼女は、本来の彼女を偽ることなく、たくさんの友だちを持っていたかもしれない。
時々彼女からは夢見がちで乙女な性格が垣間見えたから、もしかしたら好きな人ができたりして、情熱的な恋愛をしていたかもしれない。
私が突然公爵夫人となって、パーティーでエミリア様と出会う。
きっとその彼女とも私は友だちになることができて、よく彼女のおしゃべりに付き合わされる。
その彼女は今の彼女よりもきっと随分強引で、私はよく振り回されて、その度に呆れて説教を言う日々を過ごしていたかもしれない。
そして、ライセント公爵家が断罪されてエミリア様は自由になる。
エミリア様は、王妃殿下や私、親戚、誰かしらの庇護を受けることになる。
それから結婚をして幸せな家庭を築く。
…………いや、はたまたもしかしたら、情熱的な恋をした相手を追いかけに、何もかもを捨ててどこかに行ってしまうかもしれない。エミリア様にはそういう、どこか思い切りがよいところがある。
そんなことを考えて、私は苦笑した。