夕食の時間
ルーズベルト様はようやく夕食を食べ始める。
私に知られたくないからと実はセーブようだが、ルーズベルト様はその身体に見合ってよく食べる。
ずっと一緒に食べていた朝食は、普通の人と同じ量、ルーズベルト様にしては少ない量にしていたようだが、夕食時にも私がいるようになると、諦めて量を戻したのだった。
私は何故量は普通なのに太っているのかと、ただ体質だからというだけなのだろうかと、疑問に思っていたから納得がいった。
そうは言っても、普通よりも少し多い、という程度であるからやはり体質は大きいだろう。
それほどまでに身体に悪いという量ではないと思うし、夜遅く帰って来たルーズベルト様に食事制限をするのはあまりに可哀想であるし、私は特に口を出すことはしない。
私はこの時間が好きだ。
私はすでにエミリア様と夕食を済ませているので、ルーズベルト様の夕食の時にはスープを用意してもらっている。
そのスープをゆっくりと飲む。
時にはルーズベルト様と会話をする。
会話をせずとも、案外私はぼうっとしていられる性質で、というより何もせずとも、何かしら考えているような性質である。ルーズベルト様も気にした様子はなく、気まずいということもない。
それに、モリモリと食べているルーズベルト様を前にして見ると、頬が緩んできてしまうのを、私は実は堪えている。
「ルーズベルト様、私はルーズベルト様がご飯を食べているのを見るのが好きです」
「は……?」
ルーズベルト様は突然の私の言葉に驚いたようにこちらを見る。
「どういう意味だ? 理解できない」
今まで言われたことがなかったのだろう。
前世の世界ではそういう、モリモリ食べる人を見ることが好きな人もいたが、この世界の貴族においては、それは下品だとか何だとか思われることかもしれない。
「そうですねえ。まあ、なんだか見ていて清々しいというか、気持ちが良いというか」
「よく食べるな、ということだろう? あまり見ないで欲しい」
ルーズベルト様はふてくされたように言う。
「よく食べるなあと思って、なんだろう、幸せな気持ちになるのですよ?」
拗ねるルーズベルト様にクスッと笑ってそう言うと、ルーズベルト様は首を傾げる。
「幸せ……か?」
「ええ、なんだかホッコリします」
「ぐぅ……、何かよく分からんがやっぱり見ないで欲しい」
「ええ? 良いではありませんか」
「いや、良くない。何かよく分からんが恥ずかしい」
ルーズベルト様はゴホンと咳をする。
それから私は言う。
「ただ、運動は必要だと思うのです。
仕事で忙しいということは分かりますけれど。
むしろ、こんな生活の中で運動も取り入れるとなると身体を壊すと思いますが」
「ああ、そうだな。それは無理だな」
ルーズベルト様は断言する。
なんだか食べ物の好き嫌いをする時のような言い方を感じる。
「ルーズベルト様は運動が苦手のようですね」
「…………得意ではない」
せめて休日まで仕事をするなんてことがなかったら、休日には一緒に散歩をしたりできたのに。
私はついにずっと思っていたことを言った。
「というか、もう少し仕事を減らすことはできないのでしょうか……。
宰相には補佐がついてましたよね、ちゃんと仕事をまわしていますか? 手伝ってもらっていますか?
いい加減このことに関しては、私も口出しさせていただきますわ。
仕事を頑張っているのは分かりますが、このままでは身体を壊してしまいますからね。妻として見過ごせません」
「ええっと…………」
ルーズベルト様は口籠もる。
やはり私の言った通り、あまり宰相補佐に仕事をまわせていないようである。
ただでさえ大変な仕事であるし、それは、これだけ仕事をしなければならない訳だ。
「全くもう」
私は思わずこぼした。
そうするとルーズベルト様は眉間に皺を寄せながらも、シュンとして落ち込んでいるようだった。
私は少し強気に、それでいて諭すように言う。
「宰相補佐とは、次の宰相になる方ですよね。
いくら今現在仕事が上手く回っているからといっても、今後のことを考えると宰相補佐に仕事をまわして、仕事を教えていかなければいけないでしょう? 決して仕事を押しつける訳ではないのです。
後継者となるべき者を育てることにもなりますし、必要なことではないですか?」
「そう、だな……」
「宰相補佐はどのような性格なのですか? 上手くいっているのですか?」
「とても真面目で誠実な青年だ。上手くいっているというか、あまり話さないというか」
「そうですか。貴方はいつもそんなムスッとした顔をしてますから、なんだか誤解されているような気がしますけれど、どうなのでしょうね?」
「う゛……」
ルーズベルト様は思わずといったように唸った。
私は言う。
「歩みよって、ちゃんと仲良くなるのですよ?」
「な、仲良く……」
「はい、そうです」
「…………」
「分かりましたか?」
私が少し圧をかけて問うと、ルーズベルト様は焦ったように言う。
「わ、わかった」
「分かっていただけれたなら良かったですわ」
最後、私はニッコリと笑顔でそう言った。