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心を開いて欲しい/お帰りなさいを言ってみた2

朝食はルーズベルト様とエミリア様と一緒にとることにした。

朝食の前、エミリア様はルーズベルト様に言う。


「この度は私事に巻き込んでしまって大変申し訳ありません。

そして滞在を許していただき本当にありがとうございます」


「いや、構わない。どうぞ、のんびりしていって欲しい。

それと、よければリリアナと仲良くしてやってくれないだろうか。

リリアナは同世代の令嬢と関わりがないから気に掛っていたのだ」


な、なんだか恥ずかしい……。

お前は父親か!! とツッコみたい。


エミリア様はそんなルーズベルト様の言葉に一瞬キョトンとしたが、すぐに嬉しそうに答えた。


「それはもちろんですわ。リリアナ様、よろしくお願い致します。

こちらこそ仲良くしていただけると嬉しいです」

「はい、仲良くしてください。よろしくお願いします」


何だかルーズベルト様が妙に微笑ましそうにこちらを見ているのが気になりながらも、私もエミリア様にそう返した。



それから朝食になると、ルーズベルト様はエミリア様に聞いた。

「エミリア殿、昨夜はゆっくり眠れただろうか?」

「はい。おかげさまで」


至って違和感なくすぐの返答であった。

しかしなんとなく……、だけれど夜は眠れなかったのだと感じた。

昨日屋敷に来てから夕食まで寝てしまったからかもしれないけれど……。


「気を遣わずに、好きに過ごしてもらえればと思う」

ルーズベルト様の言葉に続いて私も言う。

「私にも、遠慮せずに何でも言ってくださいね?」


「ありがとうございます」

エミリア様はくすぐったそうにはにかんだ。


――――

――


「それでは行ってくる」

「行ってらっしゃいませ」


私がルーズベルト様が屋敷を出るのを見送るとエミリア様は言う。

「仲がよろしいのですね」

「え、ええ」

私は恥ずかしくなって曖昧に返事をした。



◇◇◇



午前中エミリア様はコロに会いに行っていたようで、お昼は一緒に食べて、午後は一緒にティータイムを楽しんだ。


紅茶と飲みながら私は言う。

「ご不便なく過ごされていますか?」

「ええ、とても居心地が良いですわ。

このエルハイム公爵家全体が、雰囲気や何やらが、優しくて温かいです。

ここにいる者たちは皆にこやかで、穏やかで……」


「それならば良かったです。

私は基本的に奔放に過ごさせてもらっていますし、ルーズベルト様も食べ物の好き嫌い以外は特に何も言うことはありません」

「食べ物の好き嫌い?」

「ええ、あの人、本当に好き嫌いが多くて……!

料理長も呆れていますわ」

そう言うと、エミリア様は意外だというように目を丸くする。

「そんな風ですから、使用人たちも自由に仕事ができているのでしょう。

このミオなんて、遠慮なんてなしで口うるさいでくらいですからね」

私の言葉に、後ろで控えていたミオは、うっ、と唸った。

「フフッ」

エミリア様は少し可笑しそうに笑う。

「しかし皆しっかり職務を全うしてくれているので、とても助かっているのです」

私がそう言うと、エミリア様はどこか遠くを見るように目を細めた。


「そうですか。私の家では…………」

エミリア様は何かを言いかけて、しかし口をつぐんだ。


私はそんなエミリア様に、あけすけになって極めて明るく言う。

「――――エミリア様のご両親とはパーティーでご挨拶をすることもありましたけれど、毎回嫌味を言われます。まあ慣れているので腹は立ちませんけれど、エミリア様はそんなご両親で迷惑されていそうだと思いました。家でもあまりくつろげなさそうですね? とくにあの夫人は小うるさそうですわ」


私の方が心を開けば、きっとエミリア様もそうしてくれるのではないか思ったのだ。


正直、今のエミリア様は誰にも告げ口や何やらをしようにもできないからこそ言えることである。

エミリア様を信頼できないとか、そういうことではなくて、この貴族の煌びやかな世界では、こういうことを考える必要があった。


「ええっと…………」


エミリア様は困惑していたようだったが、徐々に堪えきれないというように笑いだした。


「フフッ、ハハッ、フッ、フフフ」


それからエミリア様は頷いた。

「本当にその通りですわ、迷惑でしたわ。

両親はそうやって人を見下してばかりいるのです。

申し訳ありませんでした」


「いえ、そういうのは、別にいいのですよ」

エミリア様も、私が謝罪を求めていないと分かっていると思うが、一応言ったのだろう。

だから私も一応簡単に返した。


エミリア様は言う。

「そんな両親ですし、妹も我が儘ですから、実家の使用人たちは、皆いつも緊張しているように強張っていて、そうすると屋敷全体がギスギスした雰囲気になるものです。

両親や妹は別次元にいるように幸せそうにしていましたが……、それも、かりそめの幻想であって、本物の幸せとはどこか異なるものだと感じられました。

けれどこちらに来てから、実家とのあまりの違いように、あの家で暮らしていたことが遠い昔のことのように思えますわ……」


エミリア様は悲しい思い出を懐かしむように、どこか寂しそうだった。



◇◇◇



今日もルーズベルト様が帰ってくるのを迎えると、ルーズベルト様は驚いていた。

「今日も待っていたのか?」

「ええ、別に朝起きる時間をずらせば、睡眠に不足はありませんし」

「そ、そうか?」

「はい」

「大変ではないか?」

「はい」

「無理はしなくていいぞ?」

「いいえ、別に無理はしていません。私が好きでしていることです」

そう言うと、照れたようにルーズベルト様の耳が赤くなる。

「もっとルーズベルト様と一緒に過ごす時間が欲しくて」

そう言うと、ルーズベルト様の頬が赤らんだ。


「……ルーズベルト様って、可愛いですね」

「は!?」

そう思わず呟くように言うと、ルーズベルト様の顔が真っ赤になったので私は思わず笑った。

「フフフッ」

「ぐぅ……」

ルーズベルト様は小さく唸ると、逃げるように、私の横を通り過ぎてスタスタ屋敷の中に入っていった。



ルーズベルト様が逃げるように去り、傍で控えていたセバスチャンとメイド長、ミオが近づいてくると、メイド長が呆れたように言う。

「奥様、旦那様をあんまりからかうのは可哀想ですよ」

「嘘は言っていないわよ?

可愛いっていうのは、思わず心の声が漏れてしまっただけ」

「旦那様が可愛い、ですか?」

ミオがキョトンとして聞く。


「そんなことを言うのは奥様だけですね。一体あれのどこか可愛いのですか?」

セバスチャンは不思議そうに首を傾げて、辛辣気味にそう言うと、ルーズベルト様の後をゆっくりと追っていった。


セバスチャンはルーズベルト様に対して、案外毒舌な時がある。

残った私たちはそんなセバスチャンに苦笑した。

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