お帰りなさいを言ってみた
今日、私はルーズベルト様が帰ってくるのを待っていた。
エミリア様のことを少し話しておこうと思った。
朝ではせわしないから、夜が良いと思ったのだ。
今日は初日であるし、王妃殿下はきっと気になっているだろうから、エミリア様が無事にエルハイム公爵家に着いた旨を伝えた方が安心されると思う。
そしてルーズベルト様もきっと同じように考えていて、帰るまで待っていてくれとは言われていないが、私から話を聞きたいのではないかと思ったのだ。
ルーズベルト様が帰ってくると私が迎えると、目を丸くしていた。
「お帰りなさい」
「あ、ああ、ただいま」
私は何だか新鮮だと感じて微笑むと、ルーズベルト様は手で口元を隠した。
「どうしたのですか?」
「いや、なんでもない」
「そうですか」
「ああ」
私たちの後ろで控えている、セバスチャンやメイド長、ミオなどの、何だかクスクス笑う声が聞こえた。
「?」
私はそれに首を傾げた。
ルーズベルト様の夕食に、私も軽いスープを用意てもらった。
「今日、無事にエミリア様がいらっしゃいましたよ」
「そうか、それは良かった」
「エミリア様がペットの魔獣を連れてきました。
とても大きな魔獣ですが、エミリア様に害のない者には至って大人しいと聞きました。
エミリア様にとってそのペット、コロはとても大切な存在であるようだったので、獣舎でバリアを張っていれることにして受け入れました。
すでに受け入れてしまいましたが、ルーズベルト様にも許可をもらいたいと思ったのですが」
「まあ、バリアを張っているのなら大丈夫であろう。
それで、エミリア殿はどのような様子だった?」
「とてもやつれておいででしたわ。
でも、部屋に入ってから夕食までは、ゆっくりお休みになられたようです。
食事は少し残されましたが、スープやサラダなどは完食していました。
きっと食欲も落ちているのでしょう。
次から柔らかく消化の良いものにするようにと料理長に言いました」
「そうか。しっかりしているな。
王妃殿下の頼みであれど、リリアナになら安心して任せられる。
明日、王妃殿下に伝えておこう。きっと安心されるだろう。
…………もしかして、そのために寝ないで待っていてくれたのか?」
「はい」
私が頷くとルーズベルト様は驚いたように目を見開いて、それから苦笑した。
「ああ、本当に頼りになるな、君は。
ありがとう、リリアナ」
「いいえ、もっと頼ってくれても良いのですからね?」
私がそう悪戯に笑うと、ルーズベルト様は穏やかな微笑みを返す。
それからルーズベルト様はどこか言いづらそうに口を開く。
「リリアナ、今回はエミリア殿のことを一番に考えるべきだということは分かっているが、君に友人ができるきっかけ、エミリア殿と友人となれれば良いとも私は考えている。
リリアナはもしかしたら、あまり友人というものを必要としていないのかもしれないし、確かに無理して友人をつくる必要はないが……」
正直、ライセント公爵家息女であったエミリア様と親しくするのは難しかったと思う。
エルハイム公爵家とライセント公爵家はそれほど仲が悪いというわけではないが、ライセント公爵やその夫人は明らかにこちらを下に見ている。
あの、嫌味を言ってくる家と仲良くするのはちょっと…………。
しかし現在、エミリア様はライセント公爵家から家出して王妃殿下の庇護の元にあるし、まだ知り合ったばかりだけれど、エミリア様が悪人ではないことはなんとなく分かる。
王妃殿下とお義母様は、エミリア様のお母様は親しかったこともありエミリア様を大切にしているが、エミリア様の性格が悪いのだったらここまで大切にしないだろうとも思う。
「そうですねえ、仲良くなれれば良いですね」
私がそう言うと、ルーズベルト様は意外だというような顔をする。
「案外、軽いな」
私は心外だと思って不満を口にする。
「むう。私は時々誤解を受けます。1人が好きそうだとか。
そんなことはないのですよ?」
「そ、そうか、わるかった!」
私が頬を膨らますと、ルーズベルト様はあわあわして謝るのだった。
◇◇◇
次の日の朝、私はルーズベルト様と同じ時間に起きた。
私が起きた後すぐに起きたルーズベルト様は、私が隣にいるのを見て目を丸くしていた。
そんなルーズベルト様を見て私はクスリと笑った。
「そうか、昨日は帰ってくるまで待っていてくれていたのだったな」
「はい」
「今日からはまた先に寝ててくれて構わないからな。
そう毎日王妃殿下に報告はいらないから」
「そうですねえ」
なんだかこうやって一緒に起きるのも良いものだと思ったのだった。