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家出令嬢がやって来た

エミリア様はとてもやつれてやって来た。

そして何やら大きな動物を連れて……。

魔獣だと思われる。狼のような姿だ。

2メートルはありそうである。


「リリアナ様、ご迷惑おかけして申し訳ありません……。

あの、この子はペットのコロです」


コ、コロ……? 

ツッコんでもいいのかしら……?


「か、可愛らしい名前ですね」


「ありがとうございます。

コロを世話をしているのは私で、家族では私にしか懐いていないのです。

コロは私を敵視している両親や妹には牙をむきますが、私に害をなさない方には至って大人しく良い子なのです。この子だけが私の友だちなのです。

どうかコロも一緒にこちらにお邪魔させていただきたいのですが……」


エミリア様は必死な様相で頼む。


このコロが暴れ出したら怪我人がでるかもしれない……。

でも……、この子だけが私の友だちって、どうもこのコロはエミリア様の心の支えになっているようだわ。

確か飛竜などの危険な魔獣は、バリアの魔道具を使って管理しているとか。

それがあれば安全だろう。


「分かりましたわ」

私が頷くと、エミリア様は泣いて言う。

「ありがとうございます、本当にありがとうございますっ……」


やっぱり、エミリア様とこのコロを引き離すことはしなくて良かった。


エミリア様にコロの飼育、管理方法を聞くと、エミリア様が出掛けている時はバリアの魔道具を使っており、エミリア様が家にいる時は自室で常に一緒にいたそうだ。

バリアの魔道具は、取り寄せようと思ったけれどエミリア様がちゃんと持ってきてくれていた。



それから、馬や鳥などを飼っている獣舎の一番広い場所にコロを入れた。


「コロ、この方はリリアナ様よ、とっても良い方なのよ。そしてこの人たちはよくここに来ると思うけれど、とても良い人たちですからね?」

エミリア様がそう言うと、私と獣舎の管理をしている使用人たちを前にしたコロは、分かったと言うように元気よく返した。

「わふっ!」

エミリア様は満足そうに頷く。

「これで大丈夫ですわ」



コロの顔合わせが終わり屋敷へと向かっている途中、やつれているエミリア様が歩くのも辛そうなのを見て声をかける。


「エミリア様、大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫ですわ」

「屋敷に戻ったら、ひとまず部屋でゆっくりお休みになってください」

「お気遣いありがとうございます」


エミリア様はそれから恐る恐るというように聞く。


「リリアナ様はどこまでお聞きになられましたか?」

「ええっと、家出をなさったこと、家族仲が悪いこと、婚約者とアイラ様とのことを」

「そうですか……」


それからしばらく黙って歩いていると、エミリア様から小さく不気味な笑い声が聞こえてきて、私は思わずギョッとした。


「フフフフッ、クフフフフッ……」


それからエミリア様は高らかに言う。


「私、言ってやりましたわ! リリアナ様!

ガツンと言ってやったのですわ!

そして家出してやったのです……が、それは失敗に終わりました……。

それでもスッキリしたのです!!」


やつれながらも、目をぎらつかせてやりきった感じを出すエミリア様に、私は少し引いて曖昧に頷いた。


「そ、そうなのですか……?」


エミリア様のキャラって一体……。

というか、やっぱり私の言葉が引き金になっていないかしら……?


私の内情を感じたのか、エミリア様が慌てて言う。

「あ、リリアナ様の言葉は確かに私を勇気づけてくださいましたけれど、それでなくても私はいつか家を出ようと思っていたのです。だからリリアナ様は責任を感じないでくださいね?」

「そ、そうですか」

私はホッと一息ついた。



屋敷に着く頃にはエミリア様は少し息切れしていた。

途中テンション上げるから……。

私は内心苦笑して言う。

「――エミリア様、改めましてようこそいらっしゃいました。

ここにいる間は、ごゆるりとお過ごしくださいね」

「ありがとうございます、リリアナ様」

それからエミリア様は部屋に入ると倒れるように眠ったようだった。



私は自室に戻って、窓際でいつものように本を開いておきながら、ただ紅茶をスプーンでクルクルとかき混ぜていた。

そして呟くように言った。

「よほど疲れていたようね」

「そうですねえ」

私の言葉にミオが気の毒そうに返した。


それほどエミリア様を知っているわけではないけれど、先ほどのエミリア様は普段の彼女でなかったと思う。

でもあんな彼女もエミリア様の心のどこかに存在しているのだろうかとも思う。

そうであったら、ずっとずっと我慢をしていたのだろうか……。



夕食の時にはエミリア様も起きてきた。

「休めましたか?」

「ええ、久しぶりによく眠れました」


エミリア様は穏やかな微笑みを浮かべた。

落ち着いてくれたようだ。


それからエミリア様は恥ずかしそうに言う。

「あの、先ほどは少しどうかしていたようです。

言葉が乱れてしまいましたわ。申し訳ありません」


そんなエミリア様に至って平常に返す。

「いいえ、大丈夫ですよ? 気になさらないでください」

ここで驚いた感情を出せば、きっとエミリア様はここでも仮面をかぶってしまうかもしれないと思ったのだ。

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