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エミリア様の事情2

――――私は言う。

「エミリア様を少しの間この屋敷におくことは、私は構いませんわ」


「そうか、ありがとう」

「いえ、そもそも王妃殿下の頼まれ事だという時点で受けざるを得ないですし。

しかし話を聞かないことには、エミリア様とどう接すれば良いか分かりませんでしたからね」


「その、リリアナ自身は大丈夫か? 君の負担にはならないだろうか?」

私はルーズベルト様の言葉にキョトンとする。

「フフッ、全然平気ですよ?」

「それならば良かった」


エミリア様を招いても良いかとわざわざ私に聞いたのは、私のことを心配してくれていたのね。


「ルーズベルト様は、やはりとても優しい人ですね?」

「別に、優しくなどない……」


私が笑いかけると、ルーズベルト様は目を逸らしてぶっきらぼうに否定するのだった。


「もちろんエミリア様を丁重におもてなしさせていただきますわ。

出来たらエミリア様の気持ちも聞いてみます。

王妃になりたいと思っているのか、

ユリウス殿下のことをどう思っているのか……。

しかしエミリア様のプライバシーを考えて、エミリア様がこの屋敷で穏やかに気兼ねなく過ごせるように考えて、伝えるべきと思ったこと以外は報告はしない方が良いと考えているのですが、よろしいですか?」


「そうだな……。

確かに何でも報告されていると分かったら息が詰まるだろう。

それで良い。王妃殿下にもそのように伝えておく。

きっと分かってくださるだろう」


「それでは、こちらのことは私に任せてください。

余計な気遣いは不要ですからね?

そんな暇があるならば、それは休息の時間に当ててくださいね?」

「わ、わかった」

私の圧力に、ルーズベルト様は軽く引いて頷いたのだった。



――――しかしこの間パーティーで会った時にエミリア様に元気がなかったのは、こういう事情があったのか。

私はふと、パーティーでエミリア様と会った時のことを思い出した。


………………あれ。

私、エミリア様になんか言わなかったかしら…………。


確か…………

「ため込んでいては身が持ちませんわ。

たまにはガツンと言ってやればいいのです!

時には逃げても良いのですわ」

と言ったわ……。


そしてエミリア様は

「そ、そうですよね……?

私も、私も、心のどこかでずっとそう思っていましたわ!」

と言ったわ…………。



もしかして、エミリア様は私の言葉で家出を決行した…………?



私は冷や汗をかく。


「あ、あああの、ルーズベルト様……?」

「ん? なんだ?」


ルーズベルト様にそのことを言うと、ルーズベルト様は引き攣った苦笑いをするのだった。



◇◇◇



「――もうすぐリリアナは実家に顔を出しに出掛けるはずだったのにすまない。楽しみにしていただろう」

ルーズベルト様は申し訳なさそうにそう言う。


実家に帰ることは、私から頼んではいない。

ルーズベルト様から、一度実家に顔を出しに行ってみたらどうか、と言ってくれたのだ。

何となく気まずそうに。


私はその時ルーズベルト様を安心させるように、すぐに戻ってきますよ、と言うとルーズベルト様は、分かった、とだけ返した。

しかしその、分かった、は心底ホッとしたようだと感じられたので、私は思わず笑いが漏れたのだった。


「大丈夫ですわ。それに、ルーズベルト様が謝ることなど何もありませんよ?」


私がそう言うと、ルーズベルト様は困ったように苦笑した。

そんなルーズベルト様に私は穏やかな微笑みを返す。


もちろん家族のことは気になるが、それと、私は今とても充実した生活を送っているのだということを、心配してくれた皆に伝えたいのだった。

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