日常
この街から出て行くまで、私はいつも通り食堂で働いていた。
夕方仕事が終わると、子どもたちが集まる食堂の一角に向かった。
この子どもたちは食堂に夕食を食べに来ているわけではない。私は子どもたちに読み書き計算を教えていて、少しの時間、食堂の一角を借りているのだった。
「お姉ちゃん、ここ分かんない!」
「ここはね、こう書くのよ」
「姉ちゃん、意味分からない!」
「ここはこう計算するの」
そうしていると、この食堂で一緒に働いているベスと、昔はよく私を根暗だ何だとからかっていたが、何だかなんだ今は落ち着いた元悪ガキのザクがやって来た。
「これ、差し入れよ」
ベスはこの食堂の主人の娘で、時々こうやって差し入れをくれるのだ。
ザクは、昔私が読み書き計算を教えてくれたからと、時々一緒に子どもたちに教えてあげてくれる。
「お前ら覚え悪いなあ、俺はすぐに覚えたけどなあ」
「いいえ、貴方の方が数倍覚えが悪かったわ」
「お、お前なあ……」
こうして子どもたちに授業をするのは、私が好きでやっていることでお金はもらわないが、時々子どもたちの親が、お礼にと食料や何かをくれたりするので、貧乏な我が家にはとても有り難い。
授業が終わると私は言う。
「皆、少し話があるわ」
皆は私の言葉に不思議そうな顔をする。
「実は私は、もうすぐでこの街を出て行くの」
「はあ!?」
「「ええ!?」」
「それは一体なんだってそんなことに!?」
ベスとザク、子どもたちは驚いて騒ぎ立てた。
「申し訳ないけれど、事情は言えないわ。
私がいなくなってもちゃんと勉強をするのよ」
子どもたちの中には泣き出す子もいたが慰めて、皆なんとか落ち着いた。
子どもたちが帰ってから、ベスとザクが言う。
「一体どうして? そんな急に」
「俺たちにも言えないことか?」
「……誰にも言えないことなのよ」
「でも、時々は戻ってきたり……」
私は首を横に振る。
「いいえ……」
2人はますます悲しそうな顔をする。
そんな2人を見て私はハッとする。
ああ、駄目ね、私がこんな弱気だなんて!
「突然こんなことになって、心配かけてごめんなさいね。
私はどこに行っても私らしく生きていくわ。きっと大丈夫なのよ!」
私がそう力強く言うと、2人は少しホッとしたようだった。
「そうね、リリアナならどこでも生きていけそうね?」
「ああ、図太いからな」
「なんだか失礼な気がするのだけれど? もう、まあいいわよ」
私がそう言って、3人でクスクス笑ったのだった。