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ルーズベルト視点、今と昔


ルーズベルト視点


屋敷に帰ってくると、リリアナは風呂に入ってすぐに寝室に向かったようだった。こっそり寝室に入って確かめると、リリアナはすでにぐっすりと眠っていた。

初めてのパーティーに疲れたのだろう。

寝顔は少し幼さを感じられる。私はそれが何だかホッとするのである。


何だか妙に頭が冴えて眠る気にはなれずに執務室に入ると、セバスが紅茶を持ってきてくれた。


「パーティーはどうでしたか?」

セバスがそう聞く。


「それは、注目された。嫌なことを言われもした。

私の所為で彼女も嫌なことを言われてしまった。

まあしかし彼女は、リリアナは全く気にしていなかったようだがな」

私はあっさりと言った。


「さすが奥様ですね」

セバスが苦笑して、それからどこか悪戯に言う。

「それよりも、名前で呼ぶようになったのですね?」

「だって夫婦だと言うのに『君』『彼女』等と呼んでいたらおかしいだろう?

だから仕方がないのだ」

「そうですねえ」



私は言う。

「リリアナとは、8年くらい前だっただろうか、会ったことがあった。

まさかあの少女がリリアナだと思わなかった。

しかしそういえばリリアナの故郷は、あの少女と出会った街であった」


セバスは目を丸くする。

「ええ? 旦那様と奥様は昔会ったことがあったのですか?」


「ああ、リリアナはすでに分かっていたようだったが。

言ってくれれば良かったのに……。

あの頃のリリアナはまだ10歳だったし、瞳を隠すためだろうが、メガネをかけていて前髪も長かったから全く印象が違うし、分からなかった。

性格も、ええっと、少し丸くなったようだし……」

「ほう」


「情けなくも私はよくその少女、幼い頃のリリアナに弱音を吐いては励ましてもらっていた。リリアナのおかげで私は変われたのだ」

「フッ、旦那様は確かに昔は威厳の欠片もありませんでしたからな。

いつも自信なさげにしていましたね。そうですか、幼き頃の奥様と出会って……」


ぐぅ……、しかし恥ずかしいものだ。

あんな情けない頃を知られていたとは……。




それに昔、リリアナと別れた時の、最後の会話…………。



「――――もういい人がどうしても見つからなかったら、私が貴方のお嫁さんになってもいいのだけれどね、仕方がないのだからね。…………でも、貴方は貴族でしょう? だからそれは無理なことだったわね、むう」



そうやってむくれる少女に、冗談だろうと思いつつもどこかで、この子がもう少し僕と歳が近かったのなら本当に結婚してくれたのだろうかと、その時私はそう思ったのだった。



◇◇◇



朝起きると、いつもは隣で眠っているはずのルーズベルト様がいない。

「あれ?」

それから、窓際の椅子に座って書類を読んでいるルーズベルト様を見つけた。


ルーズベルト様は私が起きたことに気付いてお互い目が合う。


「――――まさか、あの時の少女が君だったなんて驚いた」


ルーズベルト様はどこか気まずそうに、しかし穏やかさをもって言う。


「恥ずかしいです。滅茶苦茶、生意気だったでしょう?」

「それを言うなら、私はとても気弱だっただろう」

私はクスッと笑う。

「そうですねえ。お互い黒歴史ですね」


「しかし、私はリリアナのおかげで変われたんだ。

だからかけがえのない、大切な思い出でもある」

「恥ずかしいですけれど、嬉しいです。私も、大切な思い出ですよ?」

私がそう言って微笑みかけると、ルーズベルト様は頬を赤くしてサッと目を逸らした。

「そ、そうか……?」

「はい」


「ええっと、君はいつから……、もしかして……」

「はい、始めから分かっていましたよ?」


私がそう言うと、ルーズベルト様はうなだれた。

猛烈な羞恥心と戦っていると思われる。



「私は人を見る時にあまり外見というものを気にしないのです。だから貴方と会う前は、太っているとかそういうことはあまり気にしませんでした。

それよりも気難しくて、神経質な方と聞いていたので、そのことの方が不安でした。怒りっぽかったり理不尽な人間であったらどうしようと」


まあ、どんな方でも屈するつもりは毛頭ありませんでしたが、とそう言うとルーズベルト様は苦笑した。


「しかし初めてルーズベルト様を見て、すぐに昔会ったあのクマさんだと分かって、不安は吹っ飛んでしまいました」


「だが私は随分変わっただろう」


「確かに昔とは変わっていましたけれど、ルーズベルト様の優しさは変わっていませんでしたよ? それに、気弱だった貴方が背筋を伸ばして真っ直ぐに前を向いていて、私と別れてからきっと随分頑張ったのだろうと思いました」


「私は最初リリアナに冷たい態度をとっていた……」

ルーズベルト様は悔いるように言う。


「それは、多少拗ねましたけれど! ……それでも図書館に入るカードを作ってくださって、本をたくさん買っても、服やアクセサリーを買っても、特に何も言われませんでした。教会に行くことも許してくださいましたし」


「別に問題がなかったことだからだ。

何か問題があったら、許可は出さない」


私は仕方がないので、1つ1つルーズベルト様の不安を取り除いてあげた。

なんだかこういう会話は昔を思い出させるのだった。


「初めて教会に行った帰りの馬車で、私が泣くとハンカチを差し出してくださいました」


そう言うと、ルーズベルト様はその時のことを思い出したのか、やるせないような、とても後悔しているように言う。


「あの時、私は罪悪感に押しつぶされそうだった」



私はなるべく穏やかに優しく心がけて言う。


「ほら、やはり優しいところは変わっていませんでした。

罪悪感を抱いたということは、冷たい態度をとって悪いと思ったのですよね。


それに女性から色々酷いことを言われてきたからと、私を信用できずに冷たい態度をとっていたことを私は責めません。

昔に比べてこれだけ変わることが出来たのですから私は充分凄いと思います。

これ以上を望むなんて、ルーズベルト様がパンクしてしまいますよ。


昔ルーズベルト様は、今の仕事はようやく叶った夢だと、その仕事のためにはこの弱気な性格ではダメだから変わらなければと言っていました。

そして今、仕事のために変わったルーズベルト様が、休日を潰してまで仕事に一生懸命であることを私は尊敬します。

ルーズベルト様はとても凄い人ですわ」



私の言葉にルーズベルト様は固まってみるみる顔が赤くなった。


そしてそんなルーズベルト様に追い打ちを掛けるように私は言った。


「しかし感慨深いものです。

まさか本当にルーズベルト様のお嫁さんになるなんて、フフッ」


ルーズベルト様はその言葉を聞くと、酷く動揺してしどろもどろに言う。


「あの言葉も、お、覚えていたのか!?」

「はいもちろん、覚えていますよ」

私は良い笑顔を浮かべてしっかりと頷いた。


きっと私の初恋はルーズベルト様だったのだと思う。

あんな告白じみたことを言ったのは、後にも先にもルーズベルト様だけだ。

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