パーティー1
パーティー当日、私はメイド長、ミオや他のメイドたちに囲まれて、為すがままに着飾られた。
「完ッ璧ですッ!!」
ミオたちメイドは、ハイタッチをしていた。
私はそれ微笑ましくを見て、頬を緩めた。
何だか急に、この公爵家に来てから随分馴染むことが出来たのだと感慨深く思ったのだった。
「皆ありがとう。よくやってくれたわ。
私の美しさがこれ以上ないほどに引き立っているわね?」
そう言うと皆は揃って、満足そうに頷いたのだった。
私は姿見に映る自身の姿を見る。
深い青のドレス、それにあしらわれる上品な銀の刺繍、レース。
派手ではないけれど、極めて繊巧で美しい銀のネックレスと髪飾り。
そして、耳には紫の大きなイヤリングである。
それにしても、このイヤリングはとても綺麗だわ……。
私の瞳と同じ色……。
それが、両耳で眩しいほどに輝いている。
これ以上私に似合うものはないのではないかとさえ思えた。
私は思わず聞く。
「ミオ、このイヤリングって……、とっても高いんじゃ?」
「フフッ、実はこれは旦那様の贈り物なのですよ?」
「へ……?」
何だか急に顔が赤くなるのを感じたのだった。
私は慌てて深呼吸して、落ち着きを取り戻した。
「ん? チーク濃かったですか?」
メイドの一人がそう言う。
「いいえ、そんなことはないわ! 大丈夫よ!」
「それならばいいのですが」
私は執務室にいるルーズベルト様の元に向かった。
ルーズベルト様は私を見ると目を見開いて、それから目を逸らす。
口元を手で隠す。ゴホンと意味もなく咳をする。
もしルーズベルト様が、今の私を綺麗だって思ってくれたのだとしたらとても嬉しいと思った。
「ルーズベルト様、イヤリングありがとうございました。とても綺麗です」
「あ、ああ。ま、まあ、気に入ったならば良かったが」
「はい、とても気に入りました」
「う、うん」
それから馬車に乗ると、ルーズベルト様は申し訳なさそうに言う。
「君は嫌な思いをするかもしれない。あることないこと言われるだろう」
「大丈夫ですよ。私の精神は強靱でありますので気遣いは不要ですよ?」
「そうか」
私がそうはっきりと言うと、ルーズベルト様は安心したように頷いた。
「できるだけ、すぐに帰ろうと思っている」
「分かりました。私もその方が良いです」
会場につくと、嫌になるほど注目を浴びた。
ハッと息を飲んだように私を見る視線、そしてルーズベルト様と私を見て、ヒソヒソと何かを囁きあう声が聞こえた。
私はルーズベルト様の腕を、軽く手を添えるように掴む。ルーズベルト様は一度チラと私を見たが、目が合うと慌てたように前を向いた。
始めに陛下と王妃殿下に挨拶に向かう。
挨拶の後に陛下は言う。
「リリアナ、久しいな。
リリアナとは結婚前に会って、魔道具で私との血の繋がりを確かめたな。
確かにこれは紛れもなく王族の色であった」
続けて王妃殿下が大らかな微笑みを浮かべて言った。
「公爵はこんな美人を妻にできて幸せ者ね?
上手くいっているようだし、陛下と私も安心したわ」
私が王族の血を引くことを陛下が断言し、ルーズベルト様と私が上手くいっていると王妃殿下が言ったことで、周りはどよめいていた。
「有り難いお言葉ありがとう存じます」
ルーズベルト様がそう言ってお辞儀して、私も続けてお辞儀をした。
陛下と王妃殿下への挨拶は無事に済み、ルーズベルト様と私はその後、レオン・クラレンス騎士団長に挨拶に向かった。
昔馴染みらしく、ルーズベルト様は特に嫌な顔はしていない。
クラレンス様は親しげにルーズベルト様に言う。
「ルーズベルト、久しぶりだな。
お互い立場が立場になると、中々会えなくものだな。
それにしても、お前が結婚すると手紙をよこし、そして1週間も経たずに結婚した、と聞いた時には驚いたぞ。まあ、お前の親のことを考えれば分からなくもない。この機を逃してたまるか、というものだろう。ハハッ」
ルーズベルト様はクラレンス様の言葉に苦い顔をしている。
そしてクラレンス様は私に向かって言う。
「お初にお目にかかる。俺はレオン・クラレンス。
ルーズベルトの友として、その友の妻となった貴方に会えるのを楽しみにしていました」
「私はリリアナ・エルハイムといいます。
夫からクラレンス様と友であるとは聞き及んでおります」
お辞儀をしてクラレンス様を見ると、クラレンス様は驚いたように言う。
「貴方は、元々は平民として暮らしていたと聞いたが……」
「ええ、その通りですわ」
「とてもそうには見えない」
「そうですか」
クラレンス様は何だか気まずそうに、ルーズベルト様を見る。
ルーズベルト様は言う。
「彼女は本当に平民として暮らしていた」
「そ、そうか」
「あと、彼女は別にレオンのその質問が気に障った訳ではない。ただ受け答えをしただけで、レオンに対して特に悪感情を持ち合わせているわけではない」
「そうなのか?」
クラレンス様は尚もルーズベルト様に問いかけるが、それには私が答えた。
「はい、そうですが」
「それならば良かったが……」
クラレンス様は苦笑する。
私は何故か怒っていると誤解をされる時がある。
少し話してクラレンス様が去ると、私は不思議に思って小さくこぼした。
「時々誤解をされることがあるのだけれど、一体どうしてなのでしょうねえ?」
そんな私の言葉が聞こえたようで、ルーズベルト様は思わずといったように笑った。
「私の言葉は何か可笑しかったですか?」
「ああとても」
「?」