平穏な日々と平穏な日々の終わり
今日、頼んでいた色付き、柄付きの正方形の紙を持って商人がやって来た。
私とセバスチャン、メイド長、ミオでその紙を手に取って見ていた。
「いいのではないでしょうか?」
メイド長の言葉に私は頷く。
「ええ、中々良いわね」
折り紙の色は赤、黄、緑で、柄は可愛らしい花柄である。
私は1つ、赤色の折り紙で鶴を作ってみせる。
「やはり色があるとより良いですね!」
商人はそう言うと、今度は違う紙を取り出した。
金ピカで、花柄は同じでもこちらは上品な感じである。
紙質も少しざらついていたりして、途轍もなく良質あると分かる。
とにかく、とても高そうな紙であった。
「奥様、お手を煩わせて申し訳ありませんが、こちらの紙でも鶴を折ってはくれませんか?」
「別にいいですけれど」
これは折り間違ったらいけないわね。
私はとても丁寧に折って鶴を完成させる。
「「おお!」」
皆湧き上がった。
特に商人は目を輝かせている。
「これは子どもの遊びではとどまらないものだと思ったのですよ。
上質な紙を使うことによって、芸術品のように美しいです」
「確かに綺麗だわ」
その紙の上品な花柄もどこか和風じみていて、できあがったその鶴は、なんというか元日本人の私としては懐かしさを感じられ、心揺さぶられた。
商人は言う。
「奥様、折り紙というものを広めることを許してもらえませんか?」
「売るということ?」
「はい」
「私だけでは決められないから、ルーズベルト様にも聞いてみるわ」
今回は頼んでいた子ども向きの色付き、柄付きの紙と、その上質な紙も少し購入した。
次の日、ちょうどルーズベルト様の休日であった。
教会に行かない場合、ルーズベルト様はやはり執務室で仕事をしているが、時々は休憩を挟んで執務室から出てくると私とお茶をするようになった。
そんな休憩の時、私は上質な紙で作った鶴をルーズベルト様にあげた。
「これは、とても美しいな」
ルーズベルト様は関心したようにそれを見た。
「折り紙を売っても良いかと、商人に聞かれたのですけれど……」
「ああ、セバスからも聞いた。私は良いと思うぞ。君はどうだ?」
「私も良いと思います。私のいつも行っている教会の子どもたちだけではなくて、多くの子どもたちに折り紙で遊んでもらいたいですし」
「うむ」
「その綺麗な紙で作った鶴も、とても美しいって思いました。
なんていうか、心に響くものがあります。
多くの人の心がこれを見て癒やされればと思います」
「そうだな。――それではセバスに言っておく」
「はい、よろしくお願いします」
それから、教会に折り紙を持っていき、子どもたちと一緒に遊んだ。
とても好評だったので良かった。
私は鶴や星、ハート、くす玉くらいしか折れないのであるが、売れればきっと誰かしらが考えついて種類も増えていくだろう。そう思うと楽しみであった。
◇◇◇
それから平穏な日々が過ぎていった。
そしてこれからもそんな日々が続くと思われた。
しかし、やっぱりそんな都合の良いことはないのであった。
――――いつもの朝である。
朝食の時、ルーズベルト様は気まずそうに言う。
「今度のパーティーには、君もでて欲しい」
「え?」
私は思わず困惑した声が出た。
ルーズベルト様はパーティーの類いは嫌いで、なるべく出ないようにしているが、出席せざるを得ないものは一人でサッと行って、サッと帰ってくる。
陛下も了承しているから大丈夫らしいが。
「一度も君が顔を出していないから、皆、本当に結婚したのか? 君が本当に王族の色を持っているのか等と疑っている者がいる。
それで陛下が今度のパーティーに連れてくるようにと。
まあ、結婚式も本当に内輪で行ったからな」
「なるほど。分かりました」
「マナーとダンスの講師を呼んでおく。
しかしダンスについては、踊らずに済むのならそうしたいと思っている。
もしかしたら意味がなくなってしまうかもしれないが、今回は踊らずに済んでも今後そういう機会が訪れるかもしれないから……」
「はい、ちゃんと出来るようにします」
「ああ、すまないな」
「ルーズベルト様が謝ることは何もありませんよ?」
「? あ、ああ」
次の日からパーティーまでの1ヶ月、私はマナーとダンスを学ぶことになったのだった。