エリック視点
エリック視点
いつもは学園図書館に行っているが、今日は気まぐれで王立図書館にやって来た。
一緒に来た友人マルクスは、よくこの王立図書館にも来ているようで慣れているようだった。
学園図書館よりも大きいな。
時々は来てみても良さそうだな。
本を選びどこで読もうかと見回っていると、ふと、自然であるがどこか不自然、というくらい微妙に人が多い場所があり、その中心に1人の女性が本を読んでいた。
皆チラチラ彼女を見ている。
「彼女はよく来ている常連だ。噂のエルハイム公爵夫人だよ」
マルクスはコッソリと教えてくれた。
俺はそれを聞いて内心驚く。
エルハイム公爵夫人は元々平民として暮らしていて、歳は18、名前はリリアナ、というそうだ。
……とても、途轍もなく、俺の知り合いにピッタリと当てはまる奴がいる。
タイミング的にも、俺の知り合いのリリアナと別れてすぐに結婚している。
偶然であるとは思えない。
いやもうアイツだろ、と思うが、憶測だけで勝手に決めつけてはダメだ。
いつか実際に会って確かめたいと思っていたのだ。
「この図書館の高嶺の花なんだ」
「へえ」
そして現在、そのエルハイム公爵夫人がそこにいるのだが、あれは本当に俺の知り合いの根暗女……リリアナか? 途轍もない美人である。やはり違うかもしれない。
しかし髪の色は同じである。
堂々としている感じ、姿勢も同じである。
そこにいる彼女は噂通りの紫の瞳をしている。
しかし俺の知り合いのリリアナは、いつもメガネをしていたし前髪が長かったから、黒とか紺とかそういう感じに暗く見えたし、気にしていなかったから分からなかった。
「彼女は……おっと、もう黙ろう、静かにしなくては。
ここの図書館長は厳しいんだ。追い出されてしまう」
マルクスはそう言う。
「ああ、分かった」
俺は頷いた。
すると、ふと彼女と目が合った。
彼女は目を瞬かせて、キョトンとしていた。
彼女も俺を知っている風な感じがした、のは気のせいなのか……?
やはり分からないのだった。
――――
――
「――――一緒に王都に来ないか? 勉強をする援助をする。君の家族にもお金を支援しよう」
俺はリリアナにそう言ったが、リリアナは話せないが事情があると言って俺の言葉を断った。
一体どんな事情だというのだ、と思った。
その後俺は王都に戻って、すぐに聞こえてきたエルハイム公爵夫人の噂。
俺の知り合いであるリリアナかと思える女性。
エルハイム公爵夫人は紫の瞳、王族の血を引いているらしい。
エルハイム公爵夫人が俺の知っているリリアナならば、俺の言葉に頷かなかった理由も分かる、とそう思った。
紫の瞳をしていて王族の血を引くのならば、確かに貴族である俺にとって、何かしらトラブルの種になっていたかもしれない。俺に迷惑がかかると思ったのだろう。
――――
――
図書館を出ると俺はマルクスに言った。
「エルハイム公爵夫人はもしかしたら俺の知り合いかもしれない」
「はあ!?」
「確かめてみたい。もうお昼時だ。
出てくるだろうから、ここで待っていようと思う」
「いやいや、ダメだよ! 彼女のファンたちに怒られるよ!」
「ファン?」
「彼女の読書の邪魔をする輩から守っているのだよ。
そりゃ、あれだけ綺麗なのだからナンパしようとする男もいるのさ。
それに元平民だからと嫌味を言う奴とかな」
「なるほど」
「彼女はあの堅物冷酷宰相、中年親父の妻にさせられた可哀想な人だ。
せめて読書の一時くらいは……」
「ああ、お前も熱狂的なファンなのだということはよく分かった」
「ぐう」
「しかしどうしても確かめたい」
俺がそう真剣に言うと、マルクスは溜め息をつく。
「ナンパするわけでも嫌味を言うわけでもないし、まあいいか。
そ、それに彼女と話せるチャンスだしなあ!」
それから彼女が図書館から出てきて、俺たちは近づいていった。
マルクス方が声をかける。
「ええっと、エルハイム公爵夫人」
「何でしょう?」
「コ、コイツがちょっと聞きたいことがあるようでして、その……」
俺は聞く。
「貴方の名前はリリアナ・エルハイム公爵夫人でありますよね?」
「はい」
「元々平民として暮らしていたのですよね?」
「そうですね」
はっきりとした物言いである。
声音も似ている。
「ええっと、私の知り合いとよく似ているのです」
「ええ、久しぶりね」
俺は一瞬彼女が何と言ったか理解できなかった。
「へ? ……なッ!?」
しかしすぐに、やはり俺の知り合いのリリアナだったかと分かった。
「私が分かったのではなかったの?」
「ああ、ええっと、リリアナか?」
「そうだけれど、今その呼び方はあまり良くないわ」
確かに、誤解を受けるとよくない。
「……ああ、そうだな、エルハイム公爵夫人」
「ええっと、貴方の名前は?」
そういえば名前を教えたことはなかったのだった。
「エリック・セルラングだ」
それから、
「会えて良かったわ。
まあ、いつか会うこともあるだろうと思ってはいたけれどね。それじゃ」
リリアナはそう言うと、予定があるからと去っていったのだった。
俺は去って行くリリアナの背中を見て思う。
――――ルーズベルト・エルハイム公爵か……。
この国の宰相で、気難しく神経質な方だと聞く。
大丈夫なのか……?
でも、話していた時のリリアナは至って普通の感じ……、俺の知っているリリアナの、あの謎に偉そうな堂々とした感じであった。
それにずっと行きたいと行っていた図書館の常連であるなんて、良かったじゃないか?
心配ではあるが、今日は会えて本当に良かった。
そしてまた会うこともあるだろう。
何か困ったことがあったら助けてやろう。
そう思ったのだった。
◇◇◇
「――――本当に知り合いだったのかよ! どこで知り合ったんだよ!
どういう知り合いだよ!?」
後でマルクスにしつこく聞かれたのだった。