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プレゼント、ルーズベルト視点

朝食が済み、ルーズベルト様が仕事へ向かうのに屋敷を出る時、私はルーズベルト様を呼び止めた。


「ルーズベルト様、ちょっとお待ちください」

「ん? なんだ?」


私はハンカチをルーズベルト様に差し出した。

私がエルハイム公爵家の家紋と、ルーズベルト様の名前を刺繍したハンカチである。


夫婦や恋人、親しい人には、お互いの髪や瞳の色の付いたものをあげることが多いらしい。

ルーズベルト様は茶髪に青い瞳。

私は金髪に紫の瞳。

そのため、青い縁のついた白いハンカチに、紫で家紋と名前を刺繍した。


「私が刺繍したハンカチです。良かったら使ってください」


ルーズベルト様は、私が差し出しているハンカチをずっと見て固まっている。


「ルーズベルト様!」

思わず私は呼びかけた。


「ああ! す、すまない。ありがとう……」

ルーズベルト様はハッと我に返るとそう言って、慎重、というか恐る恐る私の手からハンカチを受け取った。

そうして、いつものように仕事に向かったのだった。


「良かったですね、奥様!」

「ええ、良かったわ」

ミオの言葉に私は頷いた。


でもできれば、良く出来ているとか感想くらい欲しかったけれど。

少しくらい褒めて欲しかったけれど! むう



◇◇◇



ルーズベルト視点


「結婚生活はどうだ?」

陛下が政務中ふと私に聞いた。


「上手くいっていると思います」

「そうか! それならば良かった」

そう言うと陛下は書類に目を戻した。


上手くいっているのではないだろうか……。

今朝も彼女が刺繍したハンカチを貰ったし。

驚きすぎてお礼を言ったかどうかも覚えていないけれど。


ん……? それってまずいのではないか……?

彼女がせっかく刺繍してくれたものを貰っておいて、お礼も言わないなんて……。

いや、言ったような気もしてきた……。

なんとなく言ったのではなかったか……?

しかしもし言っていなかったら、彼女になんて酷い嫌な人だと思われているに違いない。

帰ったらちゃんとお礼を言おう――――


「――――どうした?」

「へ……?」


私は陛下の呼びかけで我に返った。


「何かあったか?」

「大したことではありません」

「いや、お前が悩むなど、きっと重要なことに違いない。言ってみろ」

「本当に大したことではありませんから」

「お前はそうやっていつも問題を1人で抱え込む。言ってみろ」


今考えていたことを陛下に言うなんて、あり得ないことだ。

しかし陛下は『言え』と目で訴えかけてくる。

陛下は仕事以外では怒らないお方だ。

この場合は言わない方が怒られる。

極めて不本意だけれど、言うしかない。


私はたどたどしく言う。

「け、今朝、彼女から、ええっと、妻から刺繍してくれたハンカチを貰ったのですが、ちゃんとお礼を言ったかどうか覚えていなくて……。言っていないとなれば、私はとても嫌な人間であると考えておりました……」


口に出すと、我ながら酷く小さなことである。

陛下を見ると、全くもって意味不明、という顔である。


「申し訳ありません。

政務中にも関わらずそのようなくだらないことを考えるなど……」


そう言うと、陛下は突然笑いだした。

「ハハハッ!!」

それから腹を抱えて、笑いだす。

「ハハッ!! ハハハハッ! ああ、可笑しい!」

私は気まずくなって目を泳がせた。


そして笑いが落ち着くと、陛下は言う。

「お前がそんなことを考えるなんてなあ!

リリアナと言ったな? どのような性格なのだ?」


「彼女は……本と子どもが好きで、よく図書館と教会に行っています。

賢く、はっきりとした性格ですが、教会で子どもと一緒にいる時はとても穏やかですね」


「ふむ。確かこの前会議でお前が言っていた、平民の学校、図書館をつくるのはどうか、平民でも魔力を測るべきだ、というのはリリアナの発案なのだったな」

「はい」

「本当に子どもが好きなのだな」

「ええ、所によっては、平民の学校や図書館に近いものがある国もあります。それを知っていたか、知らずにいたか、どちらにしろ元々平民として暮らしていたから、それも子どもが好きだったからこその考え方なのだと思います」

「なるほどな」


陛下は愉快そうに再び「ハハッ」と短く笑うと、今度は真剣になって言う。

「彼女を悲しませることをしてはならない」

その言葉は私の心に酷く突き刺さった。

「大事にするのだぞ」

「はい」

私は深く頷いたのだった。

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