寂しさ、ルーズベルト視点
帰り、馬車の中でルーズベルト様が聞いた。
「楽しかったか?」
「はい、とっても」
でも、どうしても思い出すのだった。
弟妹のことを……。
あの子たちはしっかりとやっているかしら……。
母さんも、無理はしていないかしら……?
「……寂しそうだな」
ルーズベルト様の言葉に私はハッとする。
「そ、そうですか?」
「ああ」
「そんなことありませんよ?」
私は首を横に振った。
会えない覚悟をしてこの人のところにやって来たのだ。
しかし、そんな心の声とは裏腹に、私は涙が頬を伝うのを感じた。
「ど、どうした!?」
そんな私を見たルーズベルト様は酷く動揺していた。
「ごめんなさい。……やっぱり、とっても寂しいのです。
弟妹たちのことを思い出してしまったのです……」
私はたがが外れたように泣いてしまう。
涙を止めることができないのだった。
今まで我慢していたものが、溢れ出すようだった。
ルーズベルト様は私にハンカチを差し出した。
「ありがとうございます……」
「ああ……」
なんとか慰めようとしてくれる不器用なルーズベルト様を見て、やっぱりルーズベルト様の優しさは変わっていなかったのだと思う。
そして今はそんなルーズベルト様が私の家族なのだとそう思うと、少しだけ心が救われたのだった。
◇◇◇
ルーズベルト視点
私は神父と話しながら、チラと彼女を見る。
子どもたちに囲まれている彼女は優しい微笑みを子どもたちに向けていた。
「奥様は随分子どもに懐かれているようですね」
「そうだな」
「穏やかで、優しそうな奥様ですね?」
「あ、ああ」
私は曖昧に頷く。
確かに彼女は、時々笑うこともある。
しかしこれほど穏やかな姿は初めて見たのだった。
「とても美しくあられますし、まるで聖母様のようです。
公爵様は王族の血を継いだ女性と結婚したと聞いていましたが、これほど紫の色が濃いなんて、とても神秘的なものです」
神父があまりに彼女のことを褒めるのを見て、きっと、誰しもが彼女を見るとそうなのだろうと思う。彼女に特別な何かが秘められている気がした。
帰りの馬車で、彼女は涙を流した。
弟妹たちのことを思い出して、寂しさを感じたのだそうだ。
彼女を一度、故郷に帰らせてあげてはどうだろう……?
そう思うのだが、それが良いと思うが…………。
そうしたら彼女は逃げ出してしまうのではないかと思ってしまう。
もう陛下とのお目通りも叶っており、周囲にも結婚したと言っている。
逃げられては困るのである。
涙を流す彼女を見ると、不憫でたまらなくなる。
可哀想である。
しかし、私はまだどうしても彼女を信頼できないのだった。
セバスの言葉を思い出す。
――――今まで散々女性に傷つけられて、奥様を信じるのが怖いというのは分かりますが、奥様は1度でも貴方を傷つけましたか? ああ、傷つけられる前に、自分から壁を作っているのでしたね。
奥様のことを何も知らないで、勝手に奥様を今までの女性と一緒に考えて、悪者にして、冷たい態度を取っていながら、自分が被害者だとでもいうような勢いですね。
――――私が、奥様は今までの女性と違うのだと保証しますから、奥様を信じてみてくださいな。
そして今日、教会で子どもたちに優しく語りかける、穏やかな彼女を思い出す。
私は今日、彼女のことを少し信頼することができたと思う。
少しは歩み寄れた気がする。
そうして彼女のことを信頼できるようなったら、彼女を故郷に連れて行ってあげよう。
心がキリキリと痛むのを感じた。
彼女が泣いている姿を見るのは辛い。
私は身勝手な人間なのだった。