セバスチャン視点
セバスチャン視点
私は休日にもかかわらず、執務室で仕事をしている旦那様に声を掛けた。
「旦那様、少しいいでしょうか。奥様のことなのですが……」
「どうした?」
「奥様は子どもがお好きのようです」
私の言葉に、ルーズベルトは目を丸くする。
「意外、だな」
「そうですよね」
私は思わず苦笑した。
「なるほど。だから教会に行きたいと言っていたのか」
「はい。それで奥様は子どもの教育の話をされていたのですが――――」
今日奥様の話していたことを旦那様にも伝えた。
それを聞いた旦那様は考えるよう言う。
「平民の学校、図書館か……。
所によっては、平民の学校、図書館……に近いものがある国もある。
それを知っていたか、知らずに考えたか分からないが……」
「確かに、元々奥様は平民として暮らしていたことを考えると、賢い平民もいるということです。まあ、奥様はその中でも特別だと思われますがね……」
そう言うと、旦那様は何か懐かしむように目を細めた。
「私も昔、とても賢い平民の少女と出会ったことがある」
「ほお」
「大人が読むのも難しい本を読んで、自分の考えを持っていた。
それに、とても気が強い少女でな……。まあ、それはいい」
「ふむ」
「ともかく、私もそれは良いことだと思う。
国の上の人間は皆貴族だから、そういう提案はほとんどないものだ。
だが、民衆のためにそういう考えは必要なことだと思う。
文書にまとめてみようか」
それから、旦那様はまた少し仕事をして、休憩の際私は紅茶を入れた。
そして何気ない風を装って聞く。
「奥様とはどうですか?」
「どうとは?」
「上手くやっていけそうですか?」
「上手くやって……?
うむ、彼女は我が儘ではなく、無駄遣いもしない、至って無害である。お互いに無理矢理の結婚であったが、私からすると彼女のような者で助かったと思っている。
まあ、上手くやっていけそうだ」
「そうとは思えない態度ですが」
旦那様は、奥様に対してどこか冷たく素っ気ないのだ。
「私が彼女に必要以上に話しかけたりしても、彼女は嫌だろう?
私だって、嫌だと思われるのは極めて不快だ。
好かれたい等とは思っていないし、ご機嫌取りなどしたくはない」
こ、拗らせておられる…………。
私は思わず苦笑した。
「旦那様、奥様は旦那様が思っているような女性ではありませんよ。ええっと、なんていうか、変わっておられますが、とにかく旦那様のことを悪く思ってはいません。
それに、奥様は旦那様に対して、時々とても優しく微笑んでいますよ。
気付いていないのですか?」
気付いていないわけはない。
旦那様は奥様がそうやって微笑むと、いつもの難しい顔を緩めるからだ。
「それは……、その、何故か知らんが、そんな風な時もあるな」
旦那様はどこか戸惑ったように、そしてそれを隠すようにむすっとしてそう言うのだった。
私は旦那様と奥様が愛する仲になって欲しいとまでは望まない、ただ、2人が良いパートナーとなることを願っていた。
私は心を鬼にして声音を低くして言う。
「旦那様、子どもではないのですから、駄々を捏ねていないで、もう少し奥様に歩み寄ってくださいね。今まで散々女性に傷つけられて、奥様を信じるのが怖いというのは分かりますが、奥様は1度でも貴方を傷つけましたか? ああ、傷つけられる前に、自分から壁を作っているのでしたね。
奥様のことを何も知らないで、勝手に奥様を今までの女性と一緒に考えて、悪者にして、冷たい態度を取っていながら、自分が被害者だとでもいうような勢いですね――――」
そうすると、旦那様はみるみる青ざめるのだった。
「――――わ、わるかった! 私がわるかったから!」
フゥ、分かってくださったようである。
「私が、奥様は今までの女性と違うのだと保証しますから、奥様を信じてみてくださいな。では、教会には旦那様も一緒に行ってくださいね」
「な!? ……うぐ、分かった」
旦那様は渋々といったように頷いたのだった。