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何しようかしら?

3ヶ月ほどでこの屋敷の本は全て読み終えた。


――――ええっと、今度は何をしよう……。


ミオに聞いてみると、ミオはなんだかとても目を輝かせていた。

「やっと、この屋敷の全ての本を読み終えたのですね! 

そうですねえ。刺繍はどうですか……?」


「読書と大して変わらないのでは……?」


「全然違いますよ! 刺繍は淑女のたしなみです!

できるようにしておいた方がいいと思います!

それと、ドレスやアクセサリーを買いましょう!

普通、女性は本よりもそちらの方が興味があるものですよ。

奥様の身支度を整える私としては、ずっと奥様に合うドレス、宝石を選びたかったのです!」


「そんな、買い物なんかして大丈夫かしら?」

「無駄遣いしなければ大丈夫ですよ!

というか、公爵夫人なのですから、自分に合ったドレスやアクセサリーを持っていないとなりませんよ」


それからミオはつまらなそうにに言う。

「奥様がもっと学びたいのでしたら、教師を呼ぶこともできるでしょう」


「ええ!? そんなこともできるの?」

「旦那様の許可をとった方が良いと思いますけれど、学ぶことは悪いことではないですし、許してくださると思いますよ」

「そ、そうなのねえ。でも、教師は別にいいの。

私は自分で好きな本を読んで学びたいだけなのよ」

「そうなのですか?」

「ええ、できれば図書館に行ってみたいわ」


図書館は王都にしかなく、貴族しか入ることができない。

王都から遠く離れた街に住み、そもそも平民として暮らしていた私は、もちろん、入ったことがないのだった。


「それくらいなら許可を出してくれますよ」

「そうなら嬉しいわ。

……あとは何をしようかしら。

というか、その刺繍のように、何か公爵夫人として出来た方が良いこと、しておいた方が良いことはあるのかしら……?」

「そうですねえ。メイド長にも聞いてみましょうか?」

「なるほど。それでは私が聞いてみるわ。

正直ここの屋敷の人とは、ミオ以外ほとんど話していないし」

交流をはからなければ……!



それから私はメイド長を探し出すと、呼びとめて言った。

「相談したいことがあるのだけれど、少しいいかしら?」

メイド長は頷く。

「はい。なんでしょう?」


「私はここずっと読書をしていたのだけれど、もうこの屋敷の本は全部読み終わったわ。これから何をして過ごせばいいのか考えているの。

ルーズベルト様は好きに過ごしていいとおっしゃってくれたけれど、公爵家の夫人として、何かやった方がいいこと、または身につけた方がいいことはあるかしら?」


「では、刺繍はどうですか? 貴族の淑女として出来た方がいいと思います」

「そうねえ。それはミオにも言われたわ。

2人が言うのだから、刺繍はしてみるわね」


するとメイド長はどこか探るように言う。

「旦那様に何か刺繍して差し上げるのはどうですか?」

その言葉に私は軽く頷いた。

「そうね」

そういうのも良いだろう。


メイド長はよく分からないという顔で私を見ている。

何かを確かめようとしているようにも感じる。


「どうかした? 何か言いたいことがある?」


私が首を傾げて聞くと、メイド長は意を決したように言う。

「奥様は、旦那様のことをどう思っていますか?」


メイド長の真剣な様子から、上辺だけの褒め言葉ではなく、本心が聞きたいのだということは分かる。

私は少し考えた。そして素直に思っていることを言った。


「どう思っているか……、うーん……。

いつも難しい顔をしているなあとか……。

ああ、誤解をされると良くないから言っておくけれど、悪い風に思ったことはないわ。ルーズベルト様は私に関心がないようだけれど、私としては本ばかり読んでいても文句を言われないのはとても有り難いわ」


「な、なるほど……」


それから私はコッソリ言う。

「あのね、実はルーズベルト様とはずっと前、まだ私が幼かった頃に会ったことがあるの。私の育った街にルーズベルト様が来たの。

短い間だったけれど、たくさん話をしたわ」


「ええ!?」

メイド長はそのことにとても驚いた様子だった。


「メイド長はルーズベルト様が幼い頃からこの屋敷にいたから知っているでしょうから言うけれど、ルーズベルト様は昔とても気弱な性格だったわ。

あのルーズベルト様を知っているからか、冷たく素っ気ない態度を取られても、悪い風に思えないの。

あの頃のルーズベルト様は気弱だったけれど、とっても優しかった。

その優しさは変わっていないって感じられるのよ。

なんだかんだ、無視をすることはしないし、嫌味1つも言わないしね?」


私は悪戯に言う。

「このことは秘密よ? 私ったらその頃とても生意気で、ルーズベルト様にたくさん無礼なことを言ったわ」


「フフッ、分かりました」

メイド長はそう言って、緊張が解れたような優しい顔を私に向けたのだった。



「――ここにいらしたのですね! 奥様」

その時ミオがやってきた。

「私がメイド長を連れてきますと言いましたのに……」

私が先に見つけたけれどね。


その日は、ミオに教わりながら刺繍をした。

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