メイドさん
「んぅ…………」
目覚めると、よく寝たと思って、次に昨日のことを思い出す。
「うーん……」
昨日は結婚式だった。
えっとここは――――
「ハッ…………!!!」
私は勢いよく起き上がった。
「まさか……」
隣には、もうルーズベルト様はいない。
ね、ね、寝坊…………!? この私が!?
私は急いで部屋を出る。
すると、ちょうど入ろうとしていたメイドさんとぶつかりそうになった。
「申し訳ありません……!」
「ごめんなさい!」
「ええっと……」
「奥様を起こしにまいりました」
「ああ、ごめんなさい。私ったら、なんてこと……、寝坊だなんて。
ルーズベルト様は何か言っていましたか?」
「大丈夫ですよ、旦那様は疲れているだろうからゆっくり寝かせてやってくれと言っていました」
怒ってはいないようである。
「ああ、良かったです」
しかし、呆れられてはいるかもしれないわ……。
「そろそろ昼食の時間でしたので、起こしにまいりました」
「そんなに寝てしまったのですか……。
ルーズベルト様はどちらにいますか?」
まず謝らなくてはならない。
「旦那様は執務室でお仕事中ですが、昼食はご一緒できると思います」
「そうですか」
それならば早く向かおう。
「ええっと、昼食でしたか……?」
「はい。その前にお着替えを」
そういえば寝間着のままである。
それから、着替えが済むとそのメイドさんは言う。
「自己紹介が遅くなって申し訳ありません。
私は奥様専属メイドになりました、ミオと申します。
これから精一杯奥様のお世話をさせていただきます。
よろしくお願い致します」
ミオさんは嬉しそうに微笑んだ。
ミオさんは私よりも少し年上くらいの人である。
まだ性格は分からないが、話しやすい感じはする。
「よろしくお願いします。ミオさん」
「奥様、私のことはミオと呼び捨てでお願いします。
それに、敬語でなくて大丈夫です」
「……そういうものなのね?」
「はい」
ミオさん、ミオは頷いた。
確かに、この公爵家の夫人となったのだから、年上だからとメイドにそういう態度をとっていては、この公爵家の夫人として相応しくないと思われる。
私は理解した。
「なるほど。分かったわ」
そう言うと、ミオはホッとしたようだった。
「でも、私は分からないことだらけだから、いろいろ教えて欲しいわ。
間違えていたら、気を遣わずに言って欲しい。
こうした方が良いと思ったことがあったら言ってほしい。
それは駄目かしら?」
私の言葉にミオは少し考えた後に言う。
「そうですね。傍に人がいる時でしたら言える範囲で、奥様と私しかいない時でしたら私の考え得る限り話しましょう」
「ありがとう」
「いいえ、奥様の力になれるように頑張ります!」
ミオはやる気に満ちたように力強くそう言った。
私に対して侮りなどは全く感じられない。
本当に慕ってくれているように感じる。
それはとても嬉しいが疑問に思う。
私は少し前まで平民として暮らしていたが、それについてミオはどうとも思わないのだろうか。
それとも知らないのだろうか……、いや、私付きのメイドなのに知らない訳がないだろう。
私は聞いた。
「私のことは知っているわよね?
つい最近まで平民として暮らしていたわ。
そんな人間が突然公爵家の夫人となった。
私のメイドとなることに不満はないの?」
ミオは驚いたように言う。
「そんな、不満だなんて!
私はとても光栄な気持ちでいっぱいです!」
「そうなの?」
「はい!」
私が疑問に思うのが分かったのかミオは話してくれた。
「旦那様にようやくできた奥様です。
旦那様を慕う私たちメイド、使用人たちのほとんどはとても喜んでいます」
ほとんど……ね。
「それに、王族の色をもつ、美しい奥様です。
私は奥様を見た瞬間、心惹きつけられました」
ミオは興奮したように、言葉で言い表すのは難しいとたどたどしく言う。
「奥様の周りだけ空気が違いました!
なんというか、清廉さ、気高さを感じたのです!!
奥様は――――」
「――――わ、分かったわ! 分かったから!」
私はなんだか恥ずかしくなって、慌てて止めた。