思い出2
「あーあ、こんなちんけな本屋ではなくて、王都の本屋に行ってみたいわ」
「ちょ……!」
男は本屋の店主を気にして私を止めるように言う。
そんな男を私は思わずつまらなそうに見た。
「つまらない男ね」
そして思わず口に出した。
男はムッとしたような表情をする。
「図体は大きいくせに、人の目ばかり気にする小心者のようね」
私はその本を買って、なんとなく2人で本屋を出た。
そうするといつもの悪ガキたちが私に絡んでくるのだった。
今は落ち着いたが昔の悪ガキ、ザクたちである。
「お!? 根暗女、また本屋かよ!」
「本なんて読んでも何にもならねえのになあ!」
「ブス、ブース!」
男は怒っていたようで、何かを言おうとしていたようで、しかし口ごもっている。
私はいつものように口を出した。
「別に良いでしょ! うるさいわね!
頭スッカラカンな低脳と話す価値はないのだわ!
一々絡んでこないでくれない?
鬱陶しいわよ? どんだけ暇なのよ!」
それからなんやかんやと多少言い合った後、悪ガキたちは退散していったのだった。
男は私を目を丸くして見ていた。
「何?」
「いや……」
男は目を逸らすが、私には男が何を思ったのか大体分かった。
男子3人相手にあれだけズバズバよく言い返せたな、とかそんな感じだろう。
私は言う。
「貴方も図太くなったらいいのよ、私みたいに。
堂々としていなさいよ、情けない。
もっと背筋を伸ばして! せっかく背が高いのだから」
「いや、背が高いのは目立つから……」
「目立ってもいいじゃない。何? そのお腹が気になるの?」
私はそう言ってその男のお腹をポンポン叩いた。
男は言う。
「う゛……、そうだよ。僕はデブで醜いし、その上背も高くて目立つなんて最悪だ。まだその体格を活かして騎士にでもなっていれば堂々としていられたかもしれない。でも僕は本が好きだったから……」
「嫌な視線を浴びると分かっていて好きなことをしているのだったら、覚悟決めなさいよ! もういいんだって、人目なんて気にしないって!」
そう言うと、男は目を見開いて、どこか眩しそうに私を見るのだった。
――――
――
それから5日間はこの街にいるというのでよく話をした。
男は本当に自分に自信がないらしい。
それを相談する人が今までにいなかったのか、こんな子どもの私に情けなくも言う。
「僕は自分で言うのもなんだけれど頭が良い、たくさん勉強してきた。そして今はその頭脳を活かした職についているのけれど、うまくいかないんだ。
人間関係を築くのが苦手だ。
人前で話すのが苦手だ。
それはきっとこの容姿のせいだ。
今までこの醜い容姿について散々言われてきたせいで、いつしかそんな性質になってしまった。そんなんではいけないのに……。どうすれば君のように堂々とできるのだろう」
同じ話をループしているような気がするわ……。
私はダメな生徒に熱心に言い聞かせるように、何度でも励まして慰めるのだった。
「貴方がまた変わるのよ。
人に散々言われてきたせいで性質が変わってしまったというのなら、今度は仕事柄変わるしかないじゃない。
その小心者の性質じゃあ務まらない仕事なのでしょう?
変われないというのならば、今の仕事への熱意はそれくらいだったというものよ。
職種はたくさんあるわ。頭脳を活かす職も他にあるのではないの?
貴方は今の仕事を続けたいと思っているの?」
「僕は、今の仕事を辞めたくないよ。
たくさん勉強してようやく叶った夢なんだ」
「ならば変わらなければならないのだわ」
「そ、そうだな、確かに。変わらなければな」
男は自分に言い聞かせるように言うのだった。