引き裂かれるきずな
以前ここで小説を書いていた者です。2年のブランクはありますが、読まれる方に面白いと思って頂ける物を書こうと思いますので、何卒よろしくお願いします。
1945年、この年は人類にって歴史的な年だった。人類史上最大の戦争、第2次世界大戦が終結した年だ。ドイツ、そして日本は敗れ、連合国によって分割占領されることとなった。
しかし、これは悲劇の始まりに過ぎなかった。冷戦の始まりである。
ヨーロッパや日本の退潮による米ソの台頭、資本主義と社会主義のイデオロギーの対立、第2次世界大戦において敗戦国になり分割占領された日本も例外ではなかった。
樺太、千島から東北地方まではソ連が、関東甲信越及び北陸、近畿はアメリカが、九州四国はイギリスに占領され、1940年代末に米ソ両国の支援をうけたドイツや朝鮮半島、ベトナムで分断国家が次々に誕生し、日本もソ連の支配地域は蝦夷共和国、米英の占領地域は引き続き日本国となった。
これは分断が産んだ仮想日本の物語である。
1951年7月、神奈川県横浜市
「秀大朗!少し手伝っておくれ!」
学校からの帰り、玄関を開けようとした僕を母さんが呼び止めた。
「分かった!野菜を運べばいいんだね?」
確かに畑の脇道には収穫した野菜が山のように積まれていた。父さんが戦争で死んでからは、祖母と母、妹と四人で暮らしている。男手は僕しかいない。
こういう重労働は、すべて僕の仕事だった。
*
「ふぅ~疲れた!」
一仕事終えて縁側で汗まみれのまま大の字に寝転んだ僕に、妹のさくらがタオルと水を持ってきてくれた。
「兄さん、はい、これ」
「ありがとうさくら」
さくらから受け取った水を一気に飲み干した。五臓六腑に染み渡る。
「お母さんが夕飯の準備をしてるから、それまでにお風呂に入ってきて」
「了解」
*
僕が風呂からあがると、夕飯はまだちゃぶ台にはなかった。代わりに母さんとさくら青い顔をしてかじりつくようにしてラジオに聞きいっていた。
「母さん、さくら、なにかあったの?」
「『なにかあったの?』じゃないわよ!あんたもラジオを聞いてごらん」
母さんに言われるままラジオに耳を傾けると、臨時ニュースが流れていた。
『臨時ニュースです。臨時ニュースです。本日夕方、東の赤軍が勿来の関に奇襲攻撃をし、我が軍及び米英軍と戦闘状態に入りました。繰り返します。本日夕方日本労農赤軍が我が国国境に奇襲攻撃を行い、日米英連合軍と戦闘になりました。なお、戦闘は現在も行われており…』
「お母さん…これどういうこと…?また戦争なの」
さくらの問いに母さんは呆然とした様子で小さくうなずくだけであった。
「兄さんに、赤紙なんて来ないわよね?」
「ぼ、僕に?」
「大丈夫よさくら!赤紙はそもそも徴兵期間を終えた予備役の人たちを召集するためのものだから!軍に行ったことのない秀大朗にそんなもの来るはずないじゃない!」
母さんは気丈に笑っていたが、僕に向けられた視線は祈るようなそれであった。
「そうだよ!銃の使い方も知らない僕が戦に行っても使い物になるはずないよ!それにアメリカ軍もいるんだぜ!すぐにやっつけてくれるよ!」
僕も母さんに合わせて笑って見せたが、なおもさくらの表情は不安げなものだった。
*
僕たち一家の願いも虚しく戦況は最悪であった。連合軍は中国やソ連の手厚い支援を受けており、強力だったのだ。僕たち一家の住んでいる横浜にもあっという間に赤軍が攻めてきて、僕たちは避難することになった。
「母さん準備できた?」
「私は大丈夫よ、さくらは?」
「もうちょっとだけ待って」
さくらは自分の力では到底持ちきれないような大荷物を持っていた。
「さくら!それはいくらなんでも持ちすぎだろ!」
「ダメだよ!これ以上は捨てられない!全部大切なものなの!」
さくらは頑として譲らなかった。そのとき。
ドドドドォーン!
「キャア!今のなに!?」
「砲撃だ!敵がもう多摩川の辺りまで来てるんだ!さくら!荷物はもういいだろう!早く避難するぞ!
さっきの爆発音でさすがに観念したのか、さくらは中くらいの風呂敷に入るものしか持って来なかった。
こうして着の身着のまま家から逃げ出した僕たちは、途中で大行列に捕まってしまった。
(おいおい、なんだこの大行列は)
「アンちゃん、こっからさきはもうだめだ!横浜駅は人がごったがえしていて当分乗れそうにない!その前にアカが来ちまうぞ!」
乗客の混乱をどうにかしようとしていた駅員の忠告にしたがって、徒歩で避難することにした。
数ヵ月後、僕たち一家は、無事兵庫にいる親戚の家にたどり着くことができた。親戚といってもほとんど交流のなかったから、最初は穀潰しのように扱われるのではないかと心配だったが、こころよく親戚一家は受け入れてくれたので、ホッと一安心した。
しかし、これは一時の喜びに過ぎなかった。
数日後
ドンドン!と玄関を叩く音がしたので、お母さんと一緒に留守番をしていた私が応対することにした。
「はい」
玄関を開けると、スーツをピッチリ着こんだ男が立っていた。
いかがでしたでしょうか?次回より本格的に物語が動きだします。不定期投稿ですができるだけ早めに投稿できるように書いていきます。