ベルフェゴール家の確執
ルイス・ベルフェゴールは貴族の家に生まれた。
ベルフェゴール家は代々優秀な魔術師を産み落とす名家である。貴族階級は二等子爵であり、豪遊こそできぬものの、そこそこに裕福な暮らしぶりであった。
領地から税金を徴収していたが、他の貴族の徴収する金額よりも、かなり少額である。領民たちは飢えることも無く暮らせていた為、信頼関係は良好であった。
だが、順風満帆とは行かなかった。通常、貴族の跡取りは息子でなければならない。養子を取るという選択肢もあったが、魔術師の血。とりわけ優秀な魔術回路を欲していた。
ベルフェゴール家の家長である アレクシア・ド・ベルフェゴールは、此度産まれる子供は男の子であってほしい、そう願っていた。
だが、ルイスの母は不妊の気があり、なかなか子を宿すことは無かった。
ルイスが産まれたのは、長女のアリシア・ベルフェゴールが産まれてから、実に8年ぶりの事である。
この世に生を受けたルイスは家族の寵愛を一心に受け、すくすくと育っていった。
───ある一点のみを除いて。
魔素欠乏症である。この病は先天性であり、魔術回路になんらかの異常があり、魔素を生み出すことも、魔力を作る事もできない。原因は不明。
ルイスが産まれて8年目の春、ルイスは倒れた。体内の劣化魔素を体外に排出、もしくは体内に吸収できないルイスは、高価な薬と、魔術師の医療魔術により、延命されていた。
ルイスが産まれて12年目の秋、今まで暖かだった家庭は既に崩壊していた。ルイスの母は病床に伏すルイスに会いもせず、食事や身の回りの事などは、全て女性の召使いに任せきりであった。
ルイスが産まれてから2年ほどは、召使いに料理を教わって、自らの手料理を食べさせていたというのに。
父のアレクシアも同様にルイスに会いに来ることは無かった。ルイスにかかる医療費で、もはや家計は火の車であった。それまで低かった税金を徐々に上げていき、領民たちの懐は既に干乾びていた。
それでも足りない。各所に金の無心をしに行ったり、金になるならばと高価な物は次々に売っていった。
だが、それはルイスへの愛ゆえの行動ではなかった。もはやアレクシアの歳では子を成す事もできない。だが、絶対に魔術師の血脈だけは絶やしてはならぬ。と、妄執に取りつかれていたのだ。
そんな中、アリシアだけはルイスに会いに行った。物語を聞かせてくれたり、綺麗な外の景色を語ってくれた。
ルイスの世界では、もはやアリシアだけが心の支えであり、同時に家族愛と呼べるのもが、心に育まれたのもアリシアだけであった。アリシアは母同然であった。優しく、聡明で、美しく。かけがえの無い物。
それから3年後、ルイスの症状は回復した。完治したと言ってもいい。
かなり実験的な手術だったが、魔術回路を移植したのだ。奇跡的に拒否反応も無い。
それから、回路を癒着させるための魔術鍛錬にルイスは没頭した。生き地獄であった。
回路が焼けただれるまで鍛錬。そんな辛い日々なのに、アリシアには、ついぞ手術の日から会えていなかった。
召使いにアリシアの事を聞くと、皆一様に表情が固まり、言葉を濁した。
ルイスが真実を知ったのは半年後だった。屋敷のどこを探してもアリシアがいないので、ものすごく嫌だったが、父上に聞きに行った。
そう、アリシアは魔術回路を引き剥がされ、死亡した。実の父の命令によって。
そこで、ルイスとしての記憶は途切れている。