プロローグ
この世界の誰一人、見たことがないものがある。
そう簡単に見つけられない様に、僕らは心に隠したんだ。
学校での授業中、登下校の歩く途中、寝る前の時間。
憂鬱な雨の日や、日差しがきつい晴れの日や、穏やかな陽気の日や。
マトモ過ぎる毎日で、一度は考えたことがあるソレ。
でも、絶対に叶わないソレ。
時には、特異的な能力が身に付いたり
時には、美少女に異常にモテたり
時には、周りにチヤホヤされたり
時には、世界を救う勇者、英雄、正義になったり
時には、過去に戻ってやり直してみたり
時には、自分に優しく、等身大の自分を受け入れてくれる。そんな美少女たちとハーレムを築いたり。
時には、異世界にチートでハーレムで最高な世界だったり。
そんな妄想、空想、仮想、幻想。
だが、人はいつしか成長するにつれソレを忘れ行くものだ。
ソレは、幼児的万能感とも言う。童心や、純心とも言うかもしれない。
ならば、ソレとは何か。その答えは、人間ならば皆が持ち合わせているココロ。大抵の人は成人していれば、記憶の片隅にでも、忘れている事だろう。
子供の頃は、本気で空が飛べると信じていたり。
心を集中させれば、手のひらから魔法が出ると信じていたり。
自分は特別で、たぐい稀なる人間なんだと、本気で信じて少しも疑わない。
大人のよく言う、「子供の頃は良かった」の正体。いや、根源。
一部の人間以外は、世の中や社会に揉まれて、自分が万能でないことに気づき、次第に環境に順応して行く。
人間社会じゃあ、大切にされるのはそういう人間だけれど、今回に限っては違う。
一部の人間。何もしてこなかった人間。何もされなかった人間。
端的に言ってしまえば、何でも自分の思い通りになることを期待し、それが叶わないと、平静を保てなくなる。そんな人間。
そう、そんな儚く朧なソレにすがる、哀れな少数派もいる。見て見ぬふりはできない。
世の中から、社会から、学校から、友達から、知り合いから、異性から、同性から、人間から。
適応できなかった、そんな人間もいることを忘れてはならない。
彼ら、彼女らは、時として罪であるかのように人々から糾弾され、追放される。
彼らは、彼女らは、別にそれを好んで選んだ人生では無かった筈だ。
きっとそうならざるを得なかった、人生の外れクジを引かされた連中に、いったい何の罪があるというのだろうか。
そう、世界は連中に何も与えず、連中を使い捨てた。
だから、常人に備えつくであろう倫理観や知識から体の動かし方まで。
学ぶことができなかった。いや、許されなかった。
そんな……、世界に許されなかった彼らは、誰にも侵されない思考の中に、平穏と刺激を求める。
弱者に罪はないのだから。
僕らも彼らに、彼女らに、寛大に、寛容に、なるべきではないだろうか。
なぜならば我々も、彼らの因子を、未だ色濃く残しているのだから。
自分の事のように親しく思おう、いつか罪を犯すその日まで……。