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転生してきた悪役令嬢に聖女の座を奪われてました!  作者: 戸次椿
第1章 聖女は死を選んだ
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聖女は死を選んだ ー06ー

「ランク……SSS(トリプルエス)……こんな表記があるのね、初めて見たわ…………じゃない」


 え?どういうこと?

 今まで見てきた『ニケ』の最高ランクはSだった。

 それ以上?それより2つも上のランクってこと?

 もう『勝利のニケ』とかじゃなくて、『救国のニケ』とかに名前を変えた方がいいんじゃない?


 この世界での『聖女』とは『神に愛されている少女』のことだ。

 「聖女の強さ」はイコールで「彼女(わたし)がどれだけ神に愛されているか」に通じるともいえる。

 ということは、だーーー



「どれほど神様に愛されているっていうの、私」



 「私」はSSS(トリプルエス)の横に、最高ランクを示す星が飛ぶほどに神に愛されている。

 聖女としてみた時、私の強さに敵うものなんてこの世界が有る限り表われやしないだろう。

 それはもはや、恐怖だ。

 だって……


「こんなにも愛している(ニケ)が今度こそ本当に死んでしまった時、この世界はどうなるのかしら」


 神は世界を救うのだろうか。

 それとも怒り狂うのだろうか。

 ニケが死んだ後、また他の子を愛するのだろうか。

 聖女はまた生まれてくるのだろうか。

 それとも、もう二度と聖女は現れないのだろうか。


 ゾッとする。

 全身の血が冷えていくのを感じた。


 もし、もしも……

 もしも「私」が死んでしまったら、もう二度とこの世界に聖女は生まれないかもしれない。

 魔獣が世界を喰い尽くし、魔王が支配してしまうかもしれない。

 それよりも前に神が世界を破壊するかもしれない。


 死にたくない。

 今までだってそう思っていた。

 けれど違ったのだ、私は死ねないのだ。

 ニケは拳を握りしめて、そしてーーー


 笑った。


「情けなく死ぬつもりなんてこれっぽっちもないわ」


 例え神に愛されていようが、嫌われていようが。

 この世界中を敵に回したって。

 死なない、生きてやる。

 どれだけ情けなくたって生き抜いてやる。


「私はジョゼフィーヌに謝らせて、そして世界征服するんだから!」


 だって私は生き残った。

 だとしたらまず考えることは1つ。

 この世界でどう生きていくか、その方法。


「私のランクがこんなに高いから初っ端からドラゴンと遭遇しちゃったのね」


 ゲームでは主人公のランクの高さが、ゲームの難易度の高さだった。

 つまりニケがSSSということは、この世界はSSSの難易度。

 生半可な気持ちでは生き抜けない。

 魔女としては出来損ないと判断されていたニケが、森に行くことができなかったのも頷ける。

 ランクの低い魔女が要塞学園の外に出ること、それは即ち死を意味しただろう。


「ということは、ケリーやオスカーのランクもSSSかそれに近いってことね」


 自分のステータスを確認しながら、ニケは呟く。

 ふと、自分の指が動かしづらく感じでニケは眉を寄せた。

 気のせいだ、と言われたらそれまで。

 けれど確かに、何かに引っかかったように指の動きが悪い。


 嫌な予感がしてニケは周囲を見渡した。

 特に何も変わったところはない。

 精霊達は思い思いに遊んでいる。


 気のせいだったのかしら。

 ニケは軽く手を振り払ってから、ステータスに視線を戻した。

 難易度が高かったって基本的にストーリーにはそこまで影響はない。

 登場する魔獣の種類が変わるだけで、魔女も魔獣もランクは固定されているし。

 SSSの主人公にはSSSの敵が誘われるだけだ。


 ただ、イベントで出現する攻略対象(キャラクター)のランクは変動する。

 例えば聖女として認められるための儀式。

 そこで聖女が呪いを解く王子、ケリーのランクは主人公である聖女のランクに近いものとなる。

 何故か魔女のジョゼフィーヌが聖女として認められてしまったが、ケリーのランクは本来の聖女であるニケのランクに近いものになっているだろう。

 魔女は他人のステータスを見ることができないらしいので、ジョゼフィーヌが王子のランクを知っているとは思えない。


(ただ……体力や魔法力はわかるから、ケリーのランクが高いことは承知しているのでしょうね)


 ストーリー上、絶対に回避できない固定のイベントで登場する魔獣。

 そしてそれに伴って呪いが解かれる『呪われた子』。

 その人達はいわゆるメインキャラクターというやつで、ゲームのオープニングやらPRやらメインビジュアルを飾っている。


 オスカー・エバンスもその1人。

 彼は聖女の噂を聞きつけて自ら助けを求めてくる。

 オスカーは自身が魔獣化した時に母を襲い、大ケガをさせてしまったのだ。

 魔女であった母によって呪いは半分解けていたが、回復魔法を使えるのは聖女しかいない。

 母を助けてほしい、助けてくれるならば何でもする。

 それが彼との出会いだった。


 ケリー王子は金髪碧眼の柔らかそうな雰囲気を持つ、正統派なイケメン。

 対してオスカーは大柄でぶっきらぼうで野生的。

 そんな彼が見かけによらず家族思いで、優しく、一途なところがいいと人気があるキャラクターだった。


「オスカーのお母様は無事なのかしら……」


 この世界でオスカーが頼るのは偽の聖女。

 魔女は回復魔法なんて使えない。

 今のニケには、オスカーの母親の無事を祈るしかできなかった。


「ん?」


 ステータス画面を見ていたニケの瞳に、とんでもない文字が飛び込んできたような気がして眉をひそめる。

 聖女は魔獣を見た時、ただの魔獣なのかそれともヒトなのかを判断できる。

 その能力があるせいか、ヒトよりも魔力を感知しやすい。

 ステータス画面の中には、その能力によって己が検知した魔獣の種類などが記載されてるページがあるのだ。


火竜(サラマンダー)はさっきのドラゴンのことでしょ、じゃあ…………これは」


 もちろんそこには、すれ違っただけの魔獣でも記載される。

 擬態などで自分が気づいていなくても、いつの間にか記載されていたりするのだ。

 だけど、この名前はーーー



「私、魔王と会ってるみたいなんだけど」



 対峙した覚えはない。

 けれどそこに記載があるということは、ニケの検知能力が届く範囲に魔王がいたということ。

 ニケのランクがSSSということは魔王のランクもそれに近いということで、つまりはちゃめちゃに強いということで、つまりつまり……


「よく生きていたわね、私……」


 戦う術もないのに。

 改めて思うと、寒気がする。

 未だにその姿を見せることのない魔王。

 ゲームでも魔王の詳細までは発表されていなかったので、どんな魔獣なのかもニケは知らない。


 とにかく何としても早急に、戦う術を手に入れなければ!

 ニケはそう決意する。

 要塞学園に戻りたいし、パートナーも欲しい!

 ニケと相性の良い聖属性の『呪われた子』なんて贅沢はいわないから、できるだけ早く!


「と、待って。危ないわ」


 視界の端で、ふざけ合っていた精霊達が洞窟の壁にぶつかりそうになっているのが入った。

 ニケは声かけたが、一歩遅い。

 精霊の1人が壁にぶつかるーーー……

 思った瞬間、闇に包まれている壁が動いた。


「え?」


 それに呼応するように、壁が動く。

 いや、動いているのは壁ではない。

 壁に張り付いていた『何か』。

 驚いた精霊達がニケの近くに集まる。

 キラキラと輝く精霊達のオーラのおかげで、ニケはようやく異変に気付いた。


「何かが私の身体についてるわ……」


 壁が動く。

 身体につく何か。

 ニケは目を凝らす……

 そして気付いた、それは。


「蜘蛛の糸?」


 壁には無数の蜘蛛が這っている。

 手のひらくらいはありそうな黒い蜘蛛。

 しかしニケの身体にまとう糸は、それらの蜘蛛が出したものではない。

 精霊達が蜘蛛の糸の先を照らしてくれる。

 キラキラと輝く蜘蛛の糸は、奥へ奥へと続いていた。

 真っ暗で、先が見えない洞窟の奥へーーー


「行くしかないのよね……」


 蜘蛛の糸はどれだけ頑張っても千切れない。

 ならば行くしかない。

 糸に巻きつかれた指先が動きづらかった。

 このまま身体の自由を奪われてしまうのは賢明ではないのは確かだ。

 ニケはゆっくりと歩き出す。


 ざわざわと騒ぎ立てていたのは蜘蛛なのか、それともニケの胸の奥でわきあがる不安なのか。

 ニケにはまだわからなかったーーー



ブクマも評価もすごくすごく嬉しいです!

ありがとうございます(´˘`*)

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