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転生してきた悪役令嬢に聖女の座を奪われてました!  作者: 戸次椿
第1章 聖女は死を選んだ
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聖女は死を選んだ ー02ー

この世界は

赤い眼をした魔女が殺された時

呪いによって支配されたーーー……



『私を死に追いやった者共よ!後悔するがいい!』


 赤い眼をした魔女は、火に燃やされながら高笑う。


『この世界に生まれ落ちた男子は14歳になると皆、魔獣に変わる!魔獣に知性はない!魔獣は魔獣の本能のまま、ヒトを襲い、家々を壊すのだ!お前達は我が子を殺せるか!?』


 火の中から魔女は民衆を指差した。

 人々に恐怖が伝わっていく……


『私と同じく魔女になった者だけが魔獣の呪いを解くことができるだろう!お前達は魔女を排除しようとした結果、魔女を生み出すのだ!』


 アハハハハ!

 魔女は笑う、楽しそうに。

 その美しい顔を燃やされながら。


『私の弟子は魔王となるだろう!そして私の灰は風に乗り、獣を魔獣に変える。この世界は魑魅魍魎が渦巻く世界となるのだ!我が子なのに見分けが付かぬと嘆くがいい!魔女に頼るがいい!お前達は永遠に後悔するのだ!』


 そうして魔女は灰となった。

 魔女の灰は風に乗り、飛び去っていく。

 人々は神に祈った。

 神の声を聞くといわれる少女も、深く深く祈った。

 祈りは聞き遂げられ、神は降臨された。

 精霊王達と共に。


『私達にその呪いを解くことはできない』


 神々は告げる。

 ゆっくりと、静かに。


『しかし君達に力を貸そう。精霊の力を得て、良き魔女となり魔獣をヒトに戻すのだ。けれど……』

『魔女は完全に魔獣をヒトに戻すことはできない。呪いが強まる新月の夜だけ、ヒトは魔獣に戻ってしまうだろう。魔王に打ち勝つこともできない』


 精霊王達は少女達に力を与えた。

 そして神は、神の声を聞く少女を呼び寄せる。


『神の子である聖女だけが、魔王に打ち勝つことができる。完全に魔獣をヒトに戻すことができる』


 神と精霊王達は告げる。


『この戦いは何代にも渡ることとなるだろう』

『けれど決して諦めてはいけない』

『聖女が生まれるまでは魔女がこの世を正すのだ』

『そうして愛おしき聖女が、この世界を救うだろう』



こうしてこの世界には

魔王と魔獣と良き魔女と

そして神に愛された聖女が生まれ落ちたのだった……



◯◯◯



「完全にニケの顔をしているわね、私」


 そして話は変わり、深い森の中。

 水の音と月の明かりを頼りに小川にやってきた少女は、水面に映る自分の顔を見てひとりごちていた。


 そこには桃色の髪の美少女が映る。

 少なくとも生前の自分は桃色の髪ではなかった。

 いや、そもそも桃色の髪とは?

 どうやったらそんな髪の色が日本人に生まれるのか。


「私は……死んだのかしら?」


 少女のいう「私」はバス停にいた私。

 バイト帰りにバスを待っていて、トラックにはねられた。

 大型トラックだった、あれは。絶対に。

 完全にひかれたし、凄く痛かった。


「なんならまだ痛みを思い出せるわ……!私はこれ、死んだのね!間違いないわ!」


 ということは、だ。

 自分の身を抱き、痛みを思い出していた彼女は考える。

 あの「私」が死んだというならば、今の「私」はなんだろう、と。


「生まれ変わっていたのかしら……」


 今の「私」は塔から飛び降りた。

 どうして無事なのかはわかりかねるが、ともかく。

 「私」は「私」を思い出した。

 これは生きているといっても過言ではない。

 自殺のショックなのかわからないが、どちらの「私」の記憶も曖昧だが。


「世界征服も夢じゃないわね!」


 しかも今世の「私」は聖女!

 どうして己がゲームの中にいるのか。

 どうしてこんなことになったのか。

 そういうことはひとまず置いておこう。

 少女は……ニケは、グッと拳を作る。


「何かわからないけどイジメられていたらしいけど、私が聖女だと証明できれば解決するわよね!」


 ジョゼフィーヌ、だっけ。

 この世界では最も敬愛されるべき聖女をイジメるだなんて、許しがたい!

 そこまでふと考え、ニケは首を傾げた。

 ニケという名に聞き覚えがあれば、ジョゼフィーヌにも聞き覚えがある。

 その名前はなんだっけ。


「ジョゼフィーヌ…………」


 もう一度、ニケは手紙を読んだ。

 か細く、震えている字。

 よっぽど辛かったのだろう。

 ニケの脳裏に記憶が蘇っていく。

 無視され、悪態を吐かれ、罪をなすりつけられ……

 ああ、苦しい。モヤモヤする。

 頭の中にジョゼフィーヌの顔が出てきた瞬間、心臓が誰かに掴まれたような気がした。


「この、女……!」


 と、同時にニケは思い出す。

 『ジョゼフィーヌ』のことを。


「火の魔女だわ、それなのにどうして……」


 息苦しい。

 自分が青ざめているのがわかる。

 冷や汗が止まらない。

 ジョゼフィーヌのことを考えただけで、身体が拒絶反応を起こしている。


 ジョゼフィーヌ・マル。

 代々火の精霊王の力を待つ魔女の一族。

 真っ黒な髪に赤茶色の目。

 何処かトゲトゲしさを感じさせる顔立ちの美人。

 何より彼女は、『勝利のニケ』というゲームの悪役令嬢。


「ただの悪役令嬢のはずなのに」


 『勝利のニケ』。

 聖女である主人公(プレイヤー)が、魔獣に変えられた攻略対象(キャラクター)をヒトに戻す乙女ゲーム。

 攻略対象(キャラクター)は100人以上おり、様々な能力と特性を持っている。

 主人公はその中からお気に入りを選び、パーティーを組み、魔王を倒すために奮闘する!


 だが、それだけではない。

 主人公は聖女であるが、先代の聖女が急死したため急遽探し出された半人前聖女。

 聖女が使う魔法も、聖女とはなんたるかもイマイチわかっていない。

 そのため、要塞としての機能も果たす魔法学園に通い、聖女としてのレベルも上げなければならないのだ。


 そして聖女を守るため、その学園には他の魔女も、ヒトに戻った元魔獣、つまり攻略対象も通っている。

 火風水土を守護する魔女と、攻略対象。

 魔女の中には聖女としても半人前の上、庶民出身の主人公をを良く思っていない者もいる。

 ジョゼフィーヌはその筆頭だった。


 親交を育みながら、邪魔されながら。

 学園の要塞レベルを上げるために魔獣をヒトに戻しながら。

 そして魔女のライバル達に認めてもらいながら……

 ニケは勝利を目指す!

 そんな乙女ゲームなのである。


「聖女というポジションである以上、ニケは攻略対象(キャラクター)に溺愛されているはずなのに……あんなに酷いイジメを受けるなんて」


 ん?待てよ。

 ジョゼフィーヌはニケを虐めていただけではない。

 恐ろしい言葉が並んでいた気がして、ニケは手紙を読んだ。

 信じられない。

 繰り返して読んでも内容は変わらない。


「ジョゼフィーヌが、聖女……?」


 『聖女ジョゼフィーヌ様が』。

 手紙にはそう書いてある。

 ゲームの中ではただの火の魔女だったジョゼフィーヌが、よりにもよってどうして聖女だと思われているのか。


 そうだ、そもそもおかしいのだ。

 この世の至宝である聖女、ニケが虐められるなんて。

 自殺を決行するほどに病んでしまうなんて。



 この世界は何かがおかしい。




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