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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔女王さまは居場所が欲しい

前世の私は、自殺した。


「生きててごめんなさい」といつも思っていて、生きづらかった。

家でも学校でも、よく罵倒されていた。


そんな私が、まともに社会に出られるはずもなかった。

高卒で一度は地元で就職できたけど、一年もしない内に仕事をやめた。


そしてその時、母は大きくため息を吐き、何も言わなかった。


私は見捨てられたのだ。


本当は、母に慰めてほしかった。

良い子だね、気にしなくていいからね、何も出来ない子でもここにいていいからね、と言って欲しかった。


そう、ただここに存在してもいいと、そう言って欲しかっただけだったんだ。


両親はいつも妹のことばかりで、私のことは邪魔みたいだった。

妹が何か悪いことをしても絶対に怒らず、むしろ私のせいにされ、私がどんな些細なことでも失敗すれば、まるで親の仇のように罵倒される。


でもネグレクトだとか殴ったり蹴ったりされた訳でもなかった。


だからこそ、誰も助けてくれなかった。


それとなく、当時の友達に相談したこともあったけど「えーそんなことで悩んでんの?」とまともに取り合ってくれなかった。

その友達はその後大学に行って楽しそうだった。

私も本当は進学したかった。親にさせてもらえなかったけど。


もう疲れた。


小さい頃から、やりたいことは両親に邪魔され、やりたくないことを押し付けられてきた私には、「どうしてもこれがやりたい!」という希望すらなかった。


きっと私が死んでも、家族も友達も悲しまないだろう。

だって、ここには最初から居場所なんてないんだから。


そうして飛び降りた私は――――



何故か異世界に転生していた。


---


「回想は終わったかい?」

「うるさいなー」


私の目の前には、黒猫をさらにブサイクにして蝙蝠の羽が生えたような不気味な生き物が飛んでいる。

声は高めだけど、しっかり男の子っぽいかんじだ。

この生き物は今世での私の使い魔、らしい。


「どこがブサイクだ!!」


そして、この自称使い魔は私の心を読むことが出来る。

非常に鬱陶しい。

物思いにふけることすら出来ない。


ついでに、神、も自称している。


「そうだ! 神だ!! 自称じゃない!」


自称、だ。


「この世界に転生させてやったのはこの僕だぞ! 感謝こそされ、そんな罵倒される筋合いはない!!」


ぐ……。ちょっと私のトラウマに刺さった。

罵倒したつもりはないのだよ。罵倒は。本当に。


「そこか……。感謝の方じゃないのか」


まあ、そう口だけで言われても信用しろって言われてもちょっと難しいかな。

そもそも異世界転生って。


「今時、異世界転生とか普通だよ? キミ、小説とか読まないの?」


小説は小説でしょう。

そもそも、私が読んだことある小説にはそんな話なかったし。


「どうでもいいけど、喋らなくても伝わるからって、言葉は口にした方がいいよ?」

「あ、はい」


ちなみに、このさっきからお小言ばっかり言っている使い魔の名前は、メディだ。

フルネームはやたら長くて覚えられなかった。

ファーストネームのメディオールだけで精一杯だ。


「キミ、本当面倒くさがりだよね」


メディはいつものあきれた顔をした。


でも仕方ないじゃない。夢も希望もないせいで何もかもがどうでもいいのは、前世から引き継いだ癖みたいなものなんだから。

それこそ、今生だけで見るなら、正しく"生まれてから"この性格だ。


「まったく……いまのキミは、魔女王さまなんだよ!!わかってる!?」


そう、今の私は魔女王。

なんかよく分からない称号を戴いてる。


今のところは、この世界で最強、らしい。


「『らしい』じゃなくて本当に最強なの! この世界を恐怖に陥れる魔王さまなんだからね!!」

「あーはいはい」


メディが言うには、私は魔王の女性バージョン、魔・女王らしい。

魔女の王で魔女・王でも変わらないと思うけど。


「全然違うっていつも言ってるだろ!!」


まあ、その辺はどうでもいいとして。


いまの私は魔王さまであり、世界を混沌に陥れる元凶だ。

当然、自称勇者さまやどこぞの国の軍隊やらが私を討伐にくる。


正直なところ、こうして私を殺しに断続的に人が来ることは。


正直なところは。


とてもうれしい。


「それだけ聞くとマゾっぽいよ」


またあきれ顔でメディが言う。

私の中ではこの顔がデフォだ。


ちなみに、私がこの世界に転生してからまだ1年くらいしかたってないけど、自称勇者さまは何度か来ている。

来ているけど、私が今も生きている時点でそれぞれの強さはお察しだ。


「なんであんなに弱いのに、勇者を名乗れるんだろうね」

「だから、何度も言ってるだろう……キミはこの世界で最強なんだって……」


そんなはずはないでしょう。


ちなみに、転生したって言っても生まれた……発生?した時から、前世と容姿は殆ど変わってない。

なんか魔法とか使えるようになったり、肉体的にも多少は強くなったけど、所詮私は私だし。

あくまで「前世よりは強い」であって、他の誰よりも優れている、なんてそんなはずはないのだ。


どうせ転生するなら、もっと違う顔に生まれたかったな。


「キミ、鏡見ろって……ああこれも何度も言ったけど聞いてもらえてないなあ……」


メディは遠い目をしている。

どうやら、メディが言うには私は魔女王にふさわしい妖艶かつ美しい容姿をしているそうだ。


前世から容姿は全く変わってない気がするから、そんなはずはない。

「ブス!」なんて言われたことだってあったし。


私を担ごうとしているだけなのはわかってるんだからね。

そうやって、おだてられたからってすぐには信じないんだから。


信じたら、あとで痛い目を見るのは私なんだから。


「だから本当に……もう諦めるべきか……いや、諦めるなメディ!!諦めたらそこで終了ですよ!!!」


なんか自己完結してる。


メディは私の心が読めるけど、私はメディの心を読めない。

だから、メディの本心なんかわかんない。



こんなめちゃくちゃな主従だけど、二人(?)で今日も勇者を待ちわびる。


---


「うふふふふ、よく来たわね、勇者ども」


本当に、ようこそいらっしゃいましたー!


そう思っているのが本音だけど、一応魔女王らしく笑ってみせた。

妖艶な笑み、っていうのがどういうのかわからないけど、私なりに魔王とか女王っぽさを意識してる。


「魔女王め! 今度こそ覚悟しろ!!」


ちなみに、いま私は魔王城の玉座で自称・勇者さまたちを見下ろしている。


剣を構えて叫んだ男の子がこのパーティーのリーダーで勇者さまかな?

他にも女の子とか、何か筋肉質な人とか、魔法使いっぽい人がいる。

典型的な四人パーティだ。


「貴方たちごときに、私を倒せるとでも思っているの?」


偉そうな態度で、下にいる小さな勇者さまたちに言ってみた。


本当は小市民な私だけど、こうやって不遜な態度をとるのは正直とても楽しい。

私じゃない私になれるって本当に素敵だと思う。


演技するのは最初は恥ずかしかったけど、ふっきれてからは一番楽しみなことかもしれない。


ちなみに、その時の気分によって自称・勇者さま達の出迎え方を変えるけど、今回の私は魔王らしい大きな大きな姿だ。

普通のお城だったら、天井をぶちぬいちゃいそうなくらい。


人間である勇者さまたちは、小さく小さく見える。

踏んずけちゃえば簡単に倒せそうだけど、せっかく来てくれたんだから、もうちょっと楽しみたい。


「そうだ、お前たちごときが魔女王さまに刃向かうなどと、身の程知らずにもほどがある!」


あ、なんかメディが乗ってきた。

今のメディは、いつものあきれ顔じゃなくて、なんか目付きが悪くてキバも鋭い、いかにも魔族って感じだ。

可愛くないのは変わらないけど、かなり"魔王の使い魔"っぽい。


魔王も魔王の使い魔も普段はもっとのんびりしているけれど、いまは余所行き用の恰好と態度だ。

そんなことを全く知らない勇者さまは、また吠えた。


「俺の……いや、俺達の力を甘く見るなよ!!」


そう言って、勇者さまは隣にいた女の子や、後ろにいる仲間たちに目を向ける。


「ええ、そうよ! アタシたち全員でかかれば、魔王だって怖くない!!」

「へっ……オレが壁になって皆を守ってやるから、安心して戦えよ。例え、オレが死ぬことになろうとも!!」

「その心配はいりませんよ。その前に、ワタクシの魔法であの憎き魔王めにとどめを刺してやりますから!!」

「みんな……!!」


あ、何か最終戦っぽいイベントが始まった。

前世で少しはRPGのゲームをやったことあるからわかるけど、これは多分クライマックスのシーンだ。


魔王なんか無視して、顔を見合わせお互いを励ましあう。

感極まって勇者さまなんかはうっすら涙を浮かべている。


うーん……いいシーンだなあ、とも思うし、熱くて厚い友情は素晴らしいけど、それでも戦ったら私達が勝つと思うんだよね……。

他の勇者さま達と何度か戦ってみてわかったけど、今の私は見るだけで相手がどれくらいの強さか簡単にわかるみたい。

これも魔女王としての能力なのかも。


とりあえず、勇者さまには「今から戦おうって相手が目の前にいるのに、目を逸らさない方がいいよ」と教えてあげたい。

私とメディは、イベント中に殴りかかるほど無粋じゃないし色々心得てるけど、本当に悪人な魔王が相手だったら、もうすでに一回は死んでると思う。


(それについては同意するよ……)


あ、メディがまた呆れ顔になってる。

"呆れ顔"よりも"生ぬるい目"とか表現した方があってるかな。


やっぱり、今回の勇者さまは「自称」勇者さまであって、私たちを倒せるような人じゃないっていうのはもう確定した気がする。


「おしゃべりはもう終わりよ。どこからでもかかってきなさいな。それとも、こちらから行きましょうか?」


カッコつけてそんなことを言ってから、私は指先に魔法を作り始めた。

作った魔法はまだ放ったりはしないけど、いい感じの威嚇にはなったはずだ。


「ほざけ!俺達は!!」

「負けない!!」

「うをぉおおおおおおお!!」

「ふんっ!!」


相手の実力も読めない勇者さま達は、全員で私に突っ込んでくる。


皆が、私を見てる。

私を無視しない。

私の一挙手一投足に注目している。


魔女王である私を必要としてくれている。


演技じゃない、心からの笑顔が口の端に乗った。


---


「やっぱり、あの人達も本当の勇者じゃなかったねー」

「……まあ、今回のはさすがにハズレだったかな」


自称・勇者を追い払うのが終わって、私は元の普通の人間サイズに戻り、自室でのんびりしていた。


いつもは「君が強すぎるんだって!」と怒るメディも、今回ばかりは同意してくれた。


だって、今日の勇者さま達ったら、結局私の魔法一撃で全滅しちゃったんだもん。

今まで来た中で一番強かった人達は、あの魔法を普通に避けちゃったのに。

戦闘中に目を逸らしちゃってたし、多分戦闘自体にあんまり慣れてないんじゃないかなあ。


「うーん……アイツらも人間の中ではそんなに弱くない方だとは思うけどね」


そうかなぁ……私なんかに一撃で負けるなんて、さすがに弱すぎると思う。

真っ当な勇者さまなら、私くらい片手でひねりつぶせるよ、絶対。


「いやそれは違う」

「違わない」


前世と比べればちょこっとだけ強くなったとはいえ、所詮私は私だから、最強だなんてそんなことはない。

そんなことはない私に簡単に負けちゃったあの人達が弱いってだけの話だよ。


あ、念のため言っておきますと、ちゃんとあの勇者さまたちは殺していません。

戦闘不能になった勇者さま達は必要最低限だけ回復して、勇者さま達が最後に寄った宿屋まで転移させておきました。

メディは「魔王城の前に放り投げておけばいいよ」っていつも言ってるけど、さすがに可哀そうだし、せっかく会いに来てくれた勇者さまたちに嫌われたくないし。


「別に魔王なんだから、嫌われたっていいだろ?」

「ヤだよ。嫌われたら死んじゃうじゃん」


この辺もメディは理解してくれてないみたいだけど、私は誰かに嫌われたら、それだけでもう心臓が凍りついたような気持ちになるし、死にたくなるし、むしろ心が死ぬ。


「魔王って時点で、もう嫌われてると思うんだけどなぁ……」

「そうでもないよ」


そもそも、魔王と言いつつ私は悪いことは基本的にしてないから、そんなに嫌われていない気もする。

むしろ、魔女王としてこの世に必要とされているような気さえする。


「それは、まあ……間違ってないかもしれないけど」


魔女王が降臨したことで、人間は団結している。

誰が魔女王を倒すか、という部分で最初は争っていた人達も、今まで私に挑んだ人達が誰も倒せなかったと気が付いてからは、協力しだしたみたい。

(倒せなかった原因は、私が強いからじゃなくて、弱い人達しか来なかったからだけど)


結果的には、私が世界を混沌に陥れることで、世界は均衡が保たれているみたいだ。

そもそも、人間側も本当の脅威には思っていないだろうし。


「次の勇者さまが来るのも、楽しみだねー」

「……戦闘狂ってわけでもないのに、勇者が来るのを楽しみにするのも、ちょっとおかしいと思うけどね」


だって勇者さまたちが来てくれると「ここに居てもいいんだ」って思えるんだもん。

いつだって、私は私が存在することを否定しているけど、魔女王としての私を人間達は必要としてくれている。


「間違ってないけど、何かが間違っているような……」


理由なんてどうでもいいんだよ。


ここが私の居場所だって、それだけがわかれば。


「……まあ、そうだね。理由なんてどうでもいいか。ただ、君が魔王としてやる気を出してくれるなら」


うん、魔女王としての私を必要としてくれるなら、魔女王として頑張るよ。

不気味な笑い方だって練習するし、魔法技術だって磨くからね。


「……どうでもいいけど、また喋ってないよ。 喋らなくても伝わるからって、言葉は口にした方がいいって」

「あ、はい」


どうしても、これはいつも失敗しちゃうな。

魔女王としてならともかく、素の私としてはあんまり話すの得意じゃないし。


「魔女王として頑張るんだろ? なら、喋るのも練習しなくちゃ」

「それもそうだねー……」


練習するって言ってもここにはメディしかいないし、メディなら心が読めるんだから、喋る必要性があんまりないと思うんだけど。


……メディが怖い顔してるし、確かに「魔女王さまは人と話すのが苦手」とかどうかと思うし、少しずつ頑張ろう。


とりあえず、いま言っておきたいことは……。


「次の自称・勇者さまはいつ来るかな?」


私がちゃんと喋ったら、メディは少しだけ表情をやわらげた。


「"いつ"かまではわからないさ。明日か、一か月後か……でも、絶対に来るさ」

「そうだよね。絶対に来るよね」


私が魔女王でいる限り勇者さまはここへ来るし、私は必要とされている。


世界の行く末とか人間の滅亡とか興味ないけど、この居場所を守るため私は魔女王として君臨したい。



「さて、次の勇者さまが来るまで、のんびり魔王修行がんばりますかー」

「その意気だ!」



色々とダメな私とブサイクな使い魔は、今日も勇者さまを待ちわびる。

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