001 それは突然恋に落ちるかの様に…
初投稿です。ゆるりとお願い致します。
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「…お願いします。僕を助けてくれたんだ!この子を助けて上げてよ」
(…何だ?あれは…あれはきっと、僕だ。まだ幼い頃の…)
当時やってた戦隊ヒーローモノがプリントされたシャツとお揃いの靴。あんな色のジャンバー持ってた気がする。その頃を懐かしもうとするのは妙に気恥ずかしい。実家に仕舞われているアルバム捲るような感覚で小さかった自分に戻ってしまった様な不思議な感覚。短い髪の毛、幼い容姿に、小さな身体、それに当時の流行り…。
(…時代の流れって残酷だなぁ)
「大事なトモダチなんだ。お願いです、お姉ちゃん」
いくつの頃だっけか?
思い出そうとはしてみたものの、記憶は霞に覆われているかのようでハッキリと思い出せない。自分の置かれている状況はと云うと、幽体離脱?ん~…俯瞰で自分を上から見下ろしている?2階から幼い僕を見下ろしてる感じに近い。
「…、…」
「嫌だよ、何でもするから。今度は僕が助けなきゃいけないんだ」
顔が…見えない。が、口が動いている。俺と話してるみたいだけど、どうやら相手の声は聞こえない。それでも僕は必死に相手にしがみついてお願い、いや懇願している様相に近い。周りを見渡せば夥しい数の動物?の死骸が散乱しているし、地を穿った煤けた穴がいくつもある。爆弾?地雷?何があったのか、一体ここは何処なんだ?
「……、……」
「うん!約束する。だからお願い」
(忘れてた?いや…こんな事あったっけ?覚えて…ないし?――夢?夢にしては、、、)
自分の頬をつねろうかと視線を外したその刹那、小さな僕の身体から眩しい光の奔流が溢れて出た。(うっわ!?)その奔流に押し流されそうになるのを踏み止ま…れない。いやもう必死で、本当必死に抗おうとするのだが、足場がよく分からないし、掴まるモノすら無いのだ。僕は、いや僕達は抵抗虚しく光に飲み込まれてしまった。
息苦しくはない。温かい光に全身を包まれて、眠りにつく直前の心地好さが僅かに残る僕の意識を刈り取ろうとしている。
何かを…何かを思い出さなきゃならないはずなのに…
「またお会いしましょう…」
意識を手放す前に、そんな言葉が聞こえた気がした。
◇
僕は困惑していた…
さっきまで会社のデスクのPCでクライアントからのメールをチェックしていたはずなのに。出社途中のコンビニで買った温くなった炭酸水を片手に周囲を見回す。
“ゴクリ…”
喉を潤すべく口に含まれた液体は、本来であれば“シュワ”っと弾けて爽快感を演出してくれるのだが、無機質に喉に押し込まれれ大きな音を立てて胃の奥に落ちていった。
―――落ち着いた明るさの白い空間。 馴染みの無い景色に不安からかもう喉が渇く。見慣れた自分の席じゃなく、ちょっとオシャレなテーブルと椅子に座っている状況に戸惑うばかりだった。
「ようこそ―――」
ビックーン!?
不意に掛けられた声に、思わず腰を浮かす。警戒していなかったわけでもないのだが、人の気配なんて無かったはず。一体何処から現れたと云うのか、全く見覚えのない女性がいつの間にか目の前に座っているのはどんなイリュージョンなんだ?
「ようこそいらっしゃいました、代々木和也様」
僕から訝しげな眼差しを向けられたままであるが、目の前の女性は気にする様子もなく言葉を続ける。
「私株式会社ウルスカ、代表のウルスカと申します。契約に従いましてお呼びに参上致しました。」
「こ、これはご丁寧に、私は…」
驚いた余韻に引き摺られて平静を取り戻せていない
心臓の鼓動に引っ張られている
上擦った声で上手く喋れない状況
何とか対応しようと自分も名刺を出そうとスーツの内ポケットに手を伸ばそうとした処で、
『はて?』
目の前の女性の日本人離れした容姿に唖然としながらも観察する。見た目二十歳前後の金髪碧眼…肌の白さから見て東欧系?
(いや、詳しくは知らないけどね…)
と・に・か・く・ヨーロッパ系白人美人さんがドレス姿でにこやかに微笑んで僕を見ているわけでありまして……
事務のオバチャンお局様連中と一線を画すレベルの美女が目の前に居るだけで、居たたまれない気持ちになるの何故ですかね。
美女を前にして卑屈なネガティブキャンペーンが僕の心の中で絶賛開催中。
胸の鼓動に“鎮まってくれ!”と命令したはいいが、より意識してしまいチキンな僕の小さなハートはエイトビートで重低音を刻んでいる。ほら、おまけに手汗しっとり。ドギマギしながら名刺を頂戴して一瞥。
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ULSKA Ltd.
代表取締役社長 ウルスカ|CEO ULSKA
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息を大きく吸い込み…
時間を掛けて吐き出す……
平静を装いながら、
「ニャン点か…」
噛んだ・・・
赤面しそうになりながらも真顔を取り繕う。
「何点かお聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
無かったことにして無理矢理僕は言い直す。
「ここは何処ですか?」
「初めてお会いしますが貴女は誰ですか?」
「契約とは何の事ですか?」
「どの様なご用件で我々は…現在この場所で面会しているのでしょうか?」
唾も上手く分泌されてない有り様らしく、口の中がパサパサで乾いた舌触りが余計に不快だ。緊張を隠そうとするあまり矢継ぎ早に質問してしまった僕。そのためなのか、やけに自分の声が甲高い。全く自分の声に聞こえない。
そして―――
「第一に、ここは貴方の世界と私の世界の間、異なる世界同士の中継地点。と言える空間になります」
「第二に、先程も申し上げましたが、ウルスカと申します。ウルスでもルスカでも好きにお呼びになって下さい。代々木様と初めてお会いするわけではありませんが、こちらの世界では“理の女神”の任に就いております」
「第三に、今から遡りまして三十年前に交わされた契約履行の為、今回お呼び立て致しました」
「最後に、異世界転生のお手続きの為、参上した次第ですわ(ニッコリ♪)」
懇切丁寧な淀みない答えが彼女の魅惑的な唇から返ってきた。
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