イケメンにのみ許された〇〇〇
繁華街の路上を闊歩する二人のイケメンがいた。
一人は、顎髭とツーブロックのパーマが特徴的で、服装も黒いレザージャケットやダメージデニムでワイルドに決めたリュウ。
もう一人は、ふんわりとしたブラウンのミディアムヘアに丸眼鏡をかけ、服装も紺色のブレザーやチノパンという綺麗目で揃えた、笑顔が可愛らしいハルト。
タイプは違えど二人とも芸能人顔負けのイケメンであり、路上ですれ違った女性達は例外なく彼らを二度見し、その視線を奪われている。
「リュウはどっちの子狙いでいく?」
「じゃあ、ロングの子狙いで」
「それじゃあ僕は、ショートボブの子でいこうかな」
二人はとあるカフェの前で立ち止まり、窓際の席でお茶をしている女子大生風の二人組に狙いを定める。
彼女たちには前から目をつけていた。どうすれば彼女たちの気を惹けるか、ばっちりシミュレーション済みだ。
「どっちが先に落とせるか勝負しないか?」
「いいよ。勝負事は嫌いじゃない」
などと言いながら、二人揃ってカフェへと入店した。
そこから先、二人の行動は実に早かった――
〇〇〇
お互いに目当ての女性を口説き落としたリュウとハルトはカフェの前で別れ、それぞれ女性をともなって繁華街の雑踏の中へと消えた。
「もう。リュウくんったら強引なんだから」
「こういうの嫌いか?」
「ううん。むしろ興奮する」
リュウは路地の暗がりにロングヘアーの女性を連れ込み、壁際に追い込んでいた。互いに同意の上だし、女性に至っては屋外で行為に及ぶスリルに胸を躍らせている節があった。
「なあ、壁ドンしてみてもいいか?」
「そういうのって事前に断るんじゃなくて、不意打ちでやるからかっこいいんじゃない?」
「ははっ、それはそうだ」
「えっ?」
瞬間、リュウは右手で女性の頭を力を込めて握り、そのまま勢いよく右腕を引いた。
「な、何を――」
「じゃあな!」
「ぎゃ――」
リュウは自慢の怪力で女性の頭をコンクリート製の壁に叩きつけ、女性の頭は一撃で粉砕されてしまった。頭部に血の花を咲かせる女性にすでに息は無く。微かな痙攣を残すだけの肉塊と化した。
〇〇〇
「ハルトくんはロマンチストね。こんな素敵な場所を知っているなんて」
「人が少ないから、ゆっくり景色を楽しむにもってこいさ」
ハルトはショートボブの女性と共に、閉鎖されて人気の無い展望台へとやってきていた。不法侵入ではあるが、ここから見える景色がとてもロマンチックなので、ハルトは口説き落とした女性をよくここに連れてきている。
「綺麗な景色」
「君の方が綺麗だよ」
「ハルトくん」
ハルトが手慣れた様子で女性の顎に触れた、次の瞬間。
「見た目だけはね。心はとても醜い」
「あがっ――」
ハルトは人並み外れた怪力で女性の顎を持ち上げ、その勢いで女性は首の骨を損傷し即死。力なくその場に倒れ込んだ。
「リュウ。こっちは終わったよ」
『俺も少し前に片付いたよ。今は処理班の到着待ちだ』
「お疲れ様。今回もちょろかったね」
『まったくだ。俺達のこと、まったく警戒しないんだもんな』
女性を殺害した直後だというのに、二人のイケメンは電話越しに談笑を交わしていた。
彼らには正義を遂行しているという自負がある。だからこそ、悪人を殺したところで良心などまったく傷まない。
リュウとハルト。二人のイケメンの正体は、悪人を裁く闇の仕事人。
今回二人が殺害した女性達は結婚詐欺グループのメンバーで、金持ちの高齢男性から金品を搾り取り、時には保険金目当ての殺人さえも厭わない極悪人であった。
リュウとハルトが狙う悪人は主に女性。
悪人さえも虜にするその抜群のルックスは、ターゲットに近づく際に非常に便利だ。
怪力を生かしたその独特な殺し方から、二人は闇の世界ではそれぞれこう呼ばれている。
壁ドンのリュウ。
顎クイのハルト。
二人のイケメンは壁ドンと顎クイを駆使して、(極悪人の)女性を(地獄に)落とし続ける。
了