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今生の家族

 


 この世界に転生してから、三年と少しの時が過ぎた。


 三歳ともなれば、身体も大分発達して来て、走ることも可能になった。

 魔力を消費して保有量を増やす訓練も毎日続けている。


 そして、文字を覚える事だが、こちらも問題なく覚えることができた。

 エクレールに書斎に連れて行って貰った日から、毎日書斎へと通ったおかげで、書斎にある本は読み尽くしてしまった程だ。

 それと、『完全記憶能力』を創った所為で、何か悪影響が出ることもなかった。


 で、本来の目的である魔法を学ぶことだが、魔法の本を読んでいる時に気付いてしまった。


 ――『万物創造』を使えば、魔法など要らないということを。


 要するに、同じ魔力を消費して行使するモノであるならば、元々使える『万物創造』で充分なのだ。


 魔法は魔力を糧に行使することができ、『魔法言語』という特殊な言語を用いて呪文を詠唱しないと発動する事は出来ないらしい。


 どう考えても『万物創造』の方が有能だ。『万物創造』は詠唱などせずとも、念じただけで発動することができる。

 よって、魔法は知識として学んでおくだけで、手をつけるのは一時保留とした。

決して、面倒くさくなって放り出した訳ではない。飽くまで、魔法の上位互換となるモノを既に使えたからだ。



 ▽



「こっちの瞳が紫色の方が姉のイリスヴィアで、翡翠色の瞳をしているのが妹のセレスヴィアだ」


 俺とセレアの父であるアレス――アレクシアスの愛称――が俺とセレアを示しながら、目の前の人達に紹介する。


 現在、今までは王都にある屋敷で暮らしていたらしく、会ったことがなかった家族と対面している。


「可愛いわね。私はルリニアよ」


 俺とセレアを見ながらそう言うのは、藍色の髪を肩口で切り揃えた美人で、両親からはルリと呼ばれていた。

 この人はアレスのもう一人の妻らしい。所謂、第二夫人というやつだ。


 本で読んで知っていたが、この世界では一夫多妻は当たり前のことらしい。養える者が多数の(つがい)を持つことは良いことらしい。

 公爵閣下であるアレスに複数の妻がいることは当たり前ということだ。貴族なら相続とか、子孫を残すとか色々あるだろうしな。


「僕の名前はマルクシアスだよ」


 そう名乗ったのは、今年で五歳になる俺の兄だ。愛称はマルスで、金髪碧眼のイケメンだ。

 マルスは、アレスとオリヴィアとの間に生まれた子供らしく、第一夫人であるオリヴィアの長男ということで、将来は公爵家を継ぐことになるらしい。


「私はアイリスよ」


 愛称はアイリで、マルスと同じ五歳で俺の姉に当たる。アイリはルリから生まれた子で、俺とは異母姉妹ということになる。


 家族との挨拶が終わり、リビングにて一家水入らず団欒する。


 みんなが紅茶を啜り、お茶菓子を食べながら、あれこれと楽しそうに喋る中、俺はオリヴィアに買って来て貰った魔物図鑑を読む。

 書斎の本を全て読み終えてしまったので、本を強請ってみたら買って来てくれたのだ。


 この世界には魔物というモンスターが存在する。体内に魔石という特有の器官を持っており、瘴気の濃い場所を好み、人を襲う。

 魔物から採れる魔石は、主に魔道具という魔法の道具に使用される。魔石はその中に魔力を貯めるので、それを動力として魔道具を動かすのだ。

 この世界では前世の世界とは違い、電力の代わりに魔力を使用して生活水準の向上を図っているということだ。


 そんなこの世界の人の生活には欠かせない魔石は、いつでも必要とされている。

 その魔石の主な供給源が冒険者という職業だ。

 冒険者は、冒険者ギルドという仕事を斡旋してくれる機関を経由して、依頼を受け報酬を得る。

 冒険者の仕事は何も魔物を倒して魔石を集めることだけではない。荷物運びのような雑用から護衛という重要任務までこなす。

 街から街へ、国から国へと、世界を旅して周るのが冒険者であり、そんな冒険者は人々の憧れの職業の一つでもある。


 閑話休題。


 オリヴィアに買って貰った魔物図鑑を読む。

 魔物図鑑自体は書斎にあったのだが、こちらの方が詳しく載っている。


 一ページ目に書いてあったのは、元の世界でも有名だったゴブリンだ。

 イギリスが舞台の魔法使いの某映画では、気難しい頭でっかちな種族として描かれていたが、この世界では知性の低い魔物(・・)らしい。

 深緑色の肌に、額には二本の小さな角を持つらしい。耳が長く尖っており、それが討伐証明部位となるらしい。

 ちなみに討伐証明部位とは、冒険者ギルドの討伐依頼での、討伐した証明になる部位のことだ。


 そんな細かい事情まで載っている魔物図鑑を読んでいると、俺の二つ上の姉であるアイリが隣から覗いてきた。


「何読んでいるの?」

「魔物図鑑だよ」


 母親(ルリニア)譲りの藍色の髪を耳にかける仕草は、幼いながらも様になっている。アイリも整った顔立ちをしているので、将来はルリに似て美人になるだろう。


「何やってるの?」


 俺とアイリが話しているのが気になったのか、マルスがやって来た。

 それを機に今まで紅茶を啜っていた親たちまでこちらにやって来た。


「イリア、その本面白い?」


 近寄って来たオリヴィアが、俺が読んでいた本を示して笑顔でそう聞いてきた。


「面白いよ。買ってくれてありがとう、母さん」

「〜〜っ! 良いのよ、欲しい物があったら何でも言いなさい。ほんっとにイリアは可愛いわね」


 俺が笑顔でお礼を言うとオリヴィアは、悶えながら俺に抱き着き、頭を撫でながらそう言ってくれた。


 正直、二十代かそこらの美人に抱き着かれるの気恥ずかしいのでやめて欲しい。ただでさえ、授乳という羞恥プレイから解放されたばかりだと言うのに。


「聞いてはいたけど、その歳でもう本を読めるなんて凄いわね」


 ルリがしみじみとした感じでそう言った。


 確かに三歳児が学術書などを読んでる様は、(はた)からみたら異様な光景だろう。


「セレアの成長も早いし、アレスの遺伝子って実は凄いのかしら」


 俺に抱き着いていたオリヴィアがアレスを見ながらそう呟く。

 それに合わせてルリの視線もアレスに向く。

 妻二人からの視線を受けたアレスは、冷や汗を垂らしながら苦笑いを浮かべているだけだった。


 この調子なら、妹が弟が産まれるのもすぐのことだろう。



 ▽



 この世界は意外にも生活水準が高い。

 それは魔法という科学に取って代わるものの存在によって、様々な技術が発展しているからである。


 例えば、部屋の中を照らす明かりは、電球のような光を発し、部屋の中を照らしてくれる魔道具である。

 もちろん電線のようなモノなど存在しないので、魔石に蓄えられている魔力が無くなれば、その都度交換が必要だ。


 例えば、生活の中で様々な用途で使われる水は、水道管の中を通って、やってくるのではなく、水を発生させる魔道具によって供給される。

 もちろん、水を得る方法はその魔道具だけでなく、地下から湧き出る井戸水から得る方法を使う人の方がこの世界では大多数である。


 つまり、魔道具は高級品なのだ。高級品といってもピンからキリまであり、一般的な家庭が少し金を貯めれば直ぐに買える程度である。

 しかし、高級品には変わりない。

 魔石を購入するにも、それなりの金がかかる。


 ましてや、それを文字通り、湯水の如く使うなんて――



 ▽



「イリアの肌はスベスベね。二人とも将来はきっと美人になるわ」


 アイリが俺の背中を泡のついた布で擦りながらそう言う。


 アイリの言葉から判るように、現在俺は風呂に入っている。

 今ここにいるのは、俺とセレアと姉であるアイリ、そして数人の侍女たちだ。


 この世界では、毎日風呂に入る習慣はなく、三日に一度入る程度で、風呂に入らない日は水浴びか、濡らした布で身体を拭くくらいのことしかしない。


 そして、今日はその三日に一度の風呂に入る日だったのだが、俺とセレアが風呂に入ろうとすると、アイリが自分も入ると言ってきたのだ。


 普段は俺とセレアだけで、侍女に身体を洗ってもらうのだが、今日は一緒に入ってきたアイリが俺たちの身体を洗いたいと申し出てきたことで現在に至るというわけだ。

 ちなみにマルスも一緒に入りたいと名乗りを挙げたが、アイリに散々罵倒されて素気無く諦めていた。マルス、憐れである。


 俺は目の前の湯気で曇りつつある鏡に映る自分の姿を見る。

 金糸のような輝かしい白銀の髪が、未成熟な幼い体を包み隠している。その髪は腰まで届く程に長い。

 紫水晶(アメジスト)のような紫色の大きな瞳は、長い睫毛(まつげ)に隠れることなく、その存在感を主張している。

 鼻筋は綺麗に通っていて、肌は白磁のように真っ白だ。

 つまり、今世の俺の姿はかなりの美形だ。成人する頃には、絶世の美女へと成長を遂げているだろう。


 そしてそれは、双子の妹であるセレアにも言えることである。

 俺と同じ白銀の髪を腰まで伸ばしてはいるが、セレアは癖のない真っ直ぐな俺の髪とは違い、緩い巻き髪だ。生れながらにカールの掛かったような上品な髪型をしている。

 瞳は母であるオリヴィアと同じ綺麗な翡翠色をしている。

 顔も俺と似て恐ろしいまでに整っているが、キリッとした俺の目とは違い、セレアは優しい慈悲の感じる目をしている。


 俺はこんな可愛い妹を持って幸せだと思うと同時に、将来何処の馬の骨とも知れぬ男と結婚すると思うと何とも言えない気持ちになってくる。それは父であるアレスも同じ気持ちだろう。


 しかも、俺たちは貴族だ。

 縁談が来たり、政略結婚をさせられるかもしれない。

 もし、俺が結婚させられそうになったら、家を出よう……。


 そんなことを考えながら、十人は入れそうな湯船にみんな揃って浸かる。


「気持ちいぃ〜」

「ホントねぇ〜」


 セレアとアイリが石で出来た湯船の淵を枕にしながらそう呟く。

 俺も同じように身体を弛緩させて目を閉じてみる。


「あ〜、生き返る〜」

「イリア、オヤジ臭いわよ」


 気の抜けた俺の言葉にアイリが注意してきた。つい素の言葉が出てしまった。

 前世が男であったがために、度々女らしからぬ仕草や言葉遣いをしてしまう。

 今世では女として生まれたんだ。今後は気をつけていかないといけないな。



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