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公都への帰還

お久しぶりです。

 


 盗賊の数は、頭領のパイラン含めて総勢15名ほど。

 対してこちらは、俺を含めて現在起きている騎士の数は11名。視察には20名の護衛騎士が同行しているので、残りの10名は現在テントの中で眠っている状態だ。


 だが、それもすぐ起きるだろう。

 というのも、野営地の真っ只中で戦闘を繰り広げていれば、否応無くうるさくて目が醒める。


 現在、騎士達はダンさんを筆頭に盗賊らと剣戟を交わしている。

 今でこそ、数的不利によって攻めあぐねているが、それもすぐに逆転することだろう。

 今もなお、先程のダンさんの警戒の声を聞きつけた騎士達がテントから出てきて、武器を手にとっている。

 しかも、所詮は盗賊。俺から見ても未熟な剣だと分かる。


 最初こそ盗賊が有利かと思われたが、数的不利を覆した騎士たちによって、次々に斬り伏せられていく。


「チッ! やはり、早まったか……」

「仲間はもういないぞ! 投降しろ、パイラン!」


 盗賊達の現頭領パイランと戦っていたダンさんが投降を促す。

 見れば、盗賊で未だ立っているのは、パイランを残すのみとなっていた。


 その間の俺と言えば、エリーヌさんの背中に護られて戦局を見守っていただけだ。

 危なかったら、最悪、助けに入ろうかと考えていたが、どうやら杞憂だったようだ。


「ふん! 情けねぇ野郎どもだ……だが、俺をそこら辺に転がってるヤツらと一緒にしてもらっちゃあ、困るぜ」


 パイランは周囲に転がる盗賊達を横目にそう言うと、その手に握る血のような色をした紅の槍を大仰に振り回し、構えた。その構えはどこか様になっているように見えた。


「ランソルト流か……」

「へっ! シュヴァリエルとの相性は最悪だろう。俺の槍捌きをとくと味わうといい!」


 ダンさんの呟きに、パイランはそう言うと槍の穂先を下に向けて一気に駆け出した。


「ランソルト流って確か、北のローリアル王国の方の流派だよね?」


 俺のそんな独り言に答えたのは、目の前で未だ油断なく細身の剣を構えるエリーヌさんだった。


「はい。ランソルト流は槍術で有名ですが、シュヴァリエルとの相性の悪さでも有名です」


 どこか苦い顔をしながら言うエリーヌさんを一瞥してから、ダンさんたちへと視線を戻す。


 目の前で繰り広げられる戦闘から見るに、護りのシュヴァリエルと攻めの――いや、連撃のランソルトといったところか。

 ダンさんの護りを主体とした立ち回りに、パイランは絶え間なく槍を突き出す。

 それは穂先だけでなく、石突でも突きを放つ。槍を振り回し、相手を絶対に自分の間合いに入らせない。


 繰り返される連撃にダンさんは防戦一方だ。

 しかし、それでいい。

 シュヴァリエル流の基本戦術は、攻撃を受け流したり、弾いたりして相手の体勢を崩したところで反撃を加えるというものだ。

 つまり、一見、防戦一方に見えても、それは相手の隙を窺って、攻撃のチャンスを狙っているのだ。

 そう考えると、護りというより、反撃(カウンター)のシュヴァリエルという方が正しいのかもしれない。


 そしてついに、その時がやってくる。


「ぐがぁッ!」


 連撃に僅かな(ほころ)びを見せたパイランの隙を見逃さず、槍を受け止めた剣を滑らせるようにして間合いに入り、右手首を斬り落とした。

 苦悶の声を上げて、もう片方の手で傷口を抑えて(うずく)るパイラン。


「勝負ありましたね」


 それを見たエリーヌも構えを解き、細身の剣を鞘へと納めた。

 すぐに戦況を見守っていた騎士達がパイランを捕らえると、それを横目にダンさんがこちらへやってきた。


「お怪我はありませんか?」


 そのダンさんの言葉に短く、「大丈夫」と伝えると、安堵の表情を浮かべた。


「良かった……それはそうと、先ほどは助かりました」


 一瞬、ダンさんが何のことを言っているのか分からなかったが、すぐに、最初に矢を茶碗で弾いたことだと思い当たった。


「いえ、咄嗟のことでしたので」


 正直、何かしら言及されることは覚悟して、それに対する答えも用意していたが、それ以上何かを言われることはなく、ダンさんは一礼すると、後始末へと向かっていった。


「ふぅ……」


 溜め息を一つ吐き、戦闘の傷跡が残る野営場を見渡す。

 パイランを除いた盗賊達に生き残っている者はおらず、死屍累々といった様相を呈している。


 俺は神力の暴走の件を思い出し、この光景を目に焼き付けておくことにした。


 神の使徒の仕事のためにもっと強くならなくては、と考えるとともに、戦闘に興味を抱いている自分がいることを自覚する。

 戦闘狂という訳ではないが、死力を尽くした戦闘というのは、観ていて楽しいと感じる。だが、やはり自分もそうありたいと、死力を尽くして強者と戦いたいと思う。

 それを実現するには、自分も強者であらなければならない。


 俺は、帰ったらダンさんに相談してみよう、と考えるのだった。



 ▽



 公都に着いたのは翌日の夜も更けた時間だった。


 『万物創造』にて治療を行ったおかげか、セレアの容態もかなり良くなり、治癒騎士のセリーヌさんの話ではあと一日もすれば完全に回復するようだ。回復が異常に早いことに疑問を抱いていた様子だが、特に何か言われることはなかった。


 盗賊の処遇だが、死んだ者に関しては、火葬という形を取る結果となった。

 治癒騎士セリーヌさんの姉エリーヌさん曰く、埋葬だとアンデッド化する恐れがあり、こういう場合には火葬するのが絶対なんだとか。

 盗賊の中で唯一生きているパイランについては、片手首を失ったものの、街へ連れ帰り、一先ず投獄するという形に落ち着いた。どうやら、余罪を調べるためらしい。

 犯罪奴隷に堕とされることは確定しているらしく、死ぬまで危険な鉱山で強制労働に従事させられるようだ。


 まあ、そんな話はともかく、公都へと帰ってきた訳だが――


 公爵邸へと辿り着き、門が開かれ、馬車が進んでいく。大きな庭を両手に進むと、夜闇を照らす灯りが屋敷の窓から漏れているのが見えてくる。


 しかし、何やら騒がしい。

 窓から廊下を駆ける侍女達の姿が見える。


「何事だ?」


 父様もそれを感じ取ったようでそう零していた。


 そして、玄関前に馬車が停止すると、ちょうどメイドが玄関から飛び出てきた。


「何事ですか? 騒がしい」


 御者をしていた執事セバスが小言を言うも、侍女は一礼だけして、矢継ぎ早に要件を告げた。


「し、失礼しました。旦那様、おめでとうございます。たった今し方、ルリニア奥様がご懐妊なされていることが判明いたしました」


 侍女が告げた内容は、ルリ母様が妊娠していることが分かったということだった。

 つまり、俺の妹か弟ができたということだ。



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