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異世界への転生

説明が多いですが、ご勘弁を。

 


 ボヤけた視界に僅かな光が差し込む。

 自由の効かない身体を無理矢理動かそうとすると、突如として浮遊感が襲って来た。


 重い(まぶた)を無理矢理開け、浮遊感の正体を探ろうとすると、銀髪碧眼の整った顔立ちをした男性が俺の顔を覗き込んでいた。


 どうやらちゃんと転生できたようだ。ということは、目の前のこの若い男性が父親だろうか?


 首が据わってないからか、首を動かすことが出来ないので、目を動かして周囲を見渡す。

 それと同時に耳を(つんざ)くような叫び声が聞こえてきた。

 そちらに目を向けてみれば、メイド服のようなものを着た初老の女性が、銀髪の赤ん坊をタオルに包んで抱いていた。

 どうやら俺は双子らしい。


 そこから視線を少し下げてみれば、ベッドに横たわりながら、こちらを見ている金髪の美女がいた。


 おそらくあの女性が俺の母親だろう。


「◇◇◇◇◇◇◇」

「◇◇◇◇◇」


 赤ん坊を抱えた初老の女性が、母親と思われる女性と会話をしているが、何て話しているか全く理解できない。異世界の言語なのだろう。これから言語を覚えることが急務となりそうだ。


 そんなことを考えていると、急な眠気に襲われ、俺は意識を手放した。



 ▽



 次に目覚めると、ベッドに寝かされていた。

 部屋の全貌は分からないが、石造りの家らしく、板張りの壁ではなく、剥き出しの石の壁となっている。

 部屋の隅に置かれている調度品は、地球での物と遜色のない程しっかりしているように見える。


 ふと、隣から何かが動く気配を感じ、そちらに目を向けると俺が産まれた時に一緒に産まれたと思われる銀髪の赤ん坊が寝ていた。


 やはり双子なのだろう。俺が転生を果たした後に産声を上げたということは、弟か妹だろうか。

 まあ、いずれ分かることだろう。


 そんなことより、先ず能力の確認だ。

 俺が得た能力は『万物創造』。その名の通り、万物を創り出す能力だ。

 イメージしたモノを、魔力を糧にして創造する。それは生物以外なら何でも創り出すことができる神にも届く能力だ。

 別にイメージは明瞭で無くても問題ない。銃を創ろうと思えば、その姿、機能を思い描くだけでいい。銃の内部構造を事細かにイメージせずとも、能力が勝手に補完してくれるからだ。

 そして『万物創造』が創り出すのは、何も物質だけではない。不確かな実体のないモノも創造することができる。


 先ず手始めに、『空気』を創り出してみる『酸素』では無く、漠然と『空気』だ。それだけで、酸素だけでなく、空気中に含まれる二酸化炭素や窒素などを創り出すことができる。

 そして何故『空気』なのかと聞かれれば、一番安全だからと答えるだろう。

 今の俺は産まれたての赤ん坊なので、不測の事態に陥った時に自分では解決することが出来ないのだ。


 『空気』をイメージし、『万物創造』を発動させる。


「……」


 見た目には分からないが、確かに『万物創造』が発動したことが分かった。

 それと同時に身体から何かが抜けていく感覚と共に、倦怠感が襲って来た。

 これは恐らく魔力を消費した弊害だろう。

 そして魔力を消費すればするほど、魔力保有量は増える。


 つまり、このまま『万物創造』を使って魔力を消費することを続けていけば、魔法を使うことなく、魔力保有量を増やすことができる。


 俺は『空気』を大量生産していく。

 その度に倦怠感を蓄積させていき、気が付けば俺は気を失っていた。



 ▽



 俺が産まれてから一年の月日が流れた。この一年で分かったことが沢山ある。


 先ず、俺の今生での名前だが、イリスヴィアというらしい。

 名前から分かる通り、俺は()に転生してしまったらしい。

 その事については色々と葛藤があるが、今は現実をしっかりと受け止めている。しかし、男と交わることは死ぬまでないと断言しておこう。


 そして、俺と一緒に産まれたもう一人の赤ん坊の名前は、セレスヴィアという。つまり、妹だ。

 愛称はセレアで、幼いながらも両親に似て整った顔立ちをしている。将来は容姿端麗な淑女へと育つだろう。

 ちなみに俺の愛称はイリアだ。


 俺たち姉妹の両親は予想通り、産まれた時にいた銀髪の男性と金髪の女性だった。

 父は名を、アレクシアスと言い、銀髪碧眼の整った顔立ちをしている。

 母はオリヴィアで、金髪に翡翠色の瞳をした美女だ。


 そして家名はヴァレルパレスで、貴族であるらしい。

 俺の生まれた国は、ルーデルニア王国と言い、王政を敷いているらしく、家名を持っている者は例外なく貴族であるらしい。


 そんな中でもヴァレルパレス家は、公爵家に当たる。

 ルーデルニア王国には、公爵家が四つあり、その中の一つが俺の生まれたヴァレルパレス家と言う訳だ。


 貴族の階級は上から、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、准男爵、騎士爵となるらしい。

 つまり、ヴァレルパレス家は貴族の中でもトップクラスの権力と財力を持つ家という事だ。


 それを表すように、俺が住んでいる家は、豪邸と評するに損なわないほどに、大きな屋敷だった。いや、城と言った方が適切な程大きいだろう。


 ここら辺がこの一年で分かった大まかな事だろう。


 一歳となった俺は、異世界の言葉も完全に理解し、未だ覚束ないがしっかりと歩くことも出来る。もちろん、妹のセレアも俺と同様の成長を遂げている。

 この驚くべき成長速度に家の者達は、天才やら神童やらと騒ぎ立てる親バカっぷりを発揮している。

 元の世界での記憶がある俺はまだしも、妹のセレアは紛れもなく天才と言えるだろう。


 そして今は、俺たち姉妹に分け与えられた部屋で寛いでいる。

 部屋の中には、俺とセレアと俺たちの専属の侍女であるエクレールがいる。


 セレアは木でできた玩具を使って遊んでいる。

 俺はロリコンではないが、元アラサーのおっさんの俺からしてみれば、その光景は中々に父性を(くすぐ)られるものだ。


 そんなことより、一歳となった俺はある程度自由に歩き回れるようになった。流石に一人で屋敷内を彷徨くことは適わず、侍女が付いてくるが。

 なので、この機に本で魔法について調べたいと思っている――のだが、生憎未だこの世界の文字を覚えてないので、いきなり本は読めないが、そこは『万物創造』でどうにかしようと思っている。


 この一年間、毎日魔力を消費し続けたおかげで、俺の魔力保有量はかなり増えた。

 有用なモノを創り出すには、それなりの量の魔力が必要となるので、『文字を理解する』なんてモノを創り出すには、かなりの魔力を必要とすると思われるが、この一年で増やした俺の魔力の量ならば、充分足りるだろう。


 という訳で早速、本を読もうと思う。


 この部屋には本がないので、エクレールに本がどこにあるか訊いてみることにする。


「エクレール。本を読みたいんだけど、どこにあるか分かる?」

「本……ですか? 本なら書斎にあると思いますけど……」


 一歳かそこらの子供にいきなり本を読みたいと言われたエクレールは、戸惑った顔をしてそう言う。

 ちなみにエクレールは、十六歳くらいの茶髪の可愛いらしい女の子だ。


「じゃあ、書斎に連れて行って?」

「ですが……」


 俺の母親であるオリヴィアから、俺たちをこの部屋から出して良い許可などを得ていない為に、どうしようかと迷っているようだ。


 仕方ない。ここは子供であることを逆手に取って媚びてみるか……。


「お願い……」

「うっ……分かりました……」


 上目遣いで目を潤ませてお願いしてみると、あっさりと折れてくれた。


「おねえたん、どこいくの?」


 ようやく、書斎に行けるという時にセレアが拙い口調でそう訊いてきた。

 日々滑舌が良くなるように練習してきた俺と違って、セレアはまだ声帯が発達しきっていない。それは、運動能力でも同じだ。何も出来ない赤ん坊の暇さを活かした訓練の賜物だろう。


「本読みに行くんだよ。セレアも来る?」

「ほん……? いく!」


 本が何か分かっていないようだが、興味を引いたらしく、元気な返事が返ってきた。


 そんな訳で、俺とセレアはエクレールに連れられ、拙い歩みで書斎を目指した。



 ▽



「わあ……いっぱい……」


 書斎に着いて部屋の中を見たセレアが開口一番にそう呟いた。


 セレアの言う通り、書斎の中は本で溢れていた。

 流石に日本にあった図書館ほどはないが、学校の図書室くらいの数はあるだろう。たくさんの書架にびっしりと本が敷き詰められている。


「こちらに座ってお待ちください」


 エクレールは書斎の中にあったソファに俺たちを座らせると、書架が並ぶ書斎の奥へと消えて行った。


 俺はエクレールが本を持ってくるまでのこの間に、『万物創造』で文字を理解する能力(・・)を創ろうと思う。そう、能力だ。

 『万物創造』は、一から創り出すだけでなく、モノに機能――もとい、能力を付与することが出来る。それは生物も例外ではない。ただし、その結果、どんな影響を及ぼすかは分からない。『万物創造』を使って人体改造をする様なものなのだ。変な能力を付与すれば、それが悪影響を及ぼす可能性もゼロではない。


 つまり、今からするのは一種の賭けだ。

 しかし、自称神サマからのお墨付きも貰っていることだし、多分大丈夫だろうとは思っている。

 親に貰ったこの身体を弄るのは、少し罪悪感染みたものを感じるが、自称神の使徒として活動していくには、一般人ではダメなのだ。


 そんな訳で早速、能力を創ろうと思う。

 今回創造するのは、『完全記憶能力』だ。

 元の世界でも極稀にそういった能力を持っている者がいると聞いたことがあるが、その能力を持つ者が言うには嫌なことも忘れられず、デメリットも大きい能力という話だった。

 なので、俺が創り出す『完全記憶能力』は自分の意思で能力のオンオフを切り替えることができるようにする。


 それらのことを頭の中でイメージしながら、『万物創造』を発動させる。

 すると、身体の中からごっそりと魔力が持って行かれるのが分かった。

 一年間で増えた俺の魔力の八割強を消費して、『完全記憶能力』を創り出すことに成功した。


 魔力を大量に消費したことによって物凄い疲労感が襲ってくる。

 こんな事なら、昨日の内に創っておくんだった。


「お待たせしました」


 能力を創り終えてしばらく、セレアとソファに座って手持ち無沙汰に待っていると、エクレールが数冊の本を持って戻って来た。


 エクレールが持ってきた本は薄く、日本で年に二度行われる同人誌即売会で売られている本程度の厚みしかない。

 表紙には絵などは無く、見たことのない文字が大きく書かれているだけだ。恐らく題名だろう。

 使われている紙は、日本で使われている紙より、数段劣る質だが、羊皮紙の様に黄ばんでいる程悪くはない。


「では、お読みしますね」


 エクレールは俺とセレアの間に座り、一冊の本を開いてそう言うと、それを俺とセレアが横から覗くのを確認してから読み始めた。



 ▽



 エクレールが持ってきた全ての本を読み聞かせてもらい終わった。


 本の内容は、とある英雄の話や、一国の姫と姫に仕える騎士のラブストーリーや、魔王に立ち向かう勇者の話などだった。


 それらをエクレールに読んでもらっている中、セレアは飽きたのか途中で寝てしまった。

 今はエクレールの膝を借りて、寝息を立てながらぐっすりと寝ている。


 そして、文字の学習の成果だが、しっかり覚えることができた。

 『完全記憶能力』も問題なく、身に付いており、本の内容を丸暗記することができた。

 流石に、数冊の本を読んだだけなので、全ての文字を学習できた訳ではないと思うが、大体の文字は読めるようになったと思う。

 このまま、たくさん読書し続けていれば、この世界の文字を覚えるのもすぐのことだろう。



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