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自称神との出会い

なんとなく書いて溜まってたものを投稿します。

反響が良かったら続きを書いて、ストックが無くなるまで毎日更新していきます。

基本、私の気まぐれでやってますので、投稿が途切れることがあるかもしれないのであしからず。

 


 気が付いたら見知らぬ部屋にいた。


 俺はふかふかの上等そうなソファに腰掛けており、目の前の机には湯気を立てた珈琲に、皿に盛られたクッキーが置かれている。


 部屋を見渡してみると、幾多もの古めかしい本が本棚に並べられている。


 どういう状況なのか判らないが取り敢えず、目の前の珈琲が注がれたカップを手に取り、口元に近づけてみる。

 すると、嗅いだことのない芳醇な香りが鼻腔を刺激する。


 形容しがたい良い香りに誘われ、珈琲を口に含んでみると、これまた味わったことのない味が口の中に広がり、浮き足立っていた気持ちを安らげてくれる。


「ふぅ……」


 思わず漏れた溜息に釣られ、座り心地の良いソファに身を預ける。


「――落ち着いたかい?」

「っ!?」


 自分以外に誰も居なかったはずの部屋の中で、幼い声が聞こえ、思わず体を強張らせてしまった。


 声のした方に目を向けてみれば、いつの間にか対面のソファに腰掛けた白髪の子供がいた。

 白装束に身を包み、顔には挑戦的な笑みを浮かべている。


 この意味のわからない状況の中で当たり前のように佇むその姿を見て、この子が今、俺がここに居る理由を知っている者なのだと直感的に理解した。


「あはは、驚かすつもりは無かったんだけどね」


 そう言って無邪気に笑う目の前の子供に悪意などは感じられないが、『それは嘘だ』と断言することができるだろう。


 兎も角、何故こんな場所に俺はいるのか、そして、何故俺はこんなにも感情の起伏が薄い(・・・・・・・・)のか、聞いてみることにした。


「あの――」

「ああ、言葉にしなくて大丈夫。その二つの質問の答えは単純だ。それは――キミはもう死んでいるからだよ」


 ――俺が死んでいる?


 一瞬何を言っているのか解らなかった。

 何故なら今尚、こうして会話をしているのだし、さっきだって珈琲を飲むことも出来たし、何より俺の身体には何の欠損も無ければ、感覚だってはっきりしている。


「それは認識できる()を与えているだけであって、死んでいることには変わりない。魂を留めておく器を一時的に用意したに過ぎない」


 目の前の子供はさも当然といった様子でそう宣う。


 訳がわからない。俺の理解の出来る範疇を超えている。漠然とそう思った。


「だって……ほら」


 得体の知れない目の前の子供が、そう言いながら指を一つ鳴らすと、何かが変わった気がした。

 珈琲に映る何かが変わった。天井のシャンデリアに照らされた影が揺れた。今まで感じていた、包み込むようなソファの感覚が消えた。


「っ!?」


 自分の身体を見下ろせば、そこにはゆらゆらと陽炎のように揺らめく、薄紫色の『何か』があった。

 そう、今まで二十九年間、苦楽を共にしてきた俺の身体は其処(そこ)には無く、ただ不確かな得体の知れないモノが、『これは現実だ』と如実に訴えているかのように存在していた。


「分かってくれたかな? キミは死んだのだよ」


 白髪を靡かせる目の前の子供は、再び指を鳴らして俺の身体を元に戻すと、駄々を捏ねる子供を諭すようにそう言った。


 そうか、俺は死んだのか。漸く現実を受け止めることが出来たような気がする。

 未だにふとした時には、いつものように耳を(つんざ)くような目覚ましの音に脳を揺さぶられ、ベッドの上で目覚めるのではないかとも思うが、先程目にした現実が、『これは夢ではない』と教えてくれる。


 それならば、俺はいつ死んだのだろうか?


「キミは僕が殺したんだよ」

「……は?」


 余りにも突拍子の無いことをごく自然に言われた為に素っ頓狂な声が出てしまった。


「俺はお前に殺されて、そして今俺はここにいる……つまり、どう言うことだ?」


 訳がわからない。また、だ。お前は死んだのだと告げられ、そして殺したのは自分だと言う。戸惑わない訳がないだろう。

 しかし、それも数瞬の時が過ぎれば自然と落ち着き冷静な思考が戻ってくる。何者かに自分の身体を心身操作されているかのような不気味な感じがする。もし本当にそうなのであれば、その犯人は目の前のヤツだろう。


「そう。全ての犯人は僕。キミの住んでいた世界を管理していた者。キミの認識するモノで表現するのであれば、神と言ったところかな?」


 普段の俺であれば、『どこの宗教団体だ』やら、『とんだ中二病野郎だ』と一笑に()しただろうが、今の状況であるならば素直に納得することが出来る。

 目の前に座るこの子供は紛れもなく『神』なのだと。


「そんな神サマがなんで、しがないサラリーマンである俺を態々(わざわざ)殺したんだ? 癇に触ることでもしたか?」


 俺の質問に神と名乗った目の前の子供は、小さく笑いながら答えた。


「何も。何もしてないよ。僕にとってそうすることで得るものがあるからそうしたまでで、キミは何もしていない」


 全く悪びれる様子も無く、俺に非がないことを殊更(ことさら)強調するようにそう言った。


「それならば何故俺を殺したんだ?」

「それは殺した理由を聞きたいのかい? それとも何故キミだったのか(・・・・・・・・)かい?」


 コイツはとことん人を弄ぶことが好きらしい。俺が何を聞きたいのかなど分かっているくせに。その証拠に先程から声に出していないのにも関わらず、会話が成立している。恐らく、というか確実に心を読んでいる。神ならばそんなことも容易いのだろう。


 小さな笑みを湛えた自称神サマは、俺の心を読んで答える。


「先ず、何故キミだったのか、ということだけど、それには特に理由は無いよ。偶々(たまたま)選ばれたのがキミだっただけであって、特別な理由やキミでなければならない理由などはないよ」


 こんな言われ方をすれば、普通少しばかりは頭にきたりするのだが、それも今は波一つ無い水面(みなも)のように感情の起伏がない。


 目の前の自称神サマは、俺の思っていることなど無視したように話を続ける。


「そして、殺した理由だけど、キミには地球のある世界とは違うもう一つの世界に行ってもらおうと思っている」


 つまり、異世界へ行けと言うことだろうか? 異世界へ行くのに俺を殺す理由はあったのだろうか?


「もちろん、殺す理由はあるよ。僕は世界に直接干渉出来ないんだよ。既に生を受けている者の自由を阻害することは出来ないの」


 直接干渉出来ない? 先程、俺を殺したと言ったばかりではないか。何を言っているんだ?


「話は最後まで聞こうね? 既に生を受けている者は無理だけど、これから生を受ける者の自由はその限りではないのだよ。つまり、輪廻転生の時点では干渉することができる」


 直接でなく、間接であれば干渉は可能ということか。

 それであるならば、俺を殺したというのはどういうことなのだろうか。


「要するに、キミを殺したのは僕であるけれど、僕ではないのだよ」


 まるで禅問答のようだな。


 生を受ける前の自由、間接的な干渉、殺したのはコイツであってコイツでない。


「つまり、今の俺のように輪廻転生の時点で、何らかの細工を施されたヤツに俺は殺されたのか?」

「大体その認識であっているよ。所謂、僕の使徒ってことさ」


 自称神の使徒に殺されたとは……そもそもそんなヤツが地球に存在していたなんて笑えない話だ。


「それで異世界に行く理由とは?」

「単純なことさ。僕の使徒として転生して欲しいのさ。その為にこうして懇切丁寧に説明をしてるんじゃないか」


 懇切丁寧かは(はなは)だ疑問だが、事細かに説明を受けていることは事実だ。


「それで使徒として転生して何をすればいい?」

「おや? 僕のお願いを受けてくれるのかい?」


 外見は幼い子供の自称神サマがニヤニヤと人の感情を逆撫でするような笑みを浮かべてそう聞いてくる。


「そもそも拒否権などないのだろ?」

「分かっているじゃないか」


 何処までもムカつくヤツだ。


「それで何をすればいいんだ?」

「何も。ただ普通に暮らしてくれてればいいよ。必要があればこちらから連絡するし」


 先ほどの殺した理由の会話が脳裏にちらついたが頭を振って搔き消し質問を重ねる。


「分かった。で、その異世界とやらはどんな場所なんだ?」

「地球のある世界とは全く別の発展を遂げた世界だよ。何と言っても魔法という地球では架空の存在であったモノがあるからね」


 魔法の存在する世界か。それは中々楽しみであるが、魔法があるならば、それが存在する理由があるはずだ。

 つまり――


「うん。魔物といったモンスターもいれば、破滅思想を持った魔王という存在もいるよ」


 やはりか。そんな危険地帯に放り込まれて、自称神の使徒としてその命令を遂行するには、一般人には不可能に近いのではないのだろうか?


「その辺は大丈夫。キミの望む能力を一つだけ付与してあげるから」

「それは……太っ腹と捉えるべきか、ケチと捉えるべきか微妙だな」


 使徒として任務を遂行してあげるのに、くれる能力はたった一つ。一方的なお願いを聞いてあげるのに、見返りが少ない気がする。

 こっちは、コイツの身勝手な理由で人生を途中で終わらせられているのだ。別にあのまま生きていても、ずっと会社に奴隷のように使われて、つまらない人生を送っていただろうし、今更未練などはないが、それを『はい、分かりました』と素直に受け止められるほど、俺は出来ていない。


「そう言われてもね……まあ、可能な限りキミの望む力を与えてあげるよ」

「言質は取ったからな」


 と言ったものの、どんな能力が役に立つのだろう?

 魔法がある世界だから、魔法は必ず使いたい。しかし、ここで魔法に関する能力を貰ったとしても、転生してから能力を貰わなくても使えた、というオチになったりしたら、目も当てられない。


「オススメとかはないのか?」

「んー、そうだね。魔法にも色々種類があってね、使うには各魔法に適性が無いと上手く使えないんだけど、魔法の全適性とかは?」


 中々有用だと言えるだろう。しかし、全適性を得ただけで、様々な事に対処できるかは疑問が残る。使徒としての仕事が、どういうものなのかは分からないのだ。

 何より、魔法とは遠距離専門だろう。もし、『魔物を倒せ』というお願いをされたとしたら、魔法を使い、倒すことは出来るかもしれないが、接近されたらそれで終わりだ。

 近接戦闘も出来るように訓練すれば、と言われてしまえばそれまでだが、どうせなら全ての事に対処できるものがいいだろう。


「中々悩んでるね。他にも成長限界の撤廃とかもあるよ」

「どう言ったものなんだ?」


 語感からすると、身長が何処までも伸びるとかになるが、それじゃ色々と辻褄が合わない。身長が伸びても、特に役に立つことなど思い浮かばないし。


「曖昧なものだけど、努力次第で何処までも強くなれるとか、魔力の保有量の限界がなくなるとかだね」

「魔力も努力次第で増やせるのか?」

「もちろん。魔力は使えば使うほど、その保有量を増やすことが出来るよ。と言っても、成人するまでだけどね。今回はその成人するまでという限界が無くなるということになるね」


 二十歳までなら、かなり時間があることだし、それまでにできるだけ魔力保有量を増やせばいいだろう。となるとこの能力も微妙かな?


「キミがこれから行く世界では、成人は十五歳だよ。ちなみに誕生日という概念はなく、産まれた年を0歳として、年を越すことで歳を重ねていくよ」


 流石異世界。成人の歳すら地球とは異なるのか。

 しかし、五年は意外と大きい。転生した時から自我があるとして、その時点で魔法を使っていれば、五年の差を埋めることはできるだろうか。


「もちろん、転生時から自我はあるし、記憶もそのままだよ。でないと、使徒であることを忘れてしまうしね」


 だったら、この能力も微妙だな。

 何か無いのか……そうだ。


「……『万物創造』なんてのはどうだ?」


 俺の質問を聞いた自称神サマは、キョトンとした顔を浮かべると急に笑い出した。


「あははははははは、面白いこと言うね! 『万物創造』なんてそれこそ神の力じゃないか! キミは神になりたいのかい?」


 そこまで笑わなくてもいいだろう……俺の考える『万物創造』であれば、どんな事にも対処できるだろう。


「そうだね。キミの考える『万物創造』であればね」

「なら、それでいいか?」


 自称神サマからのお墨付きも貰った訳だし、この力があれば大丈夫だろう。


「ああ、いいよ。但し条件がある」

「条件?」


 今までコイツと話してきた事を思えば、無茶な条件を言いかねない。なんせ、自分の身勝手な理由で簡単に人を殺してしまう様なヤツなのだから。


「そんなことはしないよ。ただ能力に制限を掛けるだけだよ」

「どんな制限だ?」

「先ず、『万物創造』を使用するには、魔力を糧にする必要がある事。有用なモノを創造しようとすれば、より多くの魔力が必要になる」


 まあ、そのくらいならいいだろう。何をするにも代償は必要ということだろう。


「そして、生物の創造は出来ないようにさせてもらうよ。毎回毎回、魂を消費されたら堪らないからね」


 流石にそれは無理だったか。これが出来るのと出来ないのとではかなり有用性が変わってくるのだが。まあ、これが出来なくても、他に出来ることは多い。


「それだけか?」

「そうだね。今の所はこんなものかな」


 今の所は、ね。


「転生してから、やっぱこれもダメとか言うのは無しだからな」

「あはは、流石にそこまでセコいことはしないよ」


 本当だろうか? コイツの言うことは信用できない。


「じゃあ、そろそろ転生してもらおうかな」


 やっとコイツともおさらばか。

 せめて、この珈琲とクッキーだけは食べていこう。


 俺は今までに味わったことのないほど、美味なお茶菓子を貪るように口の中に放り込む。


 ところで俺は何処に転生されるのだろうか?


「ああ、何処に転生するのかは、完全にランダムだよ。キミの魂はこの後、輪廻の渦の中に放り込むだけだからね」


 どれだけの文明レベルなのか判らないが、出来るだけ裕福な処に生まれることを祈ろう。


「そうそう。餞別までに『魔力を目視できる魔眼』を付けておいてあげるから、精々せいぜい有効活用してよ」


 それは助かる。地球にはなかった魔力という存在を認識できなかったら困るからね。それにせっかくなら魔法を使ってみたいしね。


「それじゃ、またね」


 自称神サマがそう言い手を振ると、俺の意識は暗転した。



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