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第6話 『駅前のひと悶着』


『ただいま九条駅に停車しております。お降りのお客様はお忘れ物にご注意ください。……なお当駅では列車接続待ちのため十分ほど停車致します』


 JR職員のアナウンスが流れて、私は妹のゆかにぐいっと手を引かれた。


「おねぇ、ここで降りるんでしょ。ほら、早く」


「ん……んぇ、あ、うん」


 微妙に舟を漕ぎ始めていたので、ゆかに起こして貰わなければどうなっていたことか。

 立ち上がりざま、車窓に自分の姿が反射した。

 ショートパンツにスパッツ、足元はごつめな登山靴。上半身は半袖Tシャツ一枚で、ベージュのハットをセットしている。まさに山ガールって感じだ。果たして似合っているのだろうか。

 疑問と共に座席から立ち上がろうとする。そこで、隣に座っていた誰かの寝息に気付いた。


「すぅ……すぅ……」


 ほたるが、一緒に九条駅までついてきた私の彼女がまだ眠っていた。

 私と似たような服装だが、それがとっても似合っていた。雑誌の表面を飾れるようなモデル体型だから、凄く羨ましい。


「ほたる。ほたるん、起きて」


 ちょっと嫉妬の感情が渦巻き、悪戯いたずらに頬っぺたをむにむに押してみた。低反発な抵抗が返って来る。それに、なんだか温かい。


「す――はぅ」


 ほたるは、重たげに瞼を開くと、不意に何かを気にするように自分の胸元と口元を心配するそぶりを見せた。たぶん、よだれを気にしたのだろう。


「おねぇ、まだ?! ぼく先に行ってヤトダさん?って人と合流するから!」


 もたもたしている私たちに痺れを切らしたのか、ゆかは一言告げると電車を降りてしまった。車窓向こうで改札をぱたぱた抜けていくリュック姿の中学生が遠のいていく。


「ほたるん」


「んっ? な、なにっ?」


 口横に一筋流れていた唾液に慌てていたほたるに私はずいっと顔を近付けた。


「拭いてあげるね」


 抵抗しようとする片手首を押さえて、優しい口づけを。

 ほたるの肩がぶるっと震えて、甘い鳴き声が漏れた。


「ひゃっ、あ……んっ」


 柑橘の味がした。


「さっ、行こ」

「うー、寝起きからー」


「いいじゃんいいじゃん、にひひ」

「もー、いじわる……」


 恋人繋ぎの少女二人が二両連結の車両から降りていった。



「おはよーさん、ほたるんにみずっちゃん。眠かったやろ?」


 九条駅改札外では、八十田先輩が扇子で仰ぎながら待っていた。

 ロングパンツに京風シャツと緑のスポーツジャケ。そして、キャップを被り、意外なアイテム、ティアドロップ型のサングラスを引っ掛けている。

 初夏の暑さはさすがに、この先輩にも応えるのか額に僅かな汗玉が浮かんでいる。


「ええ。ほたるんなんかよだれを――んぐッ?」

「みずきちゃん?!」


 朱面のほたるに思いっきり口を塞がれてしまった。


「あっはっは。えろぅ仲良うなったんやねぇ、なんやちょっとだけいちゃうわぁ」


 八十田先輩は広げていた扇子をひと振りで閉じると、その先端で私とほたるの間に繋がれたものをビシッと指し示した。


「あ、いやっ!」

「ちっ、違うんです! これはっ」


 二人して急いで絡めていた指を離す。しかし、狼狽する私たち二人を見ても先輩はにこにこ笑んでいるだけだった。だが、もう一人はそうはいかない。


「おお、お、おねぇ……いい、今のは……」


 振り返ると、目を剥いて歯を鳴らしているゆかがそこに。

 この世のものとは思えないものに出会ったかのような唖然とした様子で佇んでいた。


「なんや、妹さんも連れてきはったん? みずっちゃん」


 耳の近くで先輩がぽそっと私に尋ねてきた。そう言えば、呼び方が『みずきちゃん』から『みずっちゃん』に変わっているな。


「は、はい……。ついてきちゃダメって言っても聞いてくれなくって……」


 今朝のことだった。私が眠たい目をこすりながら、階段を降りていくと、玄関では長ズボンとチェックシャツを着こんだ妹ゆかの姿が。『姉の行くところに妹あり!』などという訳の分からぬ言い訳と共に、こうして子アヒルの如く、くっついて来やがったのだ。


「せやけど、こうして見るとどっちがお姉やんで妹ちゃんなんか分からへんなー」


 たぶん身長のことを言っているのだろう。私の妹の方が背は十センチくらい高い。

 というか、私が著しく低いというのが問題なのだが。


「おねぇ! その女とはどういう関係なの?!」


「た、ただの部活仲間……」


「フツーただの部活仲間と手なんか繋ぐかよっ!」


 そう言うとゆかは私とほたるの間に割って入り、「うー……」とかいう妙な威嚇をほたるに向けた。


「ちょっと、ゆか……。失礼でしょうが。仮にもアンタより年上――」


 変な嫉妬持ちをほたるから遠ざけようと試みた瞬間、ゆかが私をきっと睨んだ。


「おねぇの馬鹿ばきゃぁっ!!」 


「っぁあ……」


 甲高いヒス声が鼓膜を揺らし、きーん、と耳鳴りがした。

 小指で耳を塞いでると、ゆかは地べたにしゃがみ込んで大声でわんわん泣き始めた。

 また病気が……。さて、どうするめぇか。

 困り果てて周囲を見渡す。駅にちらほら居る人達がぎょっとした感じで私たちに視線を送っていた。それもそのはず、もう15歳になる、来年度には高校生の少女が幼稚園児みたいに泣きわめいているのだ。恥ずかしいったらありゃしない。


「みずきちゃん……」


 ほたるが眉を八の字に寄せて申し訳なさそうにしていた。

 別に彼女が悪いわけではないのに。


「どないしようかねぇ」


 八十田先輩は口では、そう言いながらもニコニコ笑い、どこか楽しんでる風があった。

 案外、この人は意地悪なのかもしれない……。

 頼りにしてはいけなさそうだ。

 どうしよう。

 何か……何かないか……。

 妹の気を逸らせるもの……。

 首をぐるぐる回して――


「あ」


 そして、ソレを見つけた。


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