第25話 『部室のセクハラ案件』
私、三日月ほたるには、付き合っている女の子がいる。その子は花百合女子高で初めて出来た親友で、退屈な昼休みも一緒に過ごすようになった。ずっと一人でお昼は迎えていたけど、誰かと食べる食事ってなんだか心がぽかぽかする。それに……。
私は、小さな口でリスみたいにお弁当を頬張る少女を眺めた。
立花みずき。ツーサイドアップテールの黒髪、小柄な体躯と、ちょっとジト目気味な目の形。拗ねた感じの黒猫ちゃんといった印象。
そんな美少女と、静かな部室に二人っきり……。なにか間違いでも起こらないものだろうか……。
「どしたの、ほたる。私の顔、なんかついてる?」
「えっ! い、いやっ?! な、なんでもないよ〜。みずき、ごはん美味しそうに食べるなぁって思って。ひゅひひ……」
狼狽え過ぎて若干、気色悪い笑い方になってしまった。恥ずかしくなって耳に血が昇る。ゆでダコの気分。そんな私にみずきは「んー?」と首を傾げ、ニヤッと口角を上げた。
「ははーん、さてはまーた私に見惚れてたな〜。この面食いほたる〜」
そう言って彼女は私を指さし、揚げ足とったりと得意げな顔をした。若干腹立つ態度だけど、それも反則的に可愛いものだから悶々させられる。
「み、みずきだってさっきからずっと私のむ、胸ばっか見てる……じゃん」
先ほどからみずきの目線が、ずっと私の膨らみあたりをふらふらしてるのに気付いていた。
「ぶふっ?れ?! い、いやー……そんなことは……ただ、ご飯のおかずにしてたっていうかなんというか……」
彼女は言い訳がましく、髪の毛をくしゃった。お弁当の底に突き立てたお箸がグルグルと円を描く。その反応は、分かりやすすぎるよ。
私は彼女を半開きの目で睨んでみる。
「この……おっさんみずき……」
「べっ、別に山を見るくらい良いじゃん……。私たち登山部なんだから……」
往生際悪く、彼女はだいぶ無礼な言い訳を始める。しかし、ここで怒らないのが私の良い所。さっきの仕返しだとばかりに、ニンマリ見下ろす。彼女は見上げる格好となり、ぐぬぬ……と悔しそう。しかし、遂に諦めがついたのか肩を落として唇を尖らせた。
「し、しゅみません……。おっきくてつい見惚れちゃいました……」
「はい。よく言えましたー♪」
えらいえらい、の意味をこめてみずきの頭を撫でてあげる。彼女は、赤くなりつつも、素直に受け入れていた。
「てゆーか、同い年なのになんで、こんなに差が出るの? 私だって、ご飯ちゃんと食べてるのに。はあ、格差社会だよ……」
自分の胸を見下ろして、みずきはため息をついた。もし、三角の猫耳が生えていたらそれもしゅん、となっているのだろうか。
「けど、私はこれくらいの方がちょうど良いと思うけどなぁ」
みずきのおっぱいをブレザーの上から優しく触ってみた。とっても良い感触が両手に返ってる。
「んにゃあっ……ちょっ?! 揉むなあっ!」
みずきは、バッと赤面し身悶えして、私のやらしい手を振り払う。猫みたいな喘ぎ声が、彼女らしい。
「えへへ。みずき、前より少しだけおっきくなったんじゃない? もっとふにふにさせてよー」
「うっさいうっさい! バカ! どあほ! ほたるの変態! ど変態!」
なんだろう。そんな真っ赤な顔で上目遣いに罵られると、にやけてしまう。もっといじめたくなる。私にはSの才能があるのだろうか。
「みずき、可愛いよ。みずき」
「ほたる、気持ち悪い」
私の愛の囁きも虚しく、彼女はプイッとそっぽを向いてしまった。しかし、私には分かる。けっこうまんざらでも無さそうな横顔。
やっぱりみずきもムッツリなんだよなぁ……。
彼女に微笑んで、私はスマホをいじった。さっきまで開いていたネット記事が映る。
私たちが住んでる街のデートスポット特集だ。
「あ、ねぇねぇ。みずき、今週の土日空いてる? デートしようよ」
「セクハラした直後に、デートに誘うのか……。別に……空いてるけど」
「じゃあ、平倉山に行こうよ! 山頂にいいところがあるんだ〜」
「土日ってことは……泊まり?」
「うん。土曜に麓でキャンプして日曜に登ろ! 下りはケーブルカーで楽々だよ〜」
「ふぅん……どうしよっかな」
みずきは、わざとらしく腕を組んで、脚も組んだ。私を見据えて眉をひそめる。
「何か……企んでる?」
「ま、まさか!」
疑いの目に私は愛想笑いを作る。まぁ、おっしゃる通りなのですが。
「んー……食糧は現地で調達できそう?」
「う、うん! レッドガレッジ(スーパーマーケット)が駅前にあるから! そうだ。山頂で登山用ドライフーズも試そうよ」
「いいね、それ。今まで行動食は羊羹とかゼリーばっかりだったし。面白いかも。オッケー、じゃあ待ち時間とか集合場所はまた後で」
「そうだね。もう昼休み終わっちゃうもんね」
やったぁあああ。
みずきと、みずきとお泊りデートだぁあああ。
午後の授業だるいなーとか言いながら、お弁当を片付ける彼女を横目に、私は天にも昇る気分だった。




