表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/30

第18話 『夜景とアクシデント』


「ふぉお……すっごい」


「ここからでもよく見えるね」


 キャンプ場から徒歩10分程度。真っ暗な林道を歩いた先の展望台から望む夜景に、私もほたるも釘付けとなった。


「みずき、高校があるのって向こう側かな?」


「たぶんそうだと思う。山の向こうで何も見えないけど……」


「明日、山頂に登ったらきっと見えるよ〜」


「だね。楽しみだよ」


 背後には、標高1000m近い美原山がそびえている。しかも60L近いザックを背負って登るというのだから、余計不安も大きい。だが、あんな高い所から見る景色は如何ほどのものだろうか。期待もある。


「私もね、楽しみ」


 急にほたるが後ろから抱きついてきた。

 耳もとで彼女の声がする。


「がんばろーね、みずき」


「うん……。ちょっとほたる、離れて」


「つんでれ」


「デレてないし」


「むー……いじわる……」


 そっけない私の対応に、ほたるは若干不満げなようだ。


 悪いね、私は気分屋なのだよ。


 ほたるの腕から抜け出して、(ふもと)に広がる千志摩の夜景をたっぷり堪能した。


「あ、そうだ! これ飲もうと思ってたんだ」


 不意に背後のほたるが、演技じみた声を出した。

 チラッと窺うと、バックパックから何やらシングルバーナーとチタン製マグカップ、小型ポットを取り出す。


「やっぱり、冷える夜はあったかいミルクココアだよね〜」


 シュオー、という音と共にOD缶がガスを噴く。どうやらインスタントココアを持参しているらしい。そして、これみよがしに水を沸騰させた。


「沸いたかな……? よいしょ……」


 ほたるは、慎重にコンロからポットを持ち上げると、あらかじめ粉を投入していたマグに熱湯を注いだ。


 じょぼぼぼ……。


 マグに乳白色の液体が満ち、香ばしい匂いが立ちのぼる。コップは一つしかない。

 

 ひ、一人で飲むの……?

 

 私の疑問に答えるように彼女は独り言を漏らす。


「あ、そういえばもう一人分くらいはあるかもなー。お湯も余ってるしなー。どうしよっかなぁ……」


 そして、バックパックからもう一個のマグカップを取り出して見せた。

 したり顔が妙に腹立たしい。だが、この香気の誘惑は……。


「ね、ねぇほたる……」


「んー?」


 くそっ、なんだその顔は……。

 当てつけか……。


「わ、私も飲みたいかなぁ……なんて」


「あれ? みずきもほしいの?」


 ほたるは、疑問調に小首を傾げる。


「おい」


「えへへ、冗談だよ〜」


 屈託なく笑うと、ほたるはマグに熱いお湯を注ぐ。

 インスタントココアの香ばしい湯気が立つ。


「はい、出来ました」


「あ、ありがとう……」


 割と素直に作ってくれたことに、一瞬ためらった。何故って見返りを要求してこない点。

 昼間、あんなことやらされただけに警戒してしまうではないか。

 

まぁ……けど、タダで貰えるに越したことはないか……。


「んくっ」


「あ!!」


 そして、ほたるはいきなりそれを口に含んだ。

 まだ熱いに違いないのに、しかし、彼女は飲み込まず頬に溜め込んでいる。


「ち、ちょっと! ほたる、何してんの?!」


「んん、んんん!」


 私の制止を聞かず、彼女は何か言った。

『口、開けて』と言っているらしい。

 おい、まさか……。お前……。


 ほたるは、ゆっくり立ち上がるとゆらゆらと私に迫ってきた。


「ち、ちょっと……。それはいくらなんでもアウ……ト……」


 後退しながら、距離をとるが背中が柵に当たる。背後は、闇深い谷。逃げ場はない。


『にがさないんだから』


 そんな意味合いの表情で、ほたるは目を細めた。

 そんな華奢な身体のどこから?と問いたくなる力で両手首をガッシリ固定された。

 すっかり興奮した彼女の顔が目の前に。

 大きめな胸をむぎゅと押し付けられる。

 私の脚の間に、長い脚が無理矢理入れられた。


「ばっ……! いや、ほたる、まさか酔ってん――へぁむ?!」




「なー、イチカー。みずっちゃんとほたるんどこ行ったんや? 休憩所の方にも居らへんのやけど」


 八十田(やとだ)ゆめは、テントの中にいる金色短髪の少女に尋ねた。仰向けになって、少年マンガを読んでるらしい。ヘッドライトで光源を作っているが、だいぶ見づらそうだ。小脇には、お菓子が転がっている。それで太らないのが不思議だ。


「えー? あむっ……ひらないッス。んっく。どっか散歩にでも言ってんじゃないッスか? あー、うめ」


 まぁ、恐らく彼女の言う通りであろう。しかし、もう暗くなっているから、あまり遠くに行ってほしくはないのだが……。


「あ、センパイ。これ、食べます?」


 そう言うと、彼女はカラフルなイラストが描かれた袋を持ち上げた。

 ゼリービーンズ。アメリカでは有名な、豆の形をしたお菓子だ。


「んー、夜にお菓子は……。まぁ、少しだけならええか」


「はいよー、えーと……先輩に合うカラーはぁ……あった!」


 そう言ってイチカが摘まみ上げたのは、緑色の豆。ともすれば、さやえんどうに見えなくもない。


「ありがとなぁ」


「っと待った! タダではあげませんよ?」


 八十田が受け取ろうとすると、彼女はサッと手を戻した。


「はい?」


「いいッスカ? 私がこれを放り投げて、口で見事キャッチできたらあげます」


 そう言ってイチカはビンズを放り投げた。

 弧を描いたお菓子が重力に引っ張られ、彼女の口に落ちる。


「えぇえー……。自分から勧めといてソレかいな……だるー」


「あらら。生徒会長ともあろうお方が、もしかして自信無さげッスか?」


「そんなやっすい手ぇには乗らへんでー。そないな、犬みたいな真似するんやったら、要らんわ言うとるねん」


 八十田の返事に、イチカは唇を尖らせた。


「むぅ……。ならば、成功したらこの私がご褒美にチューするってのはどうッスか?」


「ひざまずいて、ウチの足にしてくれるんやったら、ええで」


「うわ、性格悪ッ!!」 


 ドン引くイチカに八十田は鼻を鳴らした。


「じゃあ、失敗したらウチがイチカやんの言うこと一個だけ聞いたるわ」


「お、おおぅ……。それは悪くない条件ッスね……」


 その提案を聞いて、彼女はほくそ笑む。

 まぁ、どうせロクなことは企んでないだろう、と八十田は見抜く。しかし、心配する必要はない。普段、お菓子を放り投げて食べるなんてことよくやってるからだ。失敗する危険は低い。


「ほなら、さっさとやろかー?」


「ふふんっ、良いでしょう。私の魔球、取れるもんなら取ってみて下さい!!」


 せーのっ、でイチカが投げる。

 

 緩やかな曲線。


 八十田は目を見開いて、軌道を読んで、そのまま口にキャッチ――


「あだっ」


 デコに当たった、豆がテントシートに転がった。


「にゃっははは! やとっさん、ヘッタクソだなぁ! いひひひ!!」


 笑い転げるイチカに、八十田はみるみる顔を赤くした。


「ち、ちゃう! 今のは練習や! 次が本番やからに!」


「おやおや、会長ともあろうお方が、言い訳なんて見苦しいッスねぇ……うぷぷ」


「……ッ!!」


 プゲラする2個下の後輩に、八十田は歯を軋らせた。思わぬ失敗に、普段持ってる余裕は完全に喪失。


「まぁ。一発勝負ってのもなんですし、もう一回くらいならチャンスあげてもいいッスよ?」


「ほんまに?」


「えぇ笑 やとっさん可哀想なんで」


「イチカ……! 絶対、後悔さしたるわ……!」


 調子に乗る彼女に、八十田は顔を険しくする。一方のイチカは、八重歯を見せてニヤついた。


「じゃあ、投げるッスよ? しっかり取って下さいね?」


「おっしゃ、こんかい!」


 気合十分の八十田の掛け声と共に、ビンズが宙を舞う。彼女は僅かに膝を持ち上げ、姿勢を伸ばす。


 落下が始まる。


 首を伸ばす。


 狙いは完璧。


 あとは、キャッチのみ――


「あやっ?!」


 突如、八十田の重心が崩れた。膝でシュラフ袋を踏んだのだ。彼女の上半身が前倒しになる。


「へ?」


 しかし、すぐ目の前には膝を曲げて座り込むイチカが。八十田は、そのまま彼女を巻き込んで倒れた。


『あったた…………ッ?!』


「んむ……ふぁ……」


 八十田が目を開くと、すぐそばに当惑するイチカの顔があった。近過ぎる。しかし、それ以上に衝撃的なコトが。


「ぷあっ!! わぁああ! すす、すまん!」


 思いっきり口付けしていた唇を離し、急いで身体を起こす。

 後ろ向きに倒れていたイチカが、遅れて上半身を持ち上げた。彼女は、真っ赤な顔で口元を隠しながらつぶやく。

 

「……い、いえ……大丈夫ッス、アクシデントなんで……。た、ただ、ちょっとビックリしたっていうか……は、はぅあぁああ」


 言い切る前に両手で顔を隠してしまった。

 八十田は、イチカのあまりに乙女過ぎる反応に、普段ガサツな彼女も、ちゃんと女の子してるんだと実感する。なんというか、可愛らしかった。


「ごめんな。けど、イチカやん、なかなかオモロイリアクするんやなって」


「うっさいです! もぉ~! 八十田先輩のバカバカおバカぁー!! 私、ノンケなのにぃ……」


 そう言って涙ぐむイチカもまた、新鮮であった。



 ジィー。



 不意にテント入り口のジッパが開かれた。 


「あの、今戻りました……。お邪魔でしたか?」


 ライトの光源と共に、三日月ほたるが顔を覗かせた。何かが起こったテント内を訝しむような表情。


「へぁ?! あ、いや、大丈夫やで! みずっちゃんも一緒?」


「あ、は、はい……。ただちょっと今は……」


「?」


 たじろぐほたるに、八十田は不可解に思う。

 まだのたうってるイチカを放って、テント外に出る。すぐ傍に立花みずきが、つっ立っていた。何やら目が虚ろでぶつぶつと独り言を呟いている。


「みずっちゃん? どないしたんや?」


「ここあ……ほっと……女の子……甘い……ほたる……ほっとここあ……ほっとほたる……」

 

「ほんまにどないしたんや」


 何処を見てるか分からない眼差しで、ぼんやりしている。一緒に居たであろうほたるを見ると、ビクビクと冷や汗をかいていた。


「せ、せんぱい。みずきは、ちょっと体調が良くないみたいなので、も、もう寝かせた方が良いかと思います……!」


「せ、せやな……」


「ほら、みずき。私がシュラフひいてあげるから、早く寝ようね!」


 彼女は、小柄なツインテ少女の肩を持つと作ったような笑顔でテントにinさせようとする。そのまま自分のシュラフの隣りで横にさせる魂胆だった。しかし。


「うるさい」


 急に割れに返ったみずきが、彼女の手を払いのける。


「へ?」


「この、ど変態ほたる。シュラフくらい自分でやるし。あと私、今日は反対側で寝るから」


「ガーン……」


 こうして夜は更けていくのだった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 現在、2chRead 対策で本作品「山ガールって何? ~花百合女子登山部へようこそ!~」につきましては、

 部分的に本文と前書きを入れ替えると言う無断転載対策を実施しております。

 読者の方々には、大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解の程よろしくお願いします。 

 Copyright © 2018 志島踏破 All Rights Reserved. 

 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ