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第13話 『MY SHOES&HER DREAM』

 私たちが暮らすこの街は、いわゆる地方都市という類に分類される発展具合である。東京様にはさすがに敵わないが、それでも近頃は中心部もかなり発展しつつある。

 そして、山岳やキャンピング用品などを専門に扱う店がチラホラ街に出来始めたのもその証拠ではなかろうか。


「着いたでー」


 八十田(やとだ)先輩がティアドロップ型のサングラスを外して、にやっと笑った。

 どうでも良いが、セーラー服にそのアクセサリは致命的に似合ってない。女子高生が機関銃持ってるくらいにマッチしない。

 はっ、もしかして、芸能人が外出中に顔を隠すアレ的なのを真似しているのか?!

 だとしたら相当イタい……。


「今、ウチ……みずっちゃんにバカにされたような気がするで……」


 へこむ先輩から目を逸らし、入口上部の看板を見上げる。


「アウトドア専門店ロビンソン……」


 クルーソー?に(ちな)んだネーミングだろうか。なるほど、アウトドアっぽい。無人島に流されてもここで装備を整えれば、万全であろう。


『いらっしゃいませ!』


 自動ドアの向こうは果たして、キャンプ道具、登山道具のオンパレードであった。

 壁に干しガツオの如く掛けられた大小様々のザック。その横にはロールキャベツが棚に所狭しと詰められている。シュラフコーナー。寝袋ってあんなコンパクトに出来るのか。


「せやなー、まず何から見よかなー」


「靴見ます」


 即答した。実はまだ自分用の登山靴を持ってないのだ。九条山ハイクでは八十田先輩が中学の頃使っていたものを借りて行ったのである。ついでに言えばザックも先輩のレンタル。要するに、登山道具はまだ何も持っていない。


「んー? 別にウチのアレもろても良かったんやけど……」


「いやぁー、何かやっぱ身に着けるものくらいは自分で選びたいなーなんて」


 と言ったが、実はサイズに微妙な違和感があったので選び直したいというのが本音である。

 すると、イチカが横から口を挟んだ。


「やとっさんの靴じゃ、みずき先輩には巨大過ぎたんじゃないッスか? アハハ」


 なぜ、彼女はいつも自分から墓穴を掘りに行くのか。被虐趣味でもあるのか。それともタダのアホなのか。


「イチカやんは帰りの荷物運び担当やなぁ」


 サングラスを襟に引っ掛けて先輩がぼやく。


「うぇえ?! 何でですか?!」


「レディへの配慮の低さにペナルティ……」


「私もレディなんスけど?」


 もうこの二人は放っておこう。

 私はそそくさとその場を離れて、登山靴コーナーとやらに足を踏み入れた。


「げ……マジか、この金額……」


 軒並み2万円超えの、3万が平均。高いものは5万を超えている。


「も、もうちょい安いのないの……?」


 見渡せば反対のコーナーに1万円台のヤツが並んでいる。うん、これくらいならまだ出せる……。何色の靴にしようか……。


「お客様、どういった山に登られるんですか?」


「のわっ?!」


 どこからともなく、短髪のお姉さんが現れ、面食らう。なんてフレンドリーなんだ。

 しかし、よく見ればロビンソンと書かれた作業服を着ているではないか。ホント、彼らの獲物(客)を狙う嗅覚は鋭い。


「え、えと……まだ初心者なんですけど……。今度、ひびき山と美原山の縦走をすることになって……」


「定番のメニューですね。そして、割りと本格的……。ふむ、でしたらこちらのローカットタイプよりもそちらのハイカットタイプがお薦めですね」


 と言って彼女が指したのは、さっきのお高い登山靴たち。


「あの……こっちの安いのじゃダメなんですか?」


「ローカットですか?」


「ろ、廊下??」


 どうにも店員の使う言葉がよく分からない。

 材質に違いでもあるのか。


「あかんでぇ、みずっちゃん」


 棚の脇からニョキっと先輩が現れた。

 彼女はローカットとハイカットの登山靴を両手に取って、くるぶし周りの部分を私に見せる。


「ハイカットは長靴みたいに長めに作ってあるけど、ローカットはスニーカーぐらいしかないやん? てことは、ハイはくるぶしより上までガード出来るけど、ローはそこまで出来へんねん」


「……? 何か問題があるんですか?」


「低山ならええけど、高山の岩場やガレ場でローカットなんか履いてたら、まず間違いなく捻挫や……」


 脅すような表情が妙にシュール。私は店奥にあるスロープに引っ張られた。人工の岩石や植物が備えられ、急勾配になっている。どうやら実際の登山道を模しているらしい。

 先輩は左足にローカット、右足にハイカットといういびつな履き方をしていた。


「たとえば、こんな感じの岩があるとするやろ? これをな……もし、下山中に左のローカットで踏んでまうと……」


 グキッと聞こえてきそうなレベルで先輩は足首を曲げた。少々大袈裟だが、充分あり得ることである。しかし、『あばばば』という変なリアクションが妙に腹立たしい……。


「でな、これが右のハイカットやったら……」


 今度は足首が曲がることは無かった。長いガードが脚の軸ズレを防いだのである。なるほど、これならば捻挫することもなかろう。


「どや? みずっちゃん。これでもローカットを選ぶんか?」


「うぐぬぬ……うゎ、分かりましたよ……」


 結局、割高な登山靴を選んだ。ウォーターカラーのヤツ。諭吉トリオが跡形も無く吹き飛んだ。


「みずっちゃんだけに水色を選んだん?」


「いえ、単純にカラーバランスを考えて……。先輩のが緑で、イチカが黄、ほたるんが赤だったので」


 赤面症のレッド、ほたる!

 髪が金髪イエロー、イチカ!

 抹茶が合いそうグリーン、やとっさん!


「はぇー、なんやウチら戦隊みたいやんな」


 何を思うてか先輩は、満足そうに笑む。


「どちらかと言うと信号機ですね」


「なんか一気にダサなってもうたわ……」


※※※


 昼よりもグンと気温の下がった夜。三人用テントの中、三日月ほたるは、一人寝付くことが出来なかった。


「すぁー……すぁー……」


 原因は彼女の隣で寝息をたてるもう一人の少女、立花みずき。トレードマークとも言えるツインテールをほどいて、何だかいつもとは違う雰囲気を受ける。

 ただでさえ、彼女には日頃並々ならぬ想いを抱いているが、今夜はそれが爆発しそうである。

 

『うぅう……こんなの生殺しだよ……みずき……』


 ともすれば赤ん坊のようにも見える、あどけない寝顔が目前、わずか数センチにあった。


『つっついたら、起きるかな……?』


 チョンと弾力のある頬をつついてみた。


「んんん……何だくま……? やめる……くま」


『ね、寝言?! いや、熊語……だと?! みずきの熊語!』


「ほ……たる……?」


『?!』


 突然、自分の名前を呼ばれ心臓が止まりそうになる。しかし、みずきの瞳は閉じており、まだ夢の中に居るらしい。

 

『みずき……可愛いなぁ……』


「……すぁ……」


『三日月ほたるは、今、最高に幸せです……!!』


※※※


「ほたるー?? おーい! そこで寝ちゃダメだってー! 起きろぉぉ」


 店内で一緒だったほたるを探していると、私は設営済テントの中に彼女を見つけた。展示品のシュラフに潜り込んだ彼女は、そのままねんねこしてしまったようだ。

 子グマのぬいぐるみを抱きかかえ、とても気持ちよさそう。


「むにゃ……みずきぃ……ちっちゃいな……えへへ……」


「おい、喧嘩売ってるのかお前は」


「三日月ほたるはぁ……立花みずきさんが……だぁい好きです……」


 流石に、この寝言には耳が熱くなりそうである。いい加減起こしてやるとするか……。

 と、踏み出した時私の肩をイチカが叩いた。何故か頭には、ヘッドライトを巻いている。こいつも店の商品で遊んでるのか……。


「先輩、ここは私に任せて欲しいッス」


 ペカーッと白色LEDを点灯させると、彼女はおもむろに意識の無いほたるの横に座った。


「むむ……こ、コレは……」


 ヘッドライトでほたるの顔を照らし、脈を取った彼女はコクリと頷き腕時計を確認。そして、神妙な顔つきで次のように言った。


「午後7時28分…………快眠を確認しましたッス」


「ふふっ」


「あ、みずき先輩が笑ったッス」


「しね」


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