プロローグ 『高校帰宅部歴13カ月のダメダメ女子高生』
五月。
第一志望の高校に入学して、はや一年と一か月。
私こと『立花みずき』は、友達が居なかった。高校に入れば、友達の百人や二百人ヨユウだろ、という謎の自信も微塵に砕かれ、私は今日も今日とて教室の隅っこでたった一人コンビニ弁当を突っつく。だから――
「あ……あの……」
唐突にクラスメイトの誰かから話しかけられ、ビックリして顔を上げる。エビフライの尻尾が口の横から飛び出ていた。急いで咀嚼する。
「けっほけっほ! ……んえ、何?」
喉を詰まらせむせながら、顔を上げると視界に入ったのは、私と同じく昼休みは大抵、一人でじっと過ごしている子だ。
私は子供の頃から無意識に無表情になりがちだ。幼少時代についたあだ名は『能面少女』。
私がクラスメイトと馴染めないのも、そんな故がある。
そして、だからか、その子も例に漏れず私と対面してビクッと肩を撥ねさせた。要するに若干ビビッていた。
「えっと、いや、その……んっとね……」
挙動不審に瞳を泳がせ、おどおどと両手をわきわきさせる様はちょっぴり可愛らしい。
たしか、このコミュ障少女の名前は、『三日月ほたる』とか言うんだったかな。珍しい名字だったので、よく覚えている。
ほたるの髪型は雑誌とかでよく見るような、ゆるふわポニーテール。顔の横に流した黒髪はさらッさらである。くせっ毛な私にはかなり羨ましい。
こちとら、毎朝、寝癖だらけで大変なんだぞぅ。
若干、ナイーブになりかけた所で不意にほたるが顔を近付けてきた。
「み、みずきっ……さん……!」
かなり近い距離に恥じらいを必死に隠した色白の顔が。別にそーいう趣味は無いんだけ――かっ可愛ぇぇえーー!! したい。永久保存したい。MYスマホに内蔵されたSDカードに。
「な、何でしょう?」
劣情を抑えて、半笑いで問い返す。別に期待はしてないが、これが告白ならば私の生活は明日からパラダイス。もう、男なんてイラン。この美少女のために、我が半生を捧げよう!
……しかし、私のそんな決意とは裏腹に、ほたるは予想外なことを口にした。
「そ、その……『登山部』に……入りませんかっ……?」
※あとがき
★立花みずき……現在、帰宅部の高校2年生。あまりクラスメイトと馴染めていない。
★三日月ほたる……登山部に所属する高校2年生。美人だが、引っ込み思案なのが玉にきず。