ドラゴンさん、目覚める。
前書きテスト
投稿テストを兼ねた小説を書く練習です。
貴方の生涯は、抑圧と重責の日々でした。
誰よりも人を助け、誰よりも人に裏切られた貴方。誰よりも人を護り、誰よりも人に傷付けられた貴方。誰よりも自己犠牲に走り、誰よりも自己を失った貴方。
私は、貴方に再びの生を、私は、貴方に再びの祝福を、私は、貴方に贖罪を。
しかし、嗚呼、ごめんなさい、私は無力です。貴方は創られた失敗作、貴方は神から見放された失敗作。
貴方は、神の忌子。神は失敗を赦さない、神は貴方を認めない。私も貴方を認められない、悲しい運命、貴方は、神からの祝福を授けられない。
ごめんなさい、私は、貴方を祝福し、断罪する。
ごめんなさい、私は、貴方を助け、貴方を殺す。
ごめんなさい、貴方に与えた祝福は、転じて呪いと化す。
願わくば、私は、あなたに。
力を与えましょう、時間を与えましょう、苦しみから解き放ちましょう、愛する時間を与えましょう、心を殺しましょう、永劫の苦しみを与えましょう、悲しみを与えましょう、愛する人を奪いましょう。
さようなら、生きて、今度こそ、貴方の願いを…
さようなら、未来永劫、永遠に、苦しみ続けるよう…
パキィ、と音が響いた。暗い。電気…電気を付けなければ。
頭が働かない、俺はなんでこんなところに、この暗い場所は…?だめだ、頭がボヤける、思考がまとまらず霧散する。ただ、そうだ、ここから離れないといけない。そう、今すぐ、ここから離れて、遠くへ行かないといけない。
まず、立ち上がって…ぐ、足に力が入らない。四つん這いで数歩動く。落ち着こう、いくら頭が惚けていても、立ち上がるくらいはできるはずだ、そうだ、こうやって壁に手をついて…立てた。とりあえず、歩こう、外に、遠くに……。
どれほど歩いただろうか、暗く、ゴツゴツした地面、何も見えないはずなのに、不思議と自分がどこへ向かえばいいかは分かる。何故かって、あっちの方から外の匂いがしてくるからだ。そして、段々と匂いが鮮明になり始め、視界も開けてきて…
「おれがいた のは どーくつだた のか」
うまく声が出ない、まるで何年も喋っていなかったような感覚だ。
「ん…んん、あー、あー」
声を出すが、違和感しか無かった。そもそも、俺、こんなに声…ぅあ、ダメだ、頭がボヤける。そうだ、ここから離れて、離れて…お腹すいた、ごはん、たべもの…ダメだ、考えられ…あ、
どれほど時が経っただろうか、不意に思考が明瞭になった。確か俺は、洞窟で…洞窟?なんで洞窟?待て、昨日の行動から考え直そう。確か俺は、高速バスに乗っていて…?
2011年4月、ボランティアに参加しようとした俺は、埼玉から高速バスに乗った。それで、確かすぐに寝て、それで…
[「生存者は!生存者は居ますか!!声を出してください!!」
急な怒声に眼が覚める、どうやら眠っていたらしい。薄暗い車内、パチパチと車内灯が点滅する。ん…車内灯が右側にある?…ああ、なるほど、これは、横転したのか。逃げないと…と、体が動かない、何かに挟まっているみたいだ、こりゃ自分1人じゃどうしようもないな。なら、と、周りを確認すると、すぐ隣で中学生くらいの子供が頭から血を流しながら横たわっているのが見える。
「ここに!俺と、もう1人居ます!」
「すぐに向かいます!」
救助隊員のヘッドライトだろうか、眩しすぎる光が近付いてくるのが見える、視界が白む。
「この子供から先に!俺は、何かに挟まっているのか、動けません!先に子供を!」
「わかりました!あなたも、すぐ…たす…け…」
隊員の言葉じりが窄んでゆく、白んでいた視界が光に慣れ、明瞭になってゆく。…ああ、なるほど、こりゃ、
「ダメそうですね、俺」
俺の身体は左側が大きく抉れ、左足もどこかに消えていた。ついでに言うと、腹に何かが刺さってる。多分、動けないのはこれのせいだ。
「気を強く持ってください!すぐ!すぐに!この子を運んでから!来ます!!」
そうかい、期待しないで待ってるよ、と言いたかったが、急に声が出なくなった。アレか、認識した途端痛くなる、みたいな。急に身体の自由が効かなくなってきた。
そして救助隊員は、戻ってこなかった。まあ、仕方ない、バスに火の手が上がったからだ。
もう外の音も聞こえない、身体の感覚もない、目も見えない、在るのは、息苦しさだけ。かの英雄ジャンヌダルクは、磔にされ火刑に処されたと云う。まさか現代日本でジャンヌダルクと同じ死に方を体験できるなんてなぁ。貴重な体験だ、本でも書こうか…]
あ、俺、死んだわ。そうか、死んだか。
「気絶したのか、あまり苦しくなかったのが幸いだなぁ」
思考の結論を出すように一言声を出すが、やはり違和感。いや、喋れないとかじゃなくてさ。
「あー、あー、なんだこの声」
妙に高い声、喉が震えず、透き通るような音を出す俺の声。なんだこりゃ。って言うかここどこだ、俺は何してる、ダメだ、カオスのオンパレードだ。
状況確認といこう。辺りを見回す、鬱蒼と茂った森の中、辛うじて空が見え、太陽の光が降り注ぐ空間に俺は座り込んでいる。体重を預けている木は低木で、ベリーのような実が生っている。よく見ると俺の手も身体もベリーで汚れている、無意識にずっと食ってたのか、俺。そう言えば空腹感は収まってるな。そして俺の身体は、胸があって、股間は寂しくて…?いや、とりあえず怪我はない、次に、右手、うん、左手、うん、右足、うん、左足、うん、もう一本の右手、う…ん!?
「は!?」
思わず声が出る、肩の方からもう一本の右手が生えている感覚がある。なにこれ、リョウメンスクナにでもなったか、俺。とりあえず腕を回す感覚で胸の辺りに持ってくる。
「うわぁ」
鱗に覆われた節に皮膜が付いている、もう一本の左手も、同じだ。…となると、お尻の辺りこの感覚は、えっと、背骨を曲げる感じで、グイッと…おお、鱗に覆われたぶっとい尻尾だ。
「実家で見たことあるぞ、これ。この尻尾の感じ、カナヘビだ」
カナヘビだ。カナヘビ。言葉と思考で反芻する。
「いやカナヘビに羽は生えてなかった。となると…もしかして、頭に角とか…」
触ってみる、ゴツゴツしてる、確定だ。
「まさか、俺、ドラゴン…?」
それから2日ほど、状況確認に費やした。まず俺はもう俺じゃない、なんか羽生えてるし尻尾も角も生えてる。おまけになんか視界をサーモグラフィー化できる。寝るときは尻尾を抱いて丸まって寝ると落ち着く。もはやドラゴンって言うかトカゲじゃん、これ。
そんでもってここは多分日本じゃない、って言うか地球じゃない。夜空を見上げたら月が二つ見えるし知ってる星座が何もない。
そして最後に、このベリーがめっちゃ美味い、この2日で木5本分を食べ尽くした。
確か俺は、洞窟で目を覚ましたはずだ。あまり覚えて無いが、暗くてジメッとした洞窟だった記憶がある。そしてトカゲは暗くてジメッとした所に卵を産む。確定じゃん、俺、孵化したな。
「やっぱりトカゲなんじゃないかな?」
トカゲ獣人♀、多分需要はどこにもない。
思考を切り替えよう。
「でもまあ、ここに留まっとく訳にもいかないよなぁ」
まずはコレだ。何となく、直感だけど、ここに長居するのはまずい気がする。あの洞窟から出てきた時のような感覚だ。多分今の俺はトカゲみたいなもんだから、第六感には従うべきだと思うんだ。
とりあえず、歩こう。どのみちベリーは食べ尽くした。生きるなら水と食料が必要だ。方向は…嫌な感じが、しない方に。
歩き続けて一昼夜、何で休憩もせず一昼夜も歩けるんだ、トカゲってそんなもんなのか。道中で見つけたリンゴもどきを腕に抱え、丸齧りしながら真っ直ぐと歩き続ける、酸味のあとに少し痺れる感覚、これが美味いのだ。例えるなら、りんごソーダ。
水場があれば水の反射で自分の姿がわかるかも…とも考えていたが、今の所水場は見つけられていない。何故だかあまり喉も乾かないからまぁ生きるのには問題ないだろう。顔は、ぺたぺた触った感じ顔には鱗もないし、多分普通に人間だ。
しかし歩けど歩けど何も変わらず、生き物にすら出会わない。サーモグラフィー的には遠くに生き物が見えるのだが、近付くと逃げられる。自分が何かから逃げてるみたいな感覚なのかな?動物ってすごいな、今は俺もその中の一匹だけど。
一昼夜、また一昼夜、そしてまた…
7回目の太陽だ、これで意識を取り戻してから9日この森で生活した事になる。やはり動物は現れず、俺はりんごソーダの実(命名:俺)を齧っている。そのへんにやたら生えてるんだ、これ。
今日も歩き通しか…と考えていると、なんとなく気配を感じた。近い。右斜め前の方向、動物じゃない。逃げていかない。これは…第一村人、発見か?
週1投稿からスタートして、もし余裕持てそうなら週2に切り替えます。




