表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスオーバー・オールディネ  作者: 花粉症
少女と少年の出会い
9/26

第九話:魔法を学ぶ

ようやく魔法の話に入ります。

長かった……。

これからしばらく説明が入るので会話が長めになります。

 しばらくして、朝食を食べ終えた庚輔と愛成と円、それからそれを待っていた岬の三人の姿は三彦の家とカフェ&バー、そして夜天の灯台に所属している魔法使いの家に挟まれた中庭にあった。


 といっても、その様子は食後のティータイムの場所を中庭に移しただけのようではあるが。

 猫耳がバレた愛成であるが中庭に出ていることもあって昨日と同じベレー帽を被っていた。

 ただ、まだ眠いのか船を漕いでいる。


「さて、改めて魔法使い、そして魔法というものを教えようか」

「お願いします」


 昨日説明したのはあくまで魔法というものに触りだけ関わるものに対するものだ。

 もちろん嘘ではなく本当の話なのだが、その根幹である魔法についてはほぼ一切触れられていないといっても過言ではないものである。


 だが、これから話すことは全て魔法使いとなる為に必要な教養。

 魔法に関わるものとしての根幹となる話であった。


「魔法というのは、大雑把にいえば大気中に存在する《マナ》と呼ばれるエネルギーを《媒体》に通して言霊と精神力を混ぜ合わせて発動させる能力のことだ」


 例えばと言って庚輔が懐から取り出したのは一つの紺色のついた透明な玉だった。

 テーブルに置かれたそれに岬は視線で「手に取っても?」と尋ねると庚輔も仕草で許可を出した


 丁寧に摘むようにしてとって光に透かさせたり、手のひらに乗せて重さを確認したりする。

 当然魔法の「ま」の字も習っていないような岬にわかるはずもないのだが、庚輔から《媒体》と聞かされただけあって何か特別なものなのだろうと思えてならず、これから魔法を学ぶにあたってそういう何かが必要なのではないかと思ったためだ。

 言うなら自分なりに気づけるところは気づきたかったということである。


 満足いくまで見ても構わないと一言かけてから庚輔は魔法についての説明を続ける。


「今手に持っているのが召喚魔法に必要な《媒体》」

「召喚魔法?」

「ああ、魔法には幾つか系統が存在しているんだが……」


 そう言いながら紙とペンを取り出して一つ一つ記す。


「よく昔話や伝説の物語に出てくるような魔法。呪いや祝福、浮遊などといった物体や精神に干渉する幻夢魔法。自然界の現象を意のままに操る、ゲームなどで属性魔法と呼ばれる精霊魔法。契約によって悪魔や獣、物品などのパートナーを呼び寄せる召喚魔法。物質の変換や強化、魔法特性の付与などといった物品の作成に関わる錬金魔法。治療や浄化などといった医療関係の神聖魔法。この五つの系統が主な魔法で、それぞれの魔法を行使する魔法使いのことを、幻術士、精霊術士、召喚術士、錬金術士、神聖術士と呼ぶ。必ず覚えておけ。一応六つ目として俺達人間より高位の存在へ祈りを捧げることによって様々な奇跡と呼ばれる力を行使する祈祷魔法というのが存在するんだが……ま、これは俺達の中じゃ禁忌だ。念頭に置くだけで覚えておく必要はない」


 それぞれに当てはまるように名称を書いて、追加で祈祷魔法だけ全くの欄外に書き記すと岬にも見えるように反転させる。

 媒体を手にしながらそれに目を通し、ふと気になったことを尋ねる。


「さっきコレを召喚魔法の《媒体》と言っていたけれど、もしかしてそれぞれの魔法で媒体は別に存在するの?」

「ああ。とりあえず順番に話すぞ? 一言に《媒体》といっても種類は様々だ。しかし、大きく二つに分けることができる。贄として消耗する物品と門として通り道にする模様だ」

「物品と模様……」


 庚輔の言葉を反芻して再び紙に視線を落とす岬。

 説明をする為にか庚輔は大きく円を描いて幻術士、召喚術士の二つと、錬金術士、精霊術士、神聖術士の三つに二分した。

 その上には物品と模様と書かれ、わかりやすくなっている。


「基本的に物品を媒介にするのは二つ。幻術士と召喚術士だ。幻術士は主に有機物を《媒体》に使い、召喚術士は無機物を《媒体》にするといった風に分けられている。といっても主にという言葉の通り人によっては違う場合もあるがな」

「それとは逆に模様を《媒体》にする錬金術士と精霊術士と神聖術士は個人で模様の形が違うだけで基本的に模様という分かりやすい形かな。こういった風にね」


 模様の話になって説明を引き継いた円は、懐から手袋を取り出す。

 一度玉をおいて手袋を手に取ってみると手の甲側に水と風を模した模様の描かれていた。


「先の説明の通り物品は消耗品で、それぞれにある耐久度を越えての使用を行うと壊れてしまう。逆に模様は経年劣化ことあれ壊れることはない」

「じゃあ、他の魔法も全部模様にすればいいんじゃ」


 説明上誰しもが思うことを言う岬。それを懐かしげに見る庚輔と円。

 彼らも同じ疑問を抱いたことがあるのだ。

 二人の様子から岬も「ああ、誰もが通る道なんだ」と思ったのは当然だろう。


「模様を《媒体》とする魔法は全て現象系というもので、マナを別の現象に変換させているだけなんだ。ドライヤーで例えると、マナは空気であり電力、模様はドライヤー、言霊はスイッチ兼ドライヤーを操作する腕、熱風が魔法って感じだ。少しわかりづらいが」

「本当にわかりづらいわね……」


 さすがにこのわかりづらさには教えてもらっている立場の岬も苦言を呈する。

 だが、庚輔も円も他にいい例え話が思い浮かばなかったのだ。本人達ももう少しまともな例えはなかったのかと自問するくらいにいい例え話が思い浮かばない。


 それでも庚輔達には例え話をしないという手はない。

 そういうものだと言ってしまえばそこまでだが、魔法使いとしてはどうなのかと問われるくらいには重要な話なのである。

 もっと言うなら今後魔法を学ぶにあたって重要な要素となっている話だ。


 だから庚輔達もここでなるべく間違った知識を与えないよう慎重になっていた。


「ま、とりあえず話を戻すが、物品を《媒体》とする魔法は維持系というもので、物品が魔法の核、所謂中心部になっている。このようにな」


 話を戻した庚輔は説明しながら岬が持っている媒介と同じものを取り出すとそれを宙へ向けて放り投げ、岬はそれを目で追う。


「召喚、ハティ」


 そして庚輔の言葉に応えるように《媒体》を中心に一匹のドーベルマン――ハティ――が出現した。

 岬もその姿には見覚えがあった。


「あ、昨日の」

「追跡用召喚獣ハティだ。触ってみろ」

「うわ……ちゃんと触れるし重みもある」


 許可を得た岬が触るとハティも慣れたもので、岬に触られるままにしている。

 時折前足を持ち上げられたりしても抵抗は一切しない。寧ろどこか気持ちよさそうにしていた。

 岬もハティの手触りや感触、そして重さに驚いている。

 そんな岬に円と愛成の二人が微笑ましそうにする中、庚輔は苦笑を浮かべながら説明を続けた。


「幻夢魔法と召喚魔法の二つは厳密には少し違うんだが、基本的に原理は一緒だ。《媒体》を中心部において現象や存在を固定する魔法と言えばいいだろう。今のようにハティという存在の身体をここに召喚し続ける核として《媒体》が使われている。これは線一つで意味が変わる存在の薄い模様の《媒体》では行えない。いい例えがなくてすまないが」

「いえ、なんとなくだけど分かったわ」

「そうか。それだけでも重畳だ」


 そう言って肩をすくめる庚輔だが、岬は少し上から目線な彼にどうこういう気はない。

 まだ魔法を習い始めた素人の岬に何がわかるって話なのだから、今は教わった通りに理解し、行うのが一番である。

 数学というものを習い始めた中学生の気分だ。


 いずれ疑問点も幾つか出てくるだろうが、その都度調べたり聞いたりして解決すればいいのだから。


「なんというか、魔法使いって研究者みたいね」

「ま、その通りだな。所謂『超常の現象の研究者』と言えばいいな。俺達は魔法使い社会と現代社会のバランサーだから研究よりも戦闘や調整を主としているけど、ほとんどのコミュニティはそういう研究をしている。それこそマナとはなんぞやっていう根本的なところから研究をしたり、魔法的観点と科学的観点から研究をしたりしているコミュニティもあるぞ。ま、結果は芳しくないらしいが」


 岬の感想を庚輔はハティを送還しながら肯定する。

 実際に魔法使いはどちらかといえばインテリな研究者なのだから間違ってはいない。

 もちろん庚輔達の仲間にも研究者タイプの人間がおり、仕事がない時は研究をしている。

 いずれは庚輔も岬にしっかりと紹介する予定だ。

おや、雲行きが。


修正部分


氏→士

媒介→媒体

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ