第二十三話:魔法使い達の会合(ただの昼食)
「さて、一段落したところで~。岬ちゃんは灯台側ってことでええんよね?」
ふと全員が食事を終えたタイミングで静花が庚輔達夜天の灯台に所属している魔法使いに尋ねる。
そこには岬も当然のように含まれており、突然の質問に晒された岬は戸惑いながら庚輔達へと視線を向けた。
岬にとっては庚輔達に教わる立場であるため、夜天の灯台に所属しているつもりであったが、自分が知っているのは準魔法使いとして夜天の灯台に保護されたということだけ。
だから今の自分の立ち位置がどうなっているかはっきりと知らないのだ。
無論、教わる立場から卒業したとしても夜天の灯台に所属しようとは思うが。
そんな岬の内情を知らない庚輔だが、ちらりと岬に一瞥してから表情一つ変えずに静花の問いかけに答える。
「成り行きとはいえ彼女の師匠は俺です。なので彼女は夜天の灯台に所属してもらいます。一人前になったらどうするかは、彼女次第ですが」
「ふ~ん……」
「?」
庚輔の答えに静花は意味深な笑みを浮かべながら岬へと視線をやる。
その意味を理解できない岬は首を傾げるだけである。
静花とは初対面ではないが、こうして世間話をするのは始めてである。特に魔法使い同士としての会話は始めてのことで、彼女がどういった考え方をもってどういった経験を持っているかは岬は知らない。
だから余計に岬は静花の視線の意味がわからなかった。
ちなみに静花の視線の意味は同い年に教わることを岬がよしとしているのかどうかを見極めるためであったのだが、既にその辺りの感情は消化している彼ら彼女らにとっては意味のない行為であった。
そのことに気付いた静花は苦笑を浮かべて肩を竦めた。
「こっちは余計なおせっかいやったわけか~……。わかったわ。これについてはそっちの管轄やしね。うちらが出張ることじゃあらへんな」
「ありがとうございます」
静花と庚輔のやり取りに岬は小さく息を吐いてホッとする。
魔法使いになり立てだからこそ、岬は庚輔から教えてもらいたいとが色々とある。
だが、その望みがあっても師匠が向こうから教えてもらえなどの指示や、師匠よりも上の人間が指示してきたらどうしようもない。
ここで庚輔がはっきりと自分が教えるからそっちは出張ってくるなと言ってくれたことに対して岬にとって安心できるものであったからこその安堵である。
そこへ円がこっそりと声をかけてきた。
「静花さんの所属している妖魔の里っていうコミュニティは召喚魔法の専門家が多数いるとこだから学ぶことはあると思うよ」
「そうなの?」
「うん。それにうちと友好コミュニティなら他コミュニティでの修行は結構やってるからね。まだなり立てだからここでも問題ないけど、召喚魔法を極めたかったら学びに行くのも手ね」
「だから庚輔君は一人前になったらってつけたのね」
「そそ。庚輔もあっちには時々話を聞きに行ってるし」
遠まわしにまだ早いと言われながらも岬は円の言葉を頭の片隅にでもおいておくことにした。
これから自分がどういった魔法使いになるのか。それが今の岬にはまだわからなかったからだ。
よくよく考えてみれば岬だけでなく岬と同じ年の人間にとって高校生とは将来について一度考え始めるタイミングでもある。
将来を見据えて理系や文系に別れたり、高卒で就職したりと今後の人生を大きく左右するタイミングだ。
そこに岬は魔法使いとしての道が示されたわけだ。
魔法使いとして趣味の範疇で中途半端な実力をつけて終わってもよければ、スポーツと同じように一番を目指すのもある。
他にも研究者になるというのもありで、さらに庚輔達みたいに守るという信念をもってやるのもある。
一般人の将来観念とはまったくもって違うのだ。
三彦のようにカフェなどを経営して魔法使いとしての側面を持った一般人でもいい。
道は多岐に渡って存在する。
しかし昨日今日魔法を学び始めた岬がどういった魔法使いになるかを決めるには早すぎる。
だけど考えるだけなら、今から考え始めてもいいかもしれない。
そう岬には思えた。
だが、岬にはまだ早いのも事実である。
だから今は円の言葉を脳の片隅に留めるだけ。何かきっかけがあれば思い出せばいい。
そんなことを岬が考えていると、倭和がそういえばと口を開いた。
「お前達、そろそろ新入生のオリエンテーションだろ? 連絡はとってるのか?」
「「?」」
倭和の言葉になんのことか分かっていない岬と愛成は首を傾げる。
オリエンテーションが何かわからないわけではなく、その際の連絡というのが岬には分かっていなかった。
ちなみに玉前高校で新入生のオリエンテーションというと、隣の県で二泊三日の小旅行である。
「「あ……」」
それが一体と岬が思った次の瞬間、隣から、具体的には庚輔と円から思い出したとでも言うかのような声が上がった。
そんな二人の反応にやれやれというように若菜は肩をすくめ、倭和と静花は「やっぱりか」というように苦笑する。
「魔法使いなり立てであまりわからんであろう岬ちゃんと学校生活は高校が始めてで浮かれる愛成ちゃんはしゃあないとして~……」
「お前達二人はダメだろ」
「「はい……」」
静花と倭和に駄目出しを食らって庚輔と円はしょぼくれる。
そんな二人の反応に岬は得心がいったらしく、手鼓を打って答えをいう。
「縄張りですね。他県であるため別の魔法使いの縄張りですし、連絡を取らないとダメってこと。ですよね?」
「そうそう。ようわかっとるやん~」
「いえ、先日習ったばかりのことなので」
正解を答えた岬の頭を撫で回す静花。照れくささからか、岬は思わず謙遜の言葉を述べながらくすぐったそうな笑みを浮かべる。
それとは対象的に庚輔と円は先程以上に肩を落としていた。
倭和や静花の言うとおり岬は魔法使いになり立てで、そういった特殊な事情には慣れていない。
そして愛成は元々異世界人であり、岬とは違った意味でこちらの事情には詳しくなく、さらに学校というのは彼女にとって始めての環境でもあるがゆえに精神的にその辺まで意識が言っていない。
二人の事情を鑑みても、二人が倭和達の言わんとすることが理解できなかったのは頷ける。
だが、庚輔と円は生まれも育ちもずっとこちらの世界。
そして岬や愛成と違って魔法使いとしても大先輩の庚輔と円。
そんな庚輔と円が静花と倭和に指摘されるまでその内容について思いつかなかったのはいくらなんでもないとしか言いようのない事態である。
「とりあえず、帰ったら連絡しとけ。明日には班決めしなくちゃダメなんだ。今のうちにどのくらい同じ行動ができるかの確認もな」
駄目出しをしつつしっかりとフォローを入れる倭和。
それに答えるように気落ちしながらもしっかりと庚輔と円は頷いた。
他の魔法使いの縄張りで魔法使いが単独行動すれば当然ながら怪しまれる。
そのため魔法使いはなるべく集団行動した方が得策なのだ。
だが、オリエンテーションでは男女別に別れる。
円、愛成、岬は一緒の班になれるから問題はないが、庚輔が単独行動ということになってしまう。
無論、連絡をとっておけば庚輔が単独行動しても『学校行事』として捉えられてあまり重要視はされないだろうが、可能な限り一緒にいたほうがいいのは変わりない。
だからこそ早めに班を決めておいてあらかじめ同じ行動ができるように話を通しておく必要がある。
このあたりの調整は実際に体験していない庚輔と円はかなり不慣れな部分でもあった。
「一番いいのは庚輔が仲良くしている友人と円達が仲良くしている友人がいれば問題ないんだが……」
「ここは私学やし、それなりに偏差値も高いとこやしねぇ~。基本中学からの仲間はおらんやろ?」
「そうですね」
「はい」
言いながら四人は苦笑を浮かべる。
彼らの言ったとおりこの高校には庚輔達と仲のよかった友人は進学していない。
それは岬も同様で、彼女も少し考えてから「ダメね」と呟いて首を横に振っていた。
そんな岬の横で庚輔が全員に確認をとる。
「班って何人だ?」
「えっと、確か最低五人班だよ~」
「ならあいつらは確定だとして残り二人か」
「あの二人入れたらちょうどね」
だが、それでも学校に入って二週間。
基本無愛想というかぶっきらぼうな庚輔にもそれなりに親しく話せる人間はいる。
そして女性陣に関してはあと最低でも二人入れるだけであり、実は円にも二人くらいなら宛があった。
「二人?」
「ほら、わたしの席の近くの、おっきい子とちっちゃい子」
「ああ、あの二人ね」
誰だと気になった岬だったが円のアバウトな説明で理解できたのか納得する。
岬も円の言う二人からは授業の関係で話したこともあり、それなりに好感触だったからこそ問題ないと判断できた。
それに普段から円達と話していることから庚輔達、男性陣と一緒に行動しても問題ないと判断できる。
あとは庚輔達男性陣の残りのメンバーを決めることだった。
もっとも、それは今話し合ったところで決まるようなものでもないのは誰にもわかることである。
「とりあえず明日でいいと思うんだが……。各々仲のいいやつに声かけるのは今日の方がいいが」
「それもそうね」
「じゃ、今日はここまでにして早速二人に声をかけにいこ~!」
話し合いはここまでという庚輔に答えるように声を上げる愛成。
そこへちょうどいいタイミングで予鈴が鳴り響くのだった。




