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クロスオーバー・オールディネ  作者: 花粉症
少女と少年の出会い
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第二十二話:学校にいる魔法使い達

 私立玉前高校は世間で言えば難関校とまではいかないがそれなりに偏差値の高い高校である。

 敷地面積も近隣の学校と比べて広い方で、それ以外にも部活動のために山も所有しているという噂もある。

 進学校並に教育には厳しいところであるが、別段進学校を名乗っているわけではないため校風は割と自由なところがある。


 自主的に勉強ができる人間にとってかなりいい高校であるが故に自然と受験人数が増え、倍率が高くなってある意味で難関校となっている。


 そんな高校に通う岬達はかなり頭のいい部類に入ると言っても過言ではないだろう。


 閑話休題それはさておき


 それなりに広い学校に共通してあるのは無駄とまではいかないが、設備の多さであろう。

 当然、例に漏れず玉前高校も様々な設備を有している。


 庚輔達三人に連れられて岬が案内されたのは芸術関係の授業で使われる校舎の奥の方にある音楽室……の更に奥にあるスタジオだった。

 このスタジオも玉前高校の様々な設備のうちの一つだ。


 主な利用は音楽関係の部活やダンス関係の部活などが中心で、他は偶に授業で使われるくらい。

 あとは近隣の民営サークルへの貸出を行っているくらいだ。


 そんな設備だが、広さはひとクラス入っても申し分ない広さがあり、それを学生四人で利用するというのは岬にとってみれば入る前からかなり気が引けるものであった。


「え……ここ使っていいの? というより鍵は……」

「大丈夫。ちゃんと許可取ってるし。それに鍵も持っているんだ~」


 岬の呟きに右手の人差し指で鍵をくるくると回しながら大丈夫と答える円だが、当然ながら学校側は普通昼食取るためだけに貸すわけが無い。

 どの学校も利用目的がその設備に適した目的でないと許可は取れないのだから。


 さらに言えば円が回している鍵。

 よく見れば設備の鍵には必要な管理番号などが書かれているプレートの代わりに、どう考えても私物としか取れないキーホルダーが括りつけられていた。


 さすがに許可云々よりも気にするべきことであった。


「ちょっと待って? それ明らかに私物じゃないの?」

「うん、私物。凛音さん……ほら理事長だよ。鳴尾理事長」

「そういえばそんな名前だったかしら……」

「まぁ、その彼女が魔法使いでね、この学校の敷地の周囲って中立地帯である関係で他のコミュニティとも割と関わるんだ。だから魔法使い達が集まれるようにってことで、管理できる人間に一部の施設については凛音さんから渡されてるのよ。で、神聖魔法がメインで後方支援が多いわたしが預かっているって訳」


 説明しながら円は鍵を開ける。

 管理責任についてはどうなのだろうと思ってしまう岬だが、よくよく考えれば理事長が本当に魔法使いならここは彼女の領域。

 そこで魔法使いである理事長が何もしていない訳もなく、一般人に対しては絶対的なセキュリティであろう。


 だが、それでも問題がないわけではないだろう。

 無論岬もそのようにツッコミを入れようとするが、口を開ききる前に二重扉となっているスタジオの内側の扉が開いて内装が岬の視界に入ってきた。


 同時に岬の視界にテーブルを抱えた見覚えのない大柄な男性の姿が映った。

 おそらくこの学校に勤務する教師なのは理解できるが、昔からの癖なのか初対面の人間に対して岬は反射的に心に壁を張る。


 そして男性もスタジオに入ってきた四人に気づいて声をかけてきた。


「ん? あぁ、灯台の連中か」

「こんにちは倭和やすかずさん。いつも準備ありがとうございます」

「いつもより一人多いようだが……彼女が例の?」

「はい」


 警戒する岬をおいてけぼりにして会話する庚輔と男性(倭和)

 だが、会話の内容からおそらく同じ魔法使いなのだろうとしか状況が読めていない岬に気づいた倭和が庚輔に視線を送った。


 そこでようやく岬が話についていけてないことに気づいた庚輔が身体をずらして倭和を紹介する。

 ちなみにそうしている間に愛成は倭和がしていたテーブルの準備の続きをしていた。


「すまん。この人は西大寺倭和さいだいじ やすかずさん。俺達と同じ魔法使いで、彼の兄がマスターと務めるコミュニティ『陰葉の雫』に所属している。あとここで音楽と体育の教師もやってる」

「えっと……私は千船岬です。よろしくお願いします」

「ああ、三彦から君のことは聞いてる。まぁ困ったことがあったらいつでも相談に来い」


 近づかれて改めて岬は倭和の大きさに感嘆する。

 身長は190を超えるくらい。肩幅も大きく大柄で髪をオールバックにしているいかにも体育会系といったところであろう。


 彼との握手を交わしながら魔法使いというか剣闘士グラディエーターというのがしっくりとくるのではないのかと思ってしまうのは当然のことであろう。


 そんなことを岬が思っていると円が声をかけてきた。


「倭和さん、静花しずかさんは?」

「あいつならそろそろ……」

「あらあら~若菜ちゃん以外もうみんな揃っとるね~」


 問いかけに答えようとしたところでおっとりとした声が四人の背後から聞こえてきた。

 振り返るとウェーブがかった黒髪をハーフアップにしてメガネをかけた女性が立っていた。


 さすがにこの女性については岬も知っていた。

 なぜなら保健室に行けばほぼ絶対にいる人であり、さらに入学直後の健康診断でも紹介された人物でもあるからだ。


武庫川むこがわ先生?」

「あら~。岬ちゃんも魔法使いになったんやね~」


 疑問形な岬に対してマイペースな様子を崩すことなく女性は頬に手を当ててニコニコと微笑んでいる。

 その様子からさすがに岬も彼女が魔法使いであることはすぐに予想できた。


「ほな、改めて~……」


 だが次の瞬間、岬は背筋をピンとと伸ばして気を付けの姿勢を反射的にとった。

 瞬間的に彼女の様子が百八十度変化したからだ。


「私はコミュニティ『妖魔の里』に所属する武庫川静花むこがわ しずかだ。魔法使いになり立てのひよっこに神聖術士として一つ忠告させてもらうが。己の力量を過信するんじゃねぇぞ。力を得たばかりのガキは往々にして己が強大な力を得たと勘違いするが。所詮魔法はただの技術、決して万能になったわけじゃあない。いいか? もう一度言うぞ? 己の力量を過信するな。多少の怪我なら私や巡さんが治してやれんが死んだら元も子もないんだからな。以上だ」

「は、はいっ!」


 先ほどのほんわりとした口調は消え去ってまるでヤンキーのような口調になった静花に岬は気を付けをしたまま反射的に返事を返してしまう。

 それほどまでに彼女の威圧は強いものであった。


 静花の威圧に気をつけしたまま固まってしまった岬を見て、円は笑いたいのを必死で堪えるかのように腹を抱えており、庚輔も噴き出すのを堪えるためか口元に手を当てて必死に岬の方を見ないようにしている。

 二人とも静花がこういう人間だと知ってて敢えて岬に黙っていたのだ。


 必死に堪える二人をバッチリ見ていた倭和はいい性格しているなと思わざるを得なかった。


 そんな風にしている三人の気配を感じながら静花は雰囲気を元に戻して岬を抱きしめる。


「ええ子やなぁ~。うちとは違って素直やわ~」

「え、えっと……フガッ!」

「うんうん。かわええなぁ~」


 全く雰囲気の違う彼女の様子に岬はついていけずに目を白黒してされるがままになっている。

 そんな岬の様子がツボだったのか、静花はさらに岬を抱きしめてその豊満な胸に岬の顔を埋めさせる。


 岬を猫可愛がりする静花に対して、その対象である岬は暴れることはしなくても反射的に抵抗の意を示す。

 が、静花にとってはさらにツボであった。


「基本うちはこっちやから気にせんでええで~。せやから二人共笑っとるのはどうかと思うなぁ~。お二人さんも昔は今の岬ちゃんみたいやったやん」

「え?」

「しかも円ちゃんなんて思いっきりうちの忠告無視してくれたしなぁ?」

「うっ……」


 抱きしめながらとてもいい笑顔で後ろで笑っている二人に視線を向ける静花。

 そんな彼女の言葉でようやく岬は庚輔と円がしどろもどろになっている自分を笑っていることに気づいた。


 このタイミングで緩んだ静花のハグからなんとか離脱した岬は後ろを振り返ってジト目を二人に向ける。


「ねぇ、さすがにこれは……ないんじゃないかしら?」

「ご、ごめんね。魔法使いもあとは若菜先輩だけだし」

「ま、そのうち来るから落ち着け」


 二人もこれはいたずらが過ぎたと黒いオーラを放つ岬に睨まれてたじろぎながら答える。

 庚輔はまるで効いていないかのようではあるが、よく見れば表情が引きつっていた。


 それは岬が黒いオーラだけでなくマナを収束していたから。

 未だにマナ操作を会得していない岬が無意識とはいえ感情でマナを操作してみせたというのは、それこそ岬の才能の片鱗を感じさせるものであるからだ。


 今はまだ岬がマナを操っている感覚に慣れていないからこそ気づいていないが、もしこれで岬が気づいたならば容易くマナ操作のコツを掴むことになるであろうことは容易に想像できる。


(ほんと、末恐ろしいな……)


 とはいえ庚輔もそれを教える気はない。

 意地悪でそうしているのではなく、自分で気づいた方が成長が早いからだ。


 だから庚輔は敢えて岬に教えないし、円達にも同様のことを徹底させていた。


「……はぁ」


 そんな庚輔の内情を知らない岬は苦笑を浮かべる二人の様子にため息と共に黒いオーラを引っ込めた。

 よくよく考えてみれば他愛もないいたずらだ。

 別に何か被害を被ったわけではない。


 ならここまででいいだろうと怒りを引っ込めたのだ。


「みんな~! 準備できたよ~!」


 それにちょうどいいタイミングで愛成が昼食を食べる場所を整えてくれたのだ。

 これ以上彼らに目くじらを立てていたらここで喋っている間にも準備をしてくれていた愛成に申し訳ないという気持ちが岬にはあった。


「ほら、ちゃっちゃと食うぞ」

「若菜ちゃんはあとなんよね?」

「ええ、用事があるらしいので」


 円は逃げるように愛成のもとへ行き、倭和と静花の言葉に庚輔は答え、岬はもう一度ため息を吐きながらそのあとについていく。


 少し人間関係が特殊ではあるが、それは学校で見ることのできる光景。


 この場に集まっているのは一般人とは程遠い魔法使い。

 だが、その生活の大部分は一般人とさほど変わりはしないのである。


 学校における彼らの生活はいつもこんなものなんだと、これまでのやり取りで岬は理解したのだった。

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