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クロスオーバー・オールディネ  作者: 花粉症
少女と少年の出会い
16/26

第十六話:忠告

「いや~お楽しみんとこすまへんな」

「いえ」

「ホントだよもうっ! せっかくショッピング楽しむとこだったのに」

「オレに文句言われてもなぁ~……」


 後部座席から飛んでくる円の文句にエセ関西弁の青年は苦笑を浮かべる。

 実際円達の楽しみの時間を奪ったのだから青年もこれくらいの文句は許容範囲だ。

 とはいえ彼に文句をいうのは筋違いというのも事実である。


「流れで乗ったけど……どなた?」

「オレは大物翔平だいもつ しょうへいっちゅうもうんや。翔平でええで。円っち達と同じ夜天の灯台所属で主に情報管理とこういった後方サポートをメインとして活動しとるで。よろしくな岬ちゃん」

「あ、よろしくお願いします」


 今更ともいえる岬の言葉にしまったという表情をしながら、車に乗る際にやりそこねた自己紹介を行う翔平。

 釣られるように岬も挨拶を返す。

 助手席に座って恐縮する岬へ翔平は運転しながらもチラリチラリと何度も視線を向ける。

 岬も何度も視線をよこされては反応せざるを得ない。


「えっと、何か?」

「あ~いやなんというか……」

「翔平さん、主に人払いの結界を張って一般人の認識を違和感のないように魔法使いから遠ざけてるんだけど、昨日岬ちゃんが平然と破ったからねぇ~」

「一般人だった岬にプライドが刺激されてるのよ。大見得切って大丈夫って言ったのにねぇ」

「うっさいわっ! ちゅうかあれはハティ見られた庚輔のミスやろ!」


 愛成の言葉を引き継いで煽る円に翔平も反論を返す。

 そのやりとりに岬も思い当たる節があったらしく、昨日の庚輔と会う前、ハティを追いかけている前くらいのことを思い出した。


「あ~……あの違和感って翔平さんが作ってたんですね」

「嘘やろ……」


 自然と口にした言葉は翔平の結界を元から見破っていたということに他ならない。

 さすがにこの言葉に翔平も打ちのめされたのか赤信号で車が止まっているタイミングで項垂れる。


 庚輔のハティが見られていたことで見破られただけなら翔平にしてもしょうがないで済まされることなのだが、まさか自分の魔法が見破られているとは思ってもいなかったのだろう。

 だが、事実岬は違和感を感じており、さらにイリスと菖蒲が助言したことで岬は完全に翔平の人払いの結界を破ってその中に入り込んで庚輔と出会い、今ここにいる。


 円も愛成もそのことについては一切合切フォローできるような知識を有しているわけではない為、翔平をいじることはあってもフォローすることはなかった。


「ま、まぁ私はイリスと菖蒲がいたからってのもあるかもですし……」

「あ、そうそう。その二人のことなんやけど」


 思わずフォローしようとする岬だったが、予想以上にあっさりと戻った翔平はちょうどいいとい言わんばかりに話を変える。

 そして懐から小箱を取り出した。


「これ、若菜ちゃんからの贈りもんや」

「これは?」

「まぁ、開けてみ?」


 促されるままに小箱を開けると、中には手のひらより少し小さい程度の懐中時計が収められていた。

 それもただ懐中時計ではなく外蓋の中央に水入り水晶がはめ込まれ、その周囲にアイスクリスタルが散りばめられたものである。


 魔法使いとしては成り立ての岬ですら、これが《媒体》だとすぐに理解できた。


「あの、いいのですか? こんな高価なもの」

「ええよ。これは若菜ちゃんお手製やしな。それに魔法使いになった祝いや。遠慮なんてせんでええ」

「あの人、錬金術士なんだ。だからわたし達の装備全部あの人製。とは言っても時計なんてすぐ出来るわけじゃないから多分元々作ってあったものに蓋の改造をしただけだろうけどね」

「それに庚輔に説明し忘れがあったからついでに言うけど、《魂魄契約》は契約時に一立方センチ以上の大きさが必要なだけで、それ以降は認識できる程度の大きさがあれば十分やからさほど《媒体》にも金は掛かっとらんしな」


 戸惑う岬に翔平はケラケラと笑いながら、円はありがたそうにしながら答える。

 その言葉に岬は後で若菜に感謝しようと心に決めてそれを懐に収める。

 同時に今まで感じなかった二人の気配が自分の中に戻ってきたのも感じ取った。


「二人共自分の意思で送還してもらっとるから到着したらイリスちゃんと菖蒲ちゃんを召喚して待機してや? これから行くとこは危険やから」

「魔獣でしたっけ」

「せや。オレ等はその駆除に向かっとる」


 魔獣。それについては岬も翔平と合流するまでの間に円から聞いていた。

 世界の穴からこちらの世界にくるのは何も獣人や人間だけじゃない。


 向こうの世界の力を宿した生物。異世界人が魔獣と呼ぶ存在もこちらの世界にやってくることもある。

 ゲームのモンスターに酷似しており、そのほとんどが人間を前にすると防衛本能で能力を使用してくる。

 さらに肉食の魔獣を始めとした一般人には危険な魔獣や、今のところ出現していないが、ドラゴンといった近代の軍隊でも勝てるか怪しい魔獣が現れる可能性がある。


 こちらの世界には存在しない生物であるがゆえに、混乱を避ける為にも魔法使いの存在を暴露されない為にも秘密裏に処理しなくてはならない。

 だからこそ、魔獣の処理は最近のコミュニティの課題になっていた。


 そして今その魔獣が出現する予兆が出ており、近くにいる魔法使いが円達しかいなかった為に彼女達が向かっている。


「私は参加しなくてもいいんですよね?」

「当然。マナの扱いもわかっとらんよちよち歩きの初心者にやらせるほどオレ等も鬼畜やあらへん。やるんは円っちと愛成ちゃんや」

「そ~そ。私達にお任せあれ~」

「連れて行くのは一応空気にはなれてもらいたいからってことだから。《媒体》渡してるのは念の為の護衛って感覚ね」


 翔平の言葉に同意しながら円と愛成は同じように指ぬき手袋をはめた手をサムズアップさせる。

 愛成はいつの間にベレー帽を脱いだのか猫耳をピコピコと動かしていた。


 どこか頼もしさを感じる二人の雰囲気にそういえばと岬は口を開く。


「二人共どのくらい戦ってるの?」

「わたしは中学入った頃くらいからかな? それまでは神聖魔法を使っての治療がメインだったけど、愛成が入ってきてからは戦うようになって、魔獣も人も含めて何度か。でも防御とサポートばかりだから攻撃はって感じ」

「う~ん……魔獣を見たのは向こうの世界にいた頃かな? ちゃんと戦い始めたのは多分三年前からかな?」


 岬の問いかけに円も愛成もあっけからんと答える。

 愛成は確かに向こうの世界出身だったこともあって理解はできたが、こちらの世界で育った円については岬は驚いていた。


 だが、それ以上の情報が翔平からもたらされた。


「庚輔は魔法使いになってマナ操作覚えてからやから……九歳くらいやなかったっけ?」

「うん、そのくらいよ」

「え゛……」


 十分中学生からということでも驚けたのに庚輔は小学生から戦いに身を置いていると聞かされたのだ。

 驚かないわけがない。

 そんな岬へ円は苦笑しながら補足をつける。


「あ~……庚輔は例外だよ例外。あそこの家庭がかなり特殊だっただけだし」

「そうなの?」

「うん、あいつに魔法を教えた従姉が実戦主義者でね。夜天の灯台(ここ)に来る前まであいつはずっと戦いの中に身を置いてきたのよ。だからあいつは多少ずれてるとこあるし、偶に変にこじれることあるけど許してあげて」

「その人は今は?」

「さぁ? 庚輔が十二歳の時に行方不明になって以来音沙汰はないよ。庚輔も何も言ってくれないし。ただ、夜天の灯台に入りたいとわたし達の前に姿を現した時は半死半生だったってことくらいかな。だからわたし達もあいつにそのことはあまり深くは聞けないの。わたし達は……色々と事情抱えてるから」


 幼馴染らしく庚輔のことをフォローする円に岬は言葉を失う。

 今朝も似たような言葉を円から聞いているからというのもあるが、それ以上に最後の言葉でやはり夜天の灯台には様々な事情を抱えた人が居るのだと再認識させられたのが大きい。


 言葉を発しようとしない若菜。異世界からの来訪者である愛成。幼い頃から戦いに身を置いていた庚輔。


 この三人だけでも十分岬にとっては重たい過去を背負ってるのだと思える。


「基本的に一般人から魔法使いになろうとする人間なんて特殊な環境にいたか、両親が魔法使いか、岬みたいに魔法使いの才覚があったかのどれかだからね。ぶっちゃけ普通の事情で魔法使いになるような人はほとんどいないよ。それに同情して欲しくてこの話をしたわけじゃないから」


 声音の変わった円に岬は生唾を飲み込む。

 怒っているわけではないが、どこか円は威圧的になっており、その雰囲気に圧倒されたのだ。


「これだけは覚えておいて。魔法を習得してもできないことはできない。科学的に超常の力と言われる魔法でも世界の理には反することができないよ」

「それは……」

「わかっていると本気で思ってる? 理解できると本気で言い切れる? あなたはそういう極限の葛藤を抱いた経験すらしていないのに?」


 後部座席から放たれる威圧感に岬は完全に黙り込んでしまう。

 振り返ることすら憚れるため表情は一切見えないが、例え正面向かって話していたとしても円の瞳をまっすぐ見れる自信が岬にはなかった。

 円の言うとおり岬はそういう極限の葛藤を抱いたことはない。


 わかった気になることは簡単だ。


 魔法はただ単に科学とは別側面の手段。物理法則と同様に魔という科学の外側にある法則にしたがっているだけに過ぎない。

 法則へのアプローチの仕方が違うだけで世界の理から外れているわけではないのだ。


 その程度、確かにわかった気になることは容易い。


 だが、もし岬が極限の葛藤、例えば誰か大切な人が死んだとして、果たして岬はその人物を蘇らせようとしないと言い切れるだろうか。

 科学の力ではできないことはわかりきっているが、もしかしたら魔法ならと思わないと言い切れるだろうか。


 無理だ。


 そこまで諦めのいい人間じゃないと岬は自己評価する。

 絶対にあがく。蘇らせようと禁忌に走るか、復讐しようとただひたすらに暴力を振るうか、何かしらの状態で暴走することは確実だ。


 そこまで行き着いた岬は呼吸すらも忘れたように思いつめた表情へと変わる。

 さすがにこれは見過ごせなかったのか、ここで翔平が水を差した。


「円っち」

「ごめん。ちょっと言い過ぎた。でも、本当に覚えておいて。魔法にもできないことがあるって」

「…………うん」


 岬の返答と共にその場に微妙な空気が漂う。


 そんな中、翔平は徐に口を開いた。


「そういや、もうすぐアイツが帰って来るで」

「アイツ?」

「オレの親友で円っちの彼氏や。良かったな。帰ってきたらあんなことやこんなこと色々できるで~。何ならその日の晩はみんなで三彦さんの自宅にお世話になっても……」

「うるさいっ! 余計なお世話よっ!」

「あだっ! ちょっ! オレ年上で運転中!」

「知るかっ! そんなこという人を年上扱いできないし! それに止まってるタイミングだから大丈夫」

「確信犯!?」


 運転手で年上――円は十五歳で翔平は二十歳――にも関わらず遠慮のない一撃を入れる円。

 だが、その顔はこれでもかというほど真っ赤で、先程の雰囲気は一切消えていた。

 どうやら弄ることは得意でも弄られることは得意ではないらしい。

 岬も愛成も気付けばそんな円を微笑ましそうに見ており、いつの間にか車内の雰囲気はどこか穏やかなものへと変わっていた。

自分の小説。ハーレム作りません。

せいぜい三角関係になるかで、他にカップルができたりしてます。


それにしても……大学生を足蹴する高校一年。

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