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クロスオーバー・オールディネ  作者: 花粉症
少女と少年の出会い
14/26

第十四話:人魚と雪女

ようやく召喚魔法を使います!

長かったよ~!

 これでいいのかと多少混乱した様子で庚輔に問いかけられた岬だが、彼女はまるでそれが自然なことかのような表情をして答える。


「ええ、イリスもこれがいいと言っているわ」

「そうか……いや、幻獣がそういうならそれでいい」


 本人が望んだことならそれでいいと庚輔は言いながらも、どこか釈然としない。

 当然ながら、魔法使いになろうとしている岬は水入り水晶の価値を希少品としての価値しか知らない。それ以外を知るわけがない。

 つまりこの選択は確実に幻獣の意思によるものに他ならない。


 だからこそ、何かとんでもないものを引き寄せてしまったのではないか。別の存在の介入があったのではないか。庚輔は頭の隅でそう思えてならないのだ。


 しかし、それでも幻獣が、岬が選んだのならと庚輔は考えて肩を落とす。


 別にランク九以上の幻獣を召喚したという前例が無いわけではない。

 ただ、その数が絶対的に少なく、そのほとんどが魔法的な意味で世界が荒れた時代のものなだけに過ぎない。


『強大な能力を持つものは危険人物』


 そんな盲目的な考え方を魔法使いはしてはいけない。

 それでは魔法使いを力だけで敵視する魔祓い師と同じ。


 大袈裟に言えば、岬は「ちょっと強力な《媒体》で強力な幻獣を使える稀有な才能を持った人間」ってだけなのだ。


 更に岬はこれから魔法使いになろうとする雛だ。ここで変にマイナスの考えになる意味など無く、ちゃんと魔法使いとしての教育をすれば真っ直ぐ育てることができる。


 もし岬が危険人物となる場合、それは育て方を間違えたかそれ相応の理由となる。


 だから庚輔は今一度肩の力を抜くと若菜へと視線をやった。


「若菜先輩、岬さんが選んだ《媒体》の加工用は?」

「…………(スッ)。…………?」

「ええ。それにこの件は俺が預かってるので」


 一度廊下側を指差してから庚輔に意味ありげな視線をやる若菜。

 彼女の言わんとすることを庚輔は理解し、逆にしっかりと頷き返す。

 先輩として、師匠として自信があるとは口が裂けても言えない。だが、それでも庚輔は先達として岬を導くと決意していた。


 庚輔の覚悟を見やった若菜も、これに関しては専門外であることもあり、庚輔の意思に従って彼の言う通りに岬の手元にあるサンプルではなく本番用の《媒体》を取ってきた。


「さて、長々とした理屈等の説明は終わりにしてそろそろ魔法を使おうか。体力は大丈夫か?」

「ええ。問題ないわ」

「そうか」


 庚輔の問いかけに岬はどこか楽しげな様子で答える。

 脱線に脱線を重ねた末にようやく魔法を使う段階に入ったのだ。嬉しくないわけがない。


「やっりぃ!」

「ようやくね」


 それは岬の連れる二人の幻獣(イリスと菖蒲)も同様である。

 特にイリスは岬の周囲を嬉しそうに動き回ってその喜びを露わにしていた。


「これから行うのは当然ながら《魂魄契約》をする儀式だ。手順は比較的簡単。岬さんが幻獣の二人にお願いして出してもらった魔方陣の上に《媒体》を置き、両者で《媒体》に己を通したマナを注ぐだけ」

「そんな簡単に? あとマナを注ぐって」

「本来はもっと手順があるし、他にもアイテムや試験もあったりする。これは岬さんが既に幻獣の二人と仮契約してるから簡単なだけだ。マナに関しては問題ない。今回は俺が収束したマナを岬さんの身体を通して注ぐ」


 岬の問いかけを全て庚輔はあっさりと答えるとアタッシュケースを若菜に任せて岬の斜め後ろに立つ。


「ちょいと肩を失礼」

「ひゃっ!?」


 どうするのだろうと疑問符を浮かべる岬に対して、一度断りを入れて岬の肩に手を置いた。

 唐突に置かれた手と微妙に首筋に触れる親指の感触に岬は思わず変な声をあげてしまう。


 だが、マナを岬の身体に通して注ぐには岬に触れていなければならなく、更に今回は調整を行う必要があるが故に岬の肌に直接触れている必要があった。


「ちょっと!」

「これで俺の準備は終わりだ。あとは岬さんのタイミングで始めてくれ」

「わ、わかったわ」


 完全な不意打ちの行動ではないにせよ同い年の異性から突然肩に手を置かれ、尚且つ素肌に触れられるというのは年頃の少女としてはかなり恥ずかしい。

 さすがに文句の一つでもと庚輔の方を見た岬だったが、庚輔に告げられた言葉で少し勢いをなくす。


 岬の肩に手を置いて集中する庚輔の表情は真剣そのもの。

 それこそ煩悩の入る余地なしとも言えるほどに集中していた為に岬は言葉を飲み込むことにしたのだ。


 ちなみに庚輔は庚輔でこの行動に恥ずかしさを感じていないわけではない。

 命懸けの環境にいるが故に大人びてはいるがまだまだ思春期の少年である庚輔が美少女ともいえる岬に触れることに恥ずかしさを感じないはずもない。


 それこそ唐突なともいえる行動をしないとお互いにぎこちなくなり、なあなあとなってマナの調整と魔法の行使に集中できなくなるまで想像できるくらいには恥ずかしがっている。


 だから庚輔は文句を言われる覚悟をしながらも唐突な行動で恥ずかしさを押し殺していた。


 そんな庚輔の内心を知らない岬だったが、自分自身もこの状態で居続けることには躊躇いがあったためにすぐに二人へ確認を取る。


「イリス。菖蒲。いいかしら?」

「モチのロン!」

「僕も構わないよ」


 自信満々に頷く二人の様子に小さく笑みを浮かべた岬は両手に持った《媒体》を意識して告げる。


「では、始めます」


 岬の言葉が紡がれた瞬間、岬の持つ二つの水晶を中心として蒼色と水色の二つの魔法陣が展開された。

 先の説明にあった通りイリスと菖蒲が互いの契約に使う《媒体》を通して魔法陣を展開しているわけだ。


「じゃあ、マナの注入始めるぞ。まだマナの感知は難しいかも知れないがなるべく己に流れる力を意識しろ。それがマナ操作技術の会得に繋がる」

「はい」


 言いながら庚輔はゆっくりと岬の身体にマナを集めてから《媒体》にマナを注ぎ始める。

 岬は言われた通りに目を瞑って庚輔の指示通りに意識を向ける。


 自分の周囲、庚輔が触れている部分、両腕、両手のひら。


 それぞれに意識を向ける。

 当然のことではあるが、そうそう容易く感じるものではない。

 一般人で言うなら空気の重さを感じろと言われているのに等しいのだから。


(これ……かな?)


 だが、庚輔に末恐ろしい才能があると評された岬はすぐに己の中を駆け巡る何かを感じだした。

 熱いような冷たいような。曖昧な熱を持った何かが庚輔の触れている部分から最短距離で両腕に流れ、そして手のひらに触れている部分から《媒体》に流れ込んでいるのがわかる。


 それに気づきさえすればあとは早い。

 肌の表面を同じように温度を持った何かが漂い、庚輔の触れている部分に向かって流れているのが感じられる。


(もどかしい……)


 何故そう思ったのか岬にもわからない。だが、今の現状が岬にはとてももどかしいものに思えたのだ。

 だからなのか、岬は《媒体》を乗せる手のひらに集中する。


 今この両手はマナを供給する動線だと自分に言い聞かせてそのようにイメージする。

 無論その程度でマナの操作は可能になるわけがない。例え才能のある人間だとしてもそれなりに試行錯誤はしているのだから。


 だが、岬のこの行動は庚輔にとっては好ましいものではあった。

 正直に言えば岬がマナを感知しやすいようにわざとゆっくり動かすのは骨が折れる。


「そろそろ終わらせるぞ」

「え?」


 庚輔がそういうと同時に流れ込むマナの量が増え、次の瞬間に岬はずれていた何かがきっちりと当てはまったように感じた。

 それは契約が完了した証であり、イリスと菖蒲が岬の魂と一体になった証である。


 魂から感じられる二つの存在に思わず岬は己の胸に手を当てる。


「これが、そう……なのね」

「今までも会話できていたのだろうが、これからは思考で会話が出来る。それに存在が確定したことで自由に召喚送還が可能だ」

「そうなの?」

「ああ、《通常契約》はいちいち「召喚、ハティ」のように詠唱を入れる必要があるが、《魂魄契約》はその必要がない。ま、多少の例外はあるがな」


 肩をすくめながら庚輔は岬に召喚してみろと告げる。

 ついにこの時が来たと顔を綻ばせた岬は思考内で二人に呼びかける。


(二人共出てきてくれる?)


 すると返答する暇も惜しんだのか、言葉を終えるまでに再び魔法陣が展開されて蒼い鱗と瞳と長髪のマーメイド――イリス――とボブカットの白髪に蒼い瞳を持った真っ白な着物の少女――菖蒲――が現れた。

 ちなみにイリスはその身体的特徴からか宙を泳ぐように浮いている。


「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」

「あ、いきなりイリスがすみません」


 召喚されるやいなやハイテンションなイリスと額を抑えて謝罪する菖蒲。

 そんな二人を見て庚輔達は「これが岬の幻獣か」と思うと同時に「あぁ……これまた賑やかな」と達観した感想を抱く。


 ただ、各々がそんな感想を抱く中で一人だけ反応が違っていた。


「へぇ~……幻獣のマーメイドと雪女って私の故郷のと比べてもあんまり変わらないんだ~」

「「わぁっ!?」」

「ま、所詮は次元や世界が違うだけで生物だからな。基本的な所は似通ってくるだろ」


 いつの間に起きて近づいていたのか割と近くにいた愛成の反応に、さすがにイリスと菖蒲の二人も驚いて飛び下がる。

 岬も驚きはしたが、寧ろイリスと菖蒲がこちらに飛び退ったことに対する驚きのほうが大きい。

 だが、庚輔達は愛成のこの気配のない行動には慣れたもので、特に目立った反応をすることはなく愛成の感想に返す。


「ん~そんなものかな?」

「そんなもんさ。さて、三人共、これが召喚魔法だ。どうだ?」

「…………そうね。色々ツッコミを入れたい所はあるけれど、魔法としては割とあっさりしてて感動が少ないかしら?」


 契約が完了した時は確かに感動したし、イリスと菖蒲がこうして実態を伴って召喚できたことにも感動ができた。

 しかしながらその流れが割と簡単にあっさりしすぎてて「おおぉ!」といった感動が少ないのも事実である。


 そんな岬の回答に庚輔だけでなくその場にいた全員が苦笑して肩を竦める。


「本来は結構感動があるもんなんだよ? わたしだって初めて魔法使えた時はかなり感動したし」

「…………(コクコク)」


 どこか言いにくそうにする円とそれに同意する若菜。

 二人の反応に事情をわからない岬は首を傾げる。


 それに対して庚輔は補足のついでに事実を突きつけた。


「いや、魔法って結構修練が必要なんだ。今回あっさりできたのは元々岬さんが出生時に二人を召喚してたことが大きい」

「えっと、つまり」

「ぶっちゃけると才能でその辺の修練大半ぶっちしてるから感動が少ないんだと思う」

「………………」

「………………」

「なんか、ごめん」


 結局才能でゴリ押したという庚輔の言葉とその言葉を否定しない他の三人のなんとも言えない表情にいたたまれなくなった岬だが、ここで変な言葉を返すとただの嫌味にしかならないことを理解しているがゆえに謝ることしかできなかった。

ぶっちゃけ岬には才能あります。

チートではなくれっきとした才能なので無双とかしないです。

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