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クロスオーバー・オールディネ  作者: 花粉症
少女と少年の出会い
12/26

第十二話:純なる心を宿した物

《媒体》について説明しないとね~……。

 岬が完全な契約を結べていない理由。それを庚輔は魔法を教える上で岬に提示する。


「不完全な契約の原因は単純に契約を仲介する《媒体》がなかったことと、物心付いていない赤ん坊が召喚したことによる意思疎通の不十分さの二つ。後者に関しては問題はない。だから前者を決めていこうと思う」

「あの、《媒体》ってどうやって決めるの?」


 解決策を提示した庚輔に岬は根本的な質問をする。

 今まで召喚魔法や魔法については説明されたが、魔法を発動する為に必要な《媒体》については無機物としか説明されていない。


 その状態でいざ決めるとなっても条件が分かっていないと決めるものも決めれないのは当然のことだった。


「そうだな。召喚魔法に使われる《媒体》の条件は無機物というのはさっき説明した通りだが、もう一つ重要な条件がある。それは『純なる心を宿した物』だ」

「純なる心を、宿したもの?」


 妙な言い回しに岬は首を傾げる。

 言いたいことはわかるのだが、どことなくイメージがしづらい。

 『純なる心』は単純に『純粋な心』と訳すことができるが、ならその『純粋な心を宿した物』とは一体何かと問われれば首を捻るしかない。


 しかし、実際はそこまで難しい話ではなかった。


「単純に考えたらパワーストーンのことだな。宝石やら石などといった意味を持つ鉱物。これが《媒体》になる。当然ながら一定以上の大きさ、だいたい直径一センチの玉の体積以上でないと意味はない」


 ちょうどこれくらいだなと言って庚輔はハティを召喚する際に使った玉を取り出した。

 庚輔の持つ玉の直径は一センチと二.五ミリ。ギリギリ条件を満たす大きさである。


「《通常契約》は術者が《媒体》を決定する権利を持っている。《魂魄契約》に関しては身も蓋もない言い方するなら感性だ。幻獣と岬さんが気に入った物が《媒体》となる」


 言いながら庚輔は玉とは逆の手に持っていたペンデュラムを掲げた。

 振り子運動しながら朝日に照らされるそれと比べると左手に持った玉はどこかチープさを感じさせる。

 その違いを岬が見抜いたことを庚輔は感じながら説明を続ける。


「例えば俺のこのペンデュラムの先の水晶はフェンリルと俺が気に入ったものだ。契約の際に提示し、お互いに決めたやつを加工したものだな」

「じゃあ、こっちは?」

「ああ、こっちはただのガラス玉。俗に言うビー玉だ。百均で買った」

「はぁ!?」


 あっけからんと言われた言葉に岬は教えを請う立場であるのも忘れて叫ぶ。

 何かしらの意味を持った石なのかと思っていたが、まさかただのビー玉で、それも百均で売ってる市販品とのたまうのだ。

 それで叫ぶなというのは少し無理がある話だった。


「あははははっ! やっぱりそういう反応するよね! あはははははは!」


 いきなり聞こえてきた爆笑に二人とも視線を向けると円は腹を抱えて爆笑していた。

 傍にいる愛成のことを考えない声量なのだが、愛成はうるさいなというように身動ぎしただけで起きる気配はない。


 そんな両方に岬は呆気に取られていると、急に円が真剣な表情になって庚輔に尋ねる。


「庚輔、それ教えていいの? 下手すれば召喚術士のほとんどが絶望するやつなんだけど」

「ああ、構わない。というか岬さんはここに所属することになるし、俺が教えるなら結局こうなる」

「まぁ、それもそっか」

「あの、それほどのこと?」


 おずおずと手を上げながら質問する岬。

 そんな彼女の質問に一度庚輔と円は顔を見合わせてから、庚輔が円にふった。

 円も「えー」と言いながらも面白そうに笑いながら説明し始める。


「えっと、すっごい俗物的な生々しい話になるんだけど、パワーストーンってどんなに頑張っても百回くらいしか召喚できないの。で、庚輔が使っているビー玉は一回か、超絶に運がよくて二回。条件ギリギリの安物のパワーストーン一個でだいたい三百円で、これだと十回くらいかな? それに対してビー玉はだいたい一個四円前後。《通常契約》はやられること前提の契約だから使い捨てが基本で、一個の《媒体》につき五回使えれば御の字、更に状況的には五体から十体を同時に使うってこと考えればコスパ的には百倍どころではない差額ね。もちろん性能差は出るけど、強度と攻撃能力がダダ下がりくらいで、追跡や監視などといった隠密系に使うならよく言う霊的な気配が少ないから寧ろこっちのほうが性能は上で、壊れても所詮ガラス玉だから特定は難しい。追跡隠密に関して言えばいいこと尽くめね」

「その代わりに大量に持つ必要があるがな」


 俗物的な二人の説明に岬はドン引きしていた。

 確かに理屈で言えば間違っていないし、理解もできる。

 今まで消費してきたものが実は金銭的な意味で無駄だったことを知れば確かに絶望するだろうが、画期的?な手段なのは岬も否定はしない。


 だが、魔法というものを扱う上でそれはいいのだろうかと思わずにはいられない。

 この辺は『魔法は神秘的な特別な技術』というイメージが強い岬と、『魔法は所詮手段』と考え成長してきた二人の認識の違いが大きく作用していた。


「一応言っておくが、ちゃんと《媒体》としての条件は満たしているぞ?」

「え?」

「『純なる心』というのは石言葉とかそういうのだけじゃない。例えば『願い』や『想い』という心や、歴史や曰くという心に繋がるものも魔法を使う上で重要なファクターだ。極端な言い方すればその辺の石ころでも、誰かの強い想いを宿していればそれは魔法の《媒体》足り得るものとなる。言うなら『一途な想い』というのが『純なる心』というわけだ」

「じゃあ、ビー玉はどういうものが宿っているの?」

「一言で言うなら『遊び心』や『楽しむ心』だな。ビー玉というのは昔から子供のおもちゃだ。弾いたり転がしたりとな。いつからそうなのかは定かではないが、百年くらい前には既に存在していた。そしてそれは現代でもインテリアなどというようにデザインの遊び心として使われている。陳腐なものと思えるが、魔法的な観点で見れば十分に価値のあるものだ」

「でも市販品よね?」

「そうだな。だから魔法的な強度や攻撃力は少ないし、気配も少ない」


 そう言うと庚輔はいたずらな笑みを消す。

 ここまでは庚輔にとっても雑談交じりに話しても問題のない部分ではある。

 だが、これから話すことは今後魔法に携わるものとして重要なことだ。


 雰囲気が変わったことを感じ取った岬も真面目な表情となって庚輔に向き直る。


「《媒体》を選ぶ上で重要なものは感性だとさっきいったな? 実際それは間違っていない。今回は俺達が予め選定したものの中から選んでもらうからな。だが、今後自分で《媒体》を選定しなくてはならなくなった時、『起源』『歴史』『価値または希少性』の三点に注意しろ」

「『起源』は生まれた理由や目的で幻獣との相性。『歴史』はどういう経緯を経たかで幻獣の能力の強さ。『価値または希少性』は金銭を含めた一般的な価値のことで幻獣の強度と攻撃力に直結していると言っても過言ではないからね」


 二人の説明に岬は神妙に頷く。

 庚輔の言葉にあった通り、岬がそれを行うのは今後のことで彼女自身もどうなるかわからないしイメージもできない。

 もっと言えば実際にそういう立場になってみないとわからないというのもある。


 それが早いのか遅いのか、本当にそういう時が来るのかは分からないが先人のこういった言葉は重要なもので、頭の片隅に置いておくだけでも大きい意味合いを持っていた。


 だから岬は先人の今後のアドバイスとしてそれを受け入れることにした。


 岬にとって何もかもが未知のもの。いざその立場になることはなかったとしても必要になるかもしれないと思って。

ビー玉を《媒体》に使う魔法使い……こうかくとめっちゃショボくなるw

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